出逢い3
「あの、何か...?」
相手の女性は顔を見つめるだけで応対しない俺に遠慮がちな声を向けてきた。女性のプロフィール、年齢25歳、職業CA、それに亜麻色のロングヘアを後ろで結っており、顔は全体的にとても小さい。目はぱっちりとした二重に、唇は薄い桜色をしている。容姿端麗と来て頭も良い誰が見ても"凄く魅力的"な女性だった。
頭の中で事前に見せられていた情報を思い出していく。確かに誰が見ても魅力的だが、一つだけ致命的な部分が存在してしまっている。この縁談には"裏"があるのだ。
向こうの家とこちらの家、両家共に"その"話は終えているようだが、俺はそれをどうしても許容することができなかった。所謂、"大人の事情"ってのが絡んでいる。
「いえ、すみません。お綺麗でしたので不躾にも見惚れていました」
「あはは、お上手なんですね」
笑顔が素敵な女性だ。明るいセミロングはその辺の男がほっておかないだろうというそんな魅力を感じる。とはいえ俺の心に一点の揺らぎも生じることはないのだが。
「先ほどの質問に答えますと、学生の頃に柔道を嗜んでおりました」
「まぁ。どうりでお身体が引き締まってらっしゃるのね」
「はは、ありがとうございます」
その後、たわいのない世間話をしていたところ、こんな所に追い出してくれた親達がそろそろ戻っていらっしゃいと声を掛けてきた。
「まぁすっかり仲良くなっちゃって!二階堂の息子さんも、うちの娘を気に入ってくれて嬉しいわ」
どうやら"そういうこと"にしたいらしい。俺は愛想笑いを浮かべるだけに留め、諸々の話を聞き流しながらドタキャンしてしまった飲み会のことを頭に置きながら相槌を打っていく。俺にとっての優先順位はここよりも"そこ"にあった。
ふとそんな俺に対し母が目配せをしてくる。暗にまたなのか?と言われている気がする。どう思われても嫌なのだから仕方がないことだ。どうしようもない。
「......さて、色々話も弾みましたし、顔合わせも無事に済んだということで、今日はこれくらいに
しましょうか」
そんな母の言葉で相手の母親は俺に話しかけ続ける口を止め、笑顔で母の方に頷き返した。
「そうですね!相性も悪くなかったみたいですし、次回はお食事でも入れさせてくださると嬉しいですわ」
「ええ、その辺も踏まえてまた後日調整しましょう」
俺を見ながら母はそんなことを言っていた。これはつまり同意しろということなのだろうか。嫌なことは分かっているはずなのに。ここで俺はついにため息を吐き出し言ってしまった。
「はぁ...善処します。すみません、体調が少し悪くなってしまったので僕はここで失礼させて頂きますね」
母、相手の母親、娘さん、ほぼ同時に俺の言葉で固まってしまった。ピシッとガラスにヒビが入るような音が聞こえた気がする。
僕はこれ幸いにとばかりに大広間から家から出て行った。母からものすごく着信が入るが流石に対応しきれないと放置して車のエンジンをかけ走り出す。
外はもうすっかり夕方になっていた。この時間ならまだ飲み会は参加できるだろうか。でもドタキャンした身でそれは都合が良すぎる気がした。
「どっちつかずというか...なんというか...本当に疲れるんだよな」
そんなことを呟きながら、今日はもう家に帰って寝てしまおうと自宅へ向けて車を走らせて行った。




