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戦艦越後太平洋戦記  作者: 賀来麻奥
絶え無き戦闘
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夜明けのマリアナ沖

 〇七〇〇「味方の艦隊じゃないのか?友軍だ!」ワッと歓声をサイパン島の駐留日本人はあげた。 サイパン島は第一次世界大戦終了後日本が委任統治国となり、以後は開発が進められている。そのためには住民が必要である。サイパン島には軍事施設のほかに住民が住んでおり学校さえもある。

 第二次世界大戦が始まり重要な根拠地の一つとなったが、日本軍はソロモン方面までも侵攻しいつしか後方陣地となっていた。

 だが今やニューギニアはアメリカ陸軍が上陸しポートモレスビーには航空隊が駐在している。大本営はニューギニアを破棄し援軍を打ち切っている。じりじり押し返される日本軍。今となってはこのサイパン島が前線となっている訳である。

 遂に始まった敵機の攻撃に航空隊が屈強な抵抗を見せるが多勢に無勢、空襲を幾分か既に受けている。

 

 その時に帝国海軍がやって来るとサイパン島に連絡が来た。無論島の陸海両軍、さらには知らせを受けた住民をも狂喜した。

 

 そして今、沖を見に来たサイパン島の住民の視界内には軍艦が何十隻と並んでいた。

「万歳!万歳!万歳!」と誰かが叫ぶ。つられて他の住民も万歳と手を上げ喜ぶ。その時陸軍兵士が二個小隊ほど引き連れてきた。二個小隊ほどになっているが実は元大隊であった。大隊長と思われる男が前にズカズカとやってきて双眼鏡を取り出し艦隊を見る。

 「んー」と唸った。そして体をビクリと少し動かした。

「全員!この場を大至急離れろぉ」大隊長は叫んだ。住民は困惑したが軍がそういうのだから仕方が無い。駆け足で退避する。大隊もその場を離れようとしたときパッパッと海面が光った。

 不気味な音が響いてきた。刹那…。激しい音を立て先ほどいた場所がごっそりと吹き飛ばされた。後を追うように次々と砲弾が周囲に落下した。駆逐艦や巡洋艦が一斉に砲撃し始めたのだ。

「敵艦隊だぁ!大隊は住民を退避させろぉ」大隊長は声を張り上げる。その声を掻き消すように敵の砲弾は何十発、何百発とサイパン島を襲った。


 〇七一〇 F6Fヘルキャットが何十機と上空を舞い人影らしきものを見つけると機関銃をこれでもかと撃ち込む。艦砲射撃とほぼ同時に始まったこの戦闘機による地上掃射は大きな戦果は得れなかったが精神的に追い込むには十分な効き目があった。

 日本軍は海面を放棄し内陸に逃げ込んだ。四万名近い日本陸軍は山の中での戦闘を試みた。


 〇七二〇 海上では米軍の哨戒機が飛び回り日本艦隊を捜索していた。ウィリアム・パイの率いる第三艦隊がたった一回の夜戦ほぼ全滅し指揮官も戦死したため米軍は怒り狂っていた。

 

 〇九〇〇 艦砲射撃を終了し三〇分がたった。その時間サイパン島上陸が決行された。

 海面を埋め尽くすように上陸用舟艇が次々島に近づく。第二海兵隊六〇〇〇名が猛烈な射撃の後に上陸した。砂浜を這って進むが敵からの攻撃が全然無い。「奴等、全滅したんだ」中隊長クラスの人間が言った。近くには破壊された兵舎がいくつも見えた。

 「第一分隊、前へ進め!」十数名の兵士が立ち上がりサイパン島内部へと進んだ。それでも撃ってこないのを見ると隊長は五〇名を前へ進めた。

 全く敵が撃って来ないのに不気味さを感じながら、五分の間に連隊がサイパン島内陸へと進んだ。彼らは三〇分後、森の中でけたたましい銃声を聞きつつなぎ倒されることとなった。



 南雲率いる機動部隊は第一/二戦隊の報告してきた戦果を聞いて喜びに湧いた。航空機でなく戦艦に先を越されたがそれを忘れるほどの大戦果である。

 なにしろ戦艦五隻の内三隻を撃沈させ、残る二隻の内一隻は大破しているとのことである。

 その後潜水艦より敵戦艦二隻に雷撃を敢行し一隻を撃沈したとの報告が飛び込んできた。 日本艦隊の気分は天に昇った。


 しかし、その時米軍の哨戒機が第一機動部隊を捕らえた。直ぐに震電が迎撃に上がり撃墜するが場所が知られてしまったのは隠しようも無い事実である。

 だが喜報は再び来た。九八式水上偵察機が敵機動部隊を捕らえたとのことだった。だが敵艦の全貌を打つ暇も無く撃墜されたらしく電報は直ぐに途絶えた。


 一〇〇〇 第一強襲部隊・第一次制空隊が次々空母の甲板を蹴り発進していった。強襲隊は機動部隊を制空隊はサイパン島の上空の防衛、状況に応じ機動部隊の援護が行われることとなった。

 一〇三〇 第二次強襲部隊が空母より飛び立った。その時第三戦隊の九八式水上偵察機が敵攻撃隊を発見したと報告してきた。第三戦隊は九八式水上戦闘機を九機発進させた。

 第二次強襲部隊は爆撃機を後方に非難させ戦闘機を出し迎撃した。


 一〇三五 第一次強襲部隊は上空から一斉に銃撃を浴びた。三機が火達磨となり墜落していった。「敵機だぁ」

 F6F戦闘機が一二機が急降下し襲い掛かってきた。九六式がこれに対抗する。しかし速度が違いすぎたため爆撃隊を守るのが遅れた。戦闘機にやられ爆撃機が火達磨へと変わっていく。

 ようやく九六式戦闘機が抗戦し始めたときは半数がやられていた。格闘戦に持ち込めばこちらのものだが敵は速力の優位を生かして当て逃げを繰り返してきた。

 だが幸運なことに雲の切れ目から航空母艦らしきものが見えた。残った軽爆撃機部隊はここぞとばかりに急降下で突っ込んでいった。

 命中弾が期待できるのが上空から見てわかった。


 だが、直後砂を掴み投げられたような数の火線が上空に撃ち込まれた。何の冗談かと思った。幾百、幾千の弾丸がことごとく命中しバタバタと軽爆撃機が落ちていった。

 目をこすり確認するが…。僅か一〇秒足らずで軽爆撃機が全滅した。一体何が起きたというんだ。俺は訳がわからなくなり急旋回しそのまま編成隊から離脱した。もっともその時は既に三機程度しか残っていなかった。俺の名前は武藤一朗。地獄を見た。焦げた空から逃げ出した俺は生気のない、まるで人形のような相貌で帰った。

 悪夢だ。俺は発狂しそうになった。自分たちの編成隊が一瞬で全滅した。俺は先ほどの地獄の映像を何度も頭の中で繰り返し見た。

 

 帰投した時、味方空母が一隻少ないことも気に留めずに俺は無表情で着艦した。

 飛行長が駆けつけてきた。一分ほど何も言わなかった。

 ようやく言葉が出た。「全滅しました」と。その言葉通り第一次強襲隊は遂に俺を除き一機も帰らなかった。

 全滅した強襲部隊。そして驚愕の事実を突きつけられる搭乗員たち。過酷な現実が日本艦隊を包み込んでいく。決断を迫られ遂に日本艦隊は撤退を決意した。

 一方大陸では中国国民党に歩みいく日本人の姿。そしてソ連も大陸で再び動きだす。欧州戦線も崩壊のときを迎えていた。越後は日本陸海軍は日本を守れるのか?

 WW2はそもそも何故始まったのか?人は何故争うのか?


 次回「破滅へのいざない」更新予定日 1月30日

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