表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

第16話:深夜の執刀 — 夢見る聖者の無意識領域 —【後編】

「……ん、ふわぁ……。リナ? また夜食のプロテイン持ってきてくれたの……? 今度はバニラ味が――えっ!?」


目を開けた瞬間、セイマの網膜に飛び込んできたのは、純白のコートを翻し、八枚の刃物を自分に向けて振り下ろそうとしている「銀色の不審者」だった。


「処置――十文字斬り!」


「(誰ぇぇぇ!? 怖い怖い怖い!!)」


セイマは驚いた表情をしながら、全身の毛を逆立たせてベッドから転げ落ちた。


だが、その無様な「転落」の際、重力に逆らおうと咄嗟に掴んだのが、スカルペルが立っていた場所のシーツだった。


セイマがベッドの下へ落ちる自重によって、シーツが猛烈な勢いで引っ張られる。結果的に、シーツの上にいたスカルペルは完全に足元をすくわれる形となった。


「――くっ!?」


体勢を崩したスカルペル。その指先から放たれた必殺の十文字斬りは、狙いを大きく逸れ、天井のクリスタル・シャンデリアへと導かれた。


ガシャン! という凄まじい破壊音と共に、豪華な装飾が粉砕され、部屋中に星屑のようなガラスの破片が降り注ぐ。


「……ッ、なぜだ! 寝ている時より、起きている時の方がさらに予測困難だと……!?」


スカルペルは驚愕した。


セイマはベッドから転げ落ち、引きつった表情で壁際まで後ずさるという、およそ「強者」とは程遠い回避行動。そのことが、スカルペルの精密な外科的計算を、まるでゴミ箱に捨てるかのようにことごとく粉砕していく。


スカルペルの目には、セイマが壁に背をつけ「来ないでください!」と心臓ドキドキしている姿さえも、『反撃の隙を伺い、相手の油断を誘うために計算し尽くされた高度なブラフ』に見えてしまっていた。


「師匠! ご無事ですかぁぁぁ!! 今、助太刀に参りますぅぅ!!」


騒ぎを聞きつけたルッツが、一階のロビーから天井を突き破るかのような勢いで駆け込んできた。彼は半裸のまま、愛用の戦術ナイフを抜き身で構えている。


「ルッツ……! いいところに!(助けてー、この人本気でヤバいから!)」

セイマは必死にルッツの背後に隠れた。


ルッツは、スカルペルの凍りつくような構えと、部屋の惨状――一歩間違えれば細切れにされていたであろう深い斬痕――を見て、全身に戦慄を走らせた。


「……これほどの『死の領域』の中で、師匠は……寝起きの状態で全てをいなしたというのか。しかも、一滴の血も流さず、パジャマの一枚も切り裂かせずに!」


スカルペルは、冷徹な仮面をかなぐり捨て、忌々しげにメスを収めた。多勢に無勢。何より、自分の論理がこれ以上通じない恐怖が、彼の冷静さを奪っていた。


「……本日の診察は、終了です。神月木セイマ……君という『不条理アブソルート』、いつか必ず生きたまま解剖してみせる」


スカルペルは、駆けつけたリナのプラズマ砲が火を噴く直前、特殊な閃光弾を炸裂させ、霧のように消え去った。


数日後。マイルズ・キャラウェイはこの事件を聞きつけ、狂喜乱舞しながら記事を書き殴った。


『眠れる獅子の覚醒:聖者セイマ、夢の中で死神を弄ぶ。その寝言は、新たな世界への啓示だった。彼は眼前の死さえも、日常の寝返りで否定してみせた』


一方、研究所のソファでは、セイマはリナに泣きついていた。


「リナ……もう、被験ボランティアとか、島での生活とか、やめてもいいかな? 命がいくつあっても足りないよぉ……。普通の大学生活に戻りたいよぉ……」


「ダメですよマスター。あなたの『日常』を邪魔する不純物は、この私が地獄の果てまで解析バラしてあげますから」


「師匠! 次回は寝ながらの戦い方をご教授願いたい!」と詰め寄るルッツを横目に、セイマは遠い目をした。


彼の平穏な生活への強い願いは、またしても、成層圏の彼方へと消し飛ばされていくのであった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ