『親友の死んだ理由』7
外したことは覚えている。中学一年生のプールの授業だった。あれは何回目かのプールの時で、男子は教室で水着に着替えていた。僕はクラスのサッカー部の友達数人と行動することが多かった。着替えの時もそのグループでまとまって着替えをしていた。
レイヤは……正直言えばクラスに友達が少なかった。同じ小学校で仲の良かった友達はみんな他のクラスで、最初の数週間は僕とレイヤ二人で行動していた。
その時に他のクラスメイトの輪に入り込めばよかったのだけれど、二人でいることに満足していた。僕はサッカー部に入ると必然的に、同じサッカー部のやつらと行動することが増えた。レイヤは部活に入らなくて、僕以外に仲のいいクラスメイトを作ることもなかった。
だから僕はレイヤの机に行って話したり、なるべくはレイヤが一人にならないようにしてあげた。その時もレイヤは一人で着替えをしていた。僕はちらちらと一人のレイヤを気にかけて見ていた。その時にサッカー部の中の一人が僕たちのミサンガに気が付いた。
「え?お前たちおそろいのミサンガ付けてんの?達也そういえば、あいつとよく話してるし今もあいつの着替え見てたよな。もしかしてお前ら、できてんじゃないの?」
それを言ったのがサッカー部の信也だったか健斗だったか覚えていない。だけど誰かがそう言って僕の右足に着いたミサンガを指さした。そしてレイヤのミサンガと僕のミサンガにみんなが注目した。
「もしかしてホモ?ホモカップル?こわっ、もしかして襲われちゃう」と誰かが言った。僕は顔が赤くなって見られないように下を向いて言った。
「ちげえよ。誰がお揃いのミサンガなんか男とつけんだよ。偶然だよ、もう汚いからいらないし」そして僕はミサンガをその場で切り外して教室のごみ箱に捨てた。そしてみんなとプールに向かった
ひどいことをしたと分かっている。
レイヤはその水泳の授業に来なかった。教室に戻るとレイヤの荷物は無くて早退したと担任は言った。僕は授業が終わると家の用事があると嘘をついて部活を休んだ。そしてレイヤの家に向かった。
蝉のなき声がうるさくて、制服は汗で肌に張り付いていた。僕がチャイムを鳴らすとレイコさんが出てきた。そして久しぶりね、と家の中に入れてくれた。レイコさんはレイヤが早退したことを知らないようで何も聞いてこなかった。
二階に上がってノックを三回鳴らした。廊下も暑くて頬から垂れた汗が地面に落ちていく。ノックをしてもレイヤはいつもみたいに出てきてくれなかった。もう一度ノックして、聞いているのか分からないレイヤに謝罪をした。
「ごめん。あんなこと本当は思ってないから。僕たちは親友だ。ミサンガなんか無くても繋がっているんだ。だから……」
だから、なんだと言おうとしたのか。僕はしばらく待ってみたが、その続きの言葉は出てこなかった。そしてレイコさんにお邪魔しましたと言って家を出た。レイヤは次の日普通に学校に来た。そして話しかけても普通に話をしてくれた。
昨日の事なんか無かったかのように振る舞うから、僕はそのことに触れなかった。その日のプールの着替えの時間にレイヤを見ると、レイヤの足首からもミサンガは消えていた。
僕は写真を壁に戻してレイヤの部屋を見て回った。記憶と違うところはないか探してみたが、何も変わっていなかった。学習机の引き出し、この中を見たことはなかった。引き出しを開けると、ノートが一冊置いてあるだけだった。他には何も入っていない。そのノートを開いてみた。
ノートの一番最初のページには赤いミサンガが二本、セロハンテープで張り付けられていた。あの日、僕は水泳の授業が終わった後にゴミ箱からミサンガを拾おうとしたけれど、見つからなかった。そしてページをめくると、短い日記みたいなものが書かれていた。
日付と三行程度の文章が書かれている。僕と遊んだ内容や楽しかったこと、ミサンガを買ったこと、渡したら喜んでくれるかといった悩み、僕がミサンガを受け取ったことを書いた日記、小学生のレイヤの心の内が書かれたものだった。そして日付が飛んで、あのミサンガを僕が捨てたことが一ページびっしりに書かれていた。だけど僕を全く責めていなかった。
「自分がおそろいのミサンガを渡したからいけないんだ。りゅうちゃんは友達がいるから邪魔しちゃいけない。僕がりゅうちゃんを好きになったのがいけないんだ。僕が悪いんだ」
同じような内容が繰り返し書かれていた。ページの下の方は文字が滲んでいた。きっと涙を流しながら書いていたのかもしれない。そして僕は、レイヤの気持ちをようやく知った。レイヤは僕を好いていた。そして僕はその好意を握りつぶして踏みつぶして、ぐちゃぐちゃにしていた。それでも自分が悪いんだと、レイヤは自分を責めていた。
そのノートをめくっていくと白紙が続いて、次に書かれていたのは最後のページだった。やり残したことリスト、と左上に書かれていてそのリストに書かれていたのは一つだけだった。「りゅうちゃんに会いたい」
僕はノートを閉じた。引き出しも閉じて家を出た。鍵は閉めずに玄関に置いた。僕は自分の部屋に戻って、自分の死にたい理由を見返した。
「レイヤに会えないから死にたい」
そう付け足した。そして僕は急用ができたと両親に行って荷物を持って家を出た。外は雨が雪に変わって薄っすらと積り始めていた。僕が流した雨も、雪となって飛んでいった




