『親友の死んだ理由』5
葬儀は近くの葬儀場で静かに行われた。レイヤの身内と仲の良かった親友だけのはずだ。小中の知り合いは一人もいなかった。来られなかったのか、来ないのか。呼ばなかったのか分からない。そんなこと聞けないし、そもそも僕も呼ばれたわけじゃない。レイヤの親は僕が知っている時から母親だけだった。レイコさんだ。長い髪を後ろで一つに縛っていつも笑顔だった。レイヤと同じで細身の体型でピアノの先生をしていた。
葬儀場に着くとレイコさんが先に僕に気が付いた。よく来てくれたねと赤い目で少しだけの笑顔を見せてくれた。長い髪を今日は縛っていなくてはじめは誰なのか気付けなかった。
「お久しぶりです。この度はご愁傷さまです」
僕は気の利いたことも言えずにただそう返した。「綺麗な顔だから見てあげて」とレイコさんはそれだけ言って去って行った。僕は親友だったから、他に何か言わないといけないと思いながら何も出てこなかった。両親が先に歩き出してそれに続いて歩いた。
「先にレイヤ君に挨拶してきたら」と僕に言った母さんの目はすでに真っ赤だった。
僕はまだ、レイヤの顔を見る心の準備ができていなかった。見てしまったら、死んだことが僕の中で確定されてしまうから、だけどうなずくしかできなくて僕は棺の前に向かった。小さな祭壇とその中心に知らないレイヤの写真が飾られていた。僕と会わなくなってからのレイヤだ。その顔は確かにレイヤではあるのに、知らない人の葬式に来ているみたいに感じてしまう。そして棺の窓を覗いてみた。覗くことに躊躇するかと思ったけれど写真のレイヤは知らないレイヤで僕の記憶の中にいるレイヤの棺ではないから僕は何も思わずに覗けてしまった。
この瞬間に泣き崩れて膝を地面につけて「なんで相談してくれなかったんだ」と棺に抱きつけばいいのだろうか。僕はどんな顔をすればいいのか分からなかった。
この瞬間まで僕はレイヤの死は信じ切れていなかった。だけど確かにあの写真がレイヤであるなら僕の知らないレイヤは目の前で眠っている。これはもう生き返らないただの遺体だと分かる。確実にレイヤはこの世界から消えていた。
僕の目から涙がこぼれることは葬儀中になかった。母さんはハンカチで涙をぬぐって、父さんがその背中を擦っていた。僕はただそこに立っていた。
そこからは葬儀の流れに沿ってただチュートリアルみたいに周りと同じ行動をしてお坊さんのお経を聞いた。僕はまるでここにいる実感さえなかった。考えていたことは、僕の知っているレイヤに会いたいということ、それだけだった。
気づけば葬儀が終わっていて、僕はレイコさんを探した。レイコさんは一人で、レイヤの棺の前で顔を覗き込んで泣いていた。
「レイコさん、こんな時にすみません。レイヤの部屋に入れてくれませんか。ここで眠っているレイヤは、僕の知っているレイヤじゃない気がしてしまうんです。ただこいつの死が受け入れられていないだけかもしれないんですけど。レイヤの事を知りたくて」
レイコさんは涙をぬぐってから、僕を見て言った。「私が殺したの。そして達也君、あなたもね。誰もあの子を守れなかった。分かってあげられなかった」
「え?」
「あの子の部屋、そのままにしているから入っていいわよ。昔から何も変わらないの。そこにあるから、あの子の全てが」そう言ってレイコさんは家の鍵を渡してくれた。




