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20代最後のゲイのBL短編集  作者: 赤井獺京
『ラストクリスマス』

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『ラストクリスマス』4

あれから一年。あっという間に過ぎていった。あの日と同じように駅前で待ち合わせするためにわざと別々に家を出た。


そしてニュー横浜駅で待ち合わせた。あの日と同じダリーズ珈琲のテラス席でカインを待った。


「お待たせ」とカインが差し出したのは一本のバラだった。


「一周年記念、毎年一本ずつ増やしていくから」


「バカみたい」そう言いながら、胸の奥がくすぐったくてたまらなかった。


手をつないで駅前を散策しているとクリスマスマーケットが開かれていた。小さな出店が数十店舗と、そこら中に赤、緑、黄色の電飾が光っている。


「まだ十月なのに早いね」と彼が言った。確かに、と僕は思った。


トナカイやサンタクロース、靴下型の小さなオーナメントの沢山並んだお店やスノードームをびっしりと並べたお店、クリスマスはもう少し後だけど見ているとつい欲しくなってしまう。


僕は二十センチくらいのサンタクロースの置物が気になった。右手には星形のライトを持っていて赤、緑、黄色と点滅している。目はただの黒丸で特に個性のあるサンタクロースじゃない。


けれど手作り感があって、なんだかかわいく思えた。


「それ気になる?」とカインが聞いてきた。


「目が合った気がしたんだよね」と僕は言った。


クリスマスの飾りつけも毎年しているから買っても無駄じゃないし……、と僕が考えているとカインはそのサンタをお店のおばさんに渡した。


「それください」僕はカインを見るとウインクして言ってきた。


「記念日だし、目が合ったなら運命だよ。僕たちみたいに」そう言ってお金を払ってくれた。


僕が子供のころはまだ、男同士で手をつないで歩けば冷たい目で見られていた。


でも今はそんな目線は微塵も感じない。カインと出会えたのが今の時代であることは感謝したい。


あの日行った喫茶店を探すために駅から続く歩道橋を越えた。


確かこっちの方だったなと言って、カインは僕の腕を引いて一歩前を歩く。


人通りの少ないホテルやオフィス街の方へと進んでいく。しばらく探し歩くと周りには誰もいなくなった。


こんなに駅から離れていただろうか、と思ったときに小さな喫茶店は現れた。『ポティエ』という名前だった。


あの日は店名に目を寄せる余裕なんてなかった。ふたり掛けの席に案内されて僕はシングルオリジンのエチオピアコーヒーをカインはダージリンティーを頼んだ。


カインはいつも紅茶しか飲まない。僕は気になって聞いてみると彼は、イギリス紳士になりたいんだ、と言う。面白い、と僕は思った。


「それなら僕はアメリカ人になりたい。どうせなら、死ぬときは銃で撃たれたいんだ」と返した。


趣味も価値観も似ているわけじゃない。だけど、何かがちょうどよかった。穴が開いたり突起したりしているデコボコの心が、くっつくと不思議とぴったり嚙み合う感じだった。


だからこんなにも惹かれたのだと思う。


僕たちは思い出話に花を咲かせて、珈琲の湯気はとっくに消えて酸味が増していた。


 喫茶店を出て僕たちはゲームセンターに向かった。パチンコ屋の二階にある廃れたゲームセンターだ。


カインと僕が好きなカワウソのぬいぐるみがあった。三本爪のUFOキャッチャーだ。


この手の機械は一定金額いれないと景品が取れない。


カインは無言で百円玉を機会に投入した。真剣なまなざしでボタンを操作する。


アームがカワウソをめがけて下がって、がっしりと掴んだアームはカワウソを離さずに落とし口まで運んできた。


「よっしゃ」とカインはガッツポーズをして景品を取り出した。運がいいと、彼は喜んだ。そして僕たちはホテル街に向かって歩いた。


 ホテル街は閑散としている。昼間からホテルに入って行為をするカップルはあまりいないみたいだ。


空き缶の転がる道を進んでいくと真実の口のオブジェが見えてきた。僕はその口に手を入れた。「あっ、抜けなくなった」と腕を抜こうとする演技をしてみると、カインは冷たい目で僕を見て笑っていた。


道なりに進むとピンク色のホテルが見えてきた。そこが目的地だった。去年は夜だったから、このホテルがこんなにピンク色だなんて知らなかった。【本日三時間、休憩のみ】の看板は去年と同じく飾られたままだ。


三〇六号室の鍵を受け取って狭いエレベーターに乗り込んで三階のボタンを押す。扉が閉まると向かい合って僕からキスをした。ポンっと到着の音を合図に唇を離した。


「すぐ部屋なのに」とカインは言った。「待てない」と僕は言った。


 鍵を開けて中に入ると黒い三人掛けのソファとガラステーブル、その前に大きなテレビが置いてある。


その奥にクイーンサイズの大きなベッドがどっしりとかまえている。布団は皴無く綺麗に敷かれていた。ソファに荷物を置いてお風呂場とトイレを覗いてみた。


丸形のジャグジーバスだ。全部の扉を開けてみた。去年もきたけれど、新しいところに連れていかれると部屋中を探索する猫みたいだなと自分で思った。


ソファでくつろいでいるカインの前に立って、彼が僕を見上げるとその唇にキスをした。カインも立ち上がって唇を重ねたままベッドに移動した。


背中からベッドに押し倒して膝立ちでカインのお腹の上で馬乗りになる。片手でシャツのボタンを上から順に外しながら、もう片方の手でカインの柔らかい髪に触れる。


シャツを脱がせると彼はペロッと舌をだして「チューして」とせがんできた。僕は舌に吸いついた。


カインのベルトを緩めようと手間取っていると、我慢できないと言わんばかりに自分でズボンを脱いだ。首元から胸、お腹へと舌を這わせた。布越しに彼の恥部へと顔を寄せた。


「だめ、汚いから……」というカインの言葉に顔を上げてまたキスをした。ポケットからスマホが落ちていて画面が目に入る。入室してから三十分以上が経っていた。


「やばっ、まだシャワーも浴びてない」


「いつも一緒じゃん」と彼は言った。


そして僕を力強く抱きしめてからまたキスをした。


「ずっとチューしてるね」と彼は言った。この一年、何度も聞いたセリフだ。


キスだけでキス以上のことをしているような気持ちになる。何度繰り返してもまたやりたくなる。


三時間はあっという間に過ぎていった。少し早い夜ご飯にお寿司を食べて、帰りは一緒に家に帰った。去年とは違う。ふたりで同じ家に。

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