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ホラー短編集  作者: 倉木元貴


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無縁ピラミッド 第1話

 その場所の噂を最初に言い出したのは、圭太だった。


「なあ、“無縁ピラミッド”って知ってるか?」


 放課後の教室。窓の外はもう薄暗く、冬の気配が忍び込んできていた。


「なにそれ、ゲームのダンジョン?」


 椅子を後ろに傾けながら拓海が笑う。


「違う違う。ガチの心霊スポット。山の奥にあるんだよ。墓がさ……ピラミッドみたいに積み上がってるらしい」


「は? 墓を積むって意味わからんだろ」


 俺――悠真は眉をひそめた。隣で真司も「聞いたことねえな」と呟く。

 圭太はスマホを取り出して、ある画像を見せた。


 そこに写っていたのは――石の塊だった。

 いや、よく見るとそれは全部「墓石」だった。


 一つひとつが普通の墓なのに、それが階段状に、まるでピラミッドのように積み上げられている。


 段数は……ざっと見て五、六段。いや、それ以上かもしれない。


 しかもおかしいのは、そのどれもが傾いていないことだ。


 無理やり積んだなら崩れそうなのに、まるで最初からそういう形で作られたみたいに整っている。


「これ、誰が撮ったんだよ」


「ネットに上がってた。場所は特定されてないけど、うちの県の山らしい」


「いやいや……これ合成だろ」


 そう言いながらも、拓海の声は少しだけ硬かった。

 圭太はニヤリと笑う。


「行ってみないか?」


 その一言で、空気が変わった。


「やめとけよ」


 真司が即座に言う。


「こういうの、だいたいロクなことにならねえ」


「ビビってんの?」


「ビビってねえけど、めんどくさいことになるのは嫌だ」


 拓海は興味津々の顔でスマホを覗き込みながら言った。


「でもさ、これマジなら結構ヤバくね? 普通に見てみたいわ」


 圭太が俺を見る。


「悠真は?」


 少しだけ迷った。

 正直、怖い話は嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 でも――この写真は、なんか違う。

 見ているだけで、じわじわと背中に冷たいものが這い上がってくる。


「……昼に行くならいいけど」


「夜に決まってんだろ!」


 圭太は即答した。


 その勢いに押されて、結局、俺たちは行くことになった。


♢♢♢


 その日の夜。

 俺たちは圭太の家の車で山へ向かった。運転は圭太の兄からこっそり借りたらしい。


「絶対バレたらヤバいやつだろ」


「大丈夫。とりたてだけど免許はあるから」


 軽口を叩きながらも、車内の空気は妙に静かだった。

 山道に入ると、街灯は一気に減り、ヘッドライトだけが頼りになる。


 ナビも途中で役に立たなくなり、圭太はスマホの地図を頼りに進んだ。


「この先に林道があるはずなんだけどな……」


 やがて舗装された道は途切れ、ガタガタの土道になった。


 タイヤが石を踏むたびに、不快な振動が伝わる。


「ここで合ってんのかよ」


「多分……」


 不安そうに圭太が呟いた、その時だった。


 ――ガンッ


 車が何かにぶつかった。


「うおっ!?」


 急ブレーキ。

 全員の体が前に揺れる。


「何踏んだ!?」


 恐る恐る外を見る。

 ヘッドライトの先にあったのは――


「……石?」


 道の真ん中に、ひとつの石が転がっていた。

 いや。違う。それは――


「墓石……じゃね?」


 誰かが言った。その瞬間、全員が黙り込んだ。

 こんな山の奥の道のど真ん中に、ぽつんと墓石が転がっている。


 ありえない。


「……誰かがイタズラで置いたんだろ」


 拓海が無理やり笑う。

 だが、その声は震えていた。


「……とりあえず、どかすか」


 俺と真司で車を降りた。

 夜の山は、異様なほど静かだった。風の音も、虫の声もない。まるで音そのものが吸い込まれているみたいだった。


 墓石に近づく。

 ライトに照らされたそれは、やはり本物の墓石だった。

 表面には文字が刻まれている。


 ――けれど、読めない。


 いや、読めるはずなのに、頭が認識を拒否している。


「なあ、これ……」


 真司が何か言いかけた、その時。


 ――コツン


 背後で音がした。振り返る。何もない。


「……今、音しなかったか?」


「した」


 俺は確かに聞いた。


 石がぶつかるような、小さな音。もう一度、周囲を照らす。すると――


「おい」


 真司が指差した。道の脇。

 さっきまではなかったはずの場所に、もう一つ墓石があった。


「……は?」


 全身に鳥肌が立つ。


「さっき、あそこになかったよな?」


「なかった……絶対に」


 その瞬間だった。


 ――コツン

 ――コツン

 ――コツン


 音が増えた。

 四方八方から、石が当たるような音が近づいてくる。


「戻るぞ!」


 俺たちは慌てて車に乗り込んだ。


「何があった!?」


 圭太が叫ぶ。


「いいから出せ!」


 エンジンが唸る。

 車が動き出す。だが――


「おい、前見ろ」


 拓海の声が、異様に低かった。

 ヘッドライトの先。

 

 そこにあったのは――無数の墓石だった。


 道を塞ぐように、積み上げられている。

 まるで、さっき写真で見た“それ”の一部みたいに。


「なんだよ……これ……」


 誰も答えられなかった。

 その時、車の後ろから――


 ――コツン


 音がした。振り向く。

 リアガラス越しに見えたのは、ゆっくりと積み上がっていく墓石だった。

 まるで、生きているみたいに。


「……囲まれてる」


 真司の声が震える。そして、最後に。


 車のすぐ横に――“人の顔”があった。


 石に埋もれた顔が、こちらを見ていた。口だけが動く。音は聞こえない。

 だが、その言葉ははっきりと理解できた。


 ――「足りない」


 次の瞬間。車のライトが、ふっと消えた。


 闇が、すべてを飲み込んだ。

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