『きっかけはただの一目惚れ』完
急なことに何も処理ができなかった。
いや、怖かった。
俺の写真を持っていたことも。
晴人がゲイの掲示板をみていたことも 好きだと言われたことも 好きになりそうな人とは距離を置いてきたのに、好きにならないようにしていたのに、ばれないようにしてきたのに......
部屋につくと夕飯の匂いが漂っていた。どうやらカレーらしい。 荷物をベッドの下に落として倒れこんで、ばたんという音が響く。 現実味がないな・・何から考えよう。いや、とりあえず眠りたい。
空腹で目覚めてキッチンに行くとミュージックステーションの放送がちょうど終わって、好きなバンドが一瞬だけ映り、寝てしまったことを後悔した。
疲れてたのね、とよそったカレーライスとみそ汁をもってきてくれた母親に、ありがとうに続いていただきますと唱えてスプーンを口に運んだ。
半分ほど食べ進めたところでスマホを開いて某掲示板を検索してサイトを開く。
あの時の写真と誰でも募集とだけ書いて投稿をした。
スマホを閉じて、残りのカレーを食べ進め部屋に戻ろうとしたが、お風呂沸いてるよと母親に声をかけられ脱衣所に向かい、メールを開くと3件メールが届いていた。
タイトル 1786035 サ可能 足あり
タイトル なにしたいですか。舐めたい
タイトル さっきはいきなりごめんなさい。
掲示板の投稿を消して、3件目のメールに返信を送った。
今からお風呂入るから、1時間後にアサヒ公園に来れる? そう送って返信を待たずに体を洗い湯船につかる。
一瞬我に返った。
何してんだろ・・ と疑問を抱いたが、ただ感情で行動することに身を任せた。
髪を乾かして、メールを開くと1件新着メール 「いけます!」 公園の入り口から奥に進むと、砂場、滑り台、ジャングルジムと遊具とその間に街灯が並んでシーソーだけは遊べないように黄色と黒の紐でぐるぐる巻かれている。
奥のベンチと街灯が並んでいる場所の下に自転車を止め、近くの自販機で缶コーヒーを買う。 「先輩・・」 振り向くと、予定より15分ほど前だが晴人がきちんと制服を着こなして立っていた。
「急にごめん。何か飲む?」
「同じのでお願いします。」
「ブラックコーヒーだけどいい?」
「……紅茶で」
目を合わせて、思わず吹き出した。晴人もそれにつられている。
ベンチに並んで腰を掛けてお互いに1口飲むと、晴人が口を開いた。
「見学に行って、先輩見つけた時、あっ、運命だって。思っちゃいました。 掲示板で見かけて、一目ぼれして連絡できなかったから・・。ごめんなさい気持ち悪いですよね」
「そんなことない・・俺も晴人に一目惚れしたんだ。でも、どうせ叶わないから人を好きになるのは止めようって・・避けてた」
晴人が「えっ」と驚いた顔をしている。
「さっきも振り払って先に帰ってごめん。急なことに訳が分からなくなって」
「叶わない恋、しちゃダメですかね・・」真剣な目で俺の目を見つめてくる。
「恋愛のない恋愛小説だって、ホラーのないホラー小説だって自由ですよ。 叶うことのない恋だってしたっていいじゃないですか。 会うことなんてないと思ってたのに。 あきらめずに好きでいたから、こうして先輩に会えたんです」
体が自然と晴人の方に近づいて、首を少し左に傾けて重ねた唇の味に浸っていた。
紅茶の香りが鼻から伝わってきて、珈琲を飲んでいたはずなのに甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。
まるで柑橘入りのチョコレートを食べた時みたいに、幸福感に包まれた。
自分の中で考えなくちゃいけないことが全部どうでもよくなった。
テストのこと、大会のこと、将来のこと、キス一つしている最中にそんな不安は全部とけていなくなった。チョコレートを食べているときの高揚感を100人分まとめて感じているみたいに今はキスの事だけしか考えられない。
俺はなかなか口を離せずにいると、晴人からキスを終了させてきた。
『大胆ですね』と笑って続けた。
『流石、やり慣れていますね。掲示板使っているだけはありますね』
その言葉に少しだけムッとしてしまった。
『やり慣れてないよ。あれは投稿してみただけで……。実際には誰にも会っていない』出だしだけ語尾が強くなってしまった。
『本当ですか?』
『本当だよ、今のがファーストキス……』
『なら、僕と一緒ですね』そう言って晴人はもう一度キスをしてくる。
『……晴人の方がやり慣れてるじゃん』
『僕は漫画で勉強していただけですよ。こういうことしてみたいなって』
ゲイでも、恋は実ることがある。諦めていちゃ何も始まらない。
晴人の手を取って歩き出すと、どこへでも行ける気がした。




