僕はサンタにキスをした③
「あ、初めまして」と相手も緊張したように挨拶をしてきた。玄関の明かりを付けずに開けたから顔がちゃんと見えないけれど、おじさんではなさそうで安心した。そして顔が見えるように玄関の明かりを付けた。眩しさで目を閉じてから開くと、僕はまた時間が止まったように目が釘付けになった。
さっきのお客さんだった。
僕が彼の顔に釘付けになっていると彼は言った。「ケーキ買ってきました。正直……。あのアプリで人と会うの初めてで滅茶苦茶緊張してます。雰囲気通りの人で良かったです」そういうと大きくくしゃみをした。
「寒いよね。ごめん、あがって、僕もそんなに経験ないから緊張しています」
彼は僕がハンバーガー屋の店員だと気づいていなさそうだった。テレビではクリスマスの特番バラエティが流れていて、その目の前のソファに2人で並んで座った。家に呼んだものの、どうしたらいいのか。沈黙の後に彼が食べましょうと言ってくれてビニール袋からコンビニのフライドチキンを取り出した。
「ケーキはチョコとイチゴケーキにしましたけど、どっちが好きですか?」と聞かれてチョコが好きと答えた。
「それなら、じゃんけんですね。僕もチョコが好きです」と彼は笑った。
「それなら半分ずつにしよう。公平かつ平和な解決さ」
「いいですね。賛成です」
少し打ち解けてきて、冷蔵庫からコーラを持ってきて「いただきます」と二人で手を合わせた。そしてお互いの話をした。僕は大学2年で近くの大学に通っていて飲食店でバイトしていると話した。想矢って名前と、クリスマスイブに1人で寂しくなってと正直に話した。
「サンタって言います」と彼は言って、素性を明かしたくないのかと思った。ふざけているのかと。しかしそんなことはなくて、彼は矢代讃太という名前のようだった。
「キラキラネームですよね」と彼は言った。「だけど案外悪くないですよ。クリスマス好きなので、サンタの名前も嫌いじゃないです。この時期は自分がサンタクロースになった気分です」
讃太は東北の大学に通っていると言った。地元はこの辺で僕と同じだけど、東北の方で1人暮らしをしている。年明けまでこっちにいるらしい。
お互いの素性を明かしてチキンも食べ終わった。「ワインでもあればよかったね」と僕は言うと、未成年ですと讃太は言った。
「そっか、まだ19歳か……。大学入ったら未成年なのに飲まされたけどね」
「明日で19歳です。だから来年のクリスマスには飲めるようになっていますよ」
「クリスマスが誕生日なんだ」
「だから名前が讃太なんです」と笑った。
「ていうか、明日誕生日なのにいいの?大事な日に知らない人と過ごして」
「予定も無いので大丈夫ですよ。迷惑ならすぐ帰りますけど……」
「迷惑なんかじゃないよ。よければ泊っていってもいいし……。大丈夫、変なことはしないよ」と僕は冗談めかして言った。
「してもいいですよ」
「え?」と僕は聞き返して顔がだんだんと赤くなってしまった。ケーキを食べようかとキッチンに、スプーンを取りに行った。1人暮らしのキッチンでスプーンはどれだけ探しても1本しかなかった。こういうときのために買っておくべきだったと反省をした。
「じゃあ、どっちから食べますか?」スプーンが1本しかなくても讃太は全く気にしていなかった。「じゃあ、チョコは最後に」と僕が言うとイチゴケーキの方を取り出して容器から取り出した。
小さなサンタクロースの砂糖菓子が乗ったイチゴのケーキだ。讃太がサンタをつまんで僕の方に向けた。「これは想矢さんが」
讃太の指につままれたサンタクロースを僕は唇で迎え入れた。甘い、砂糖と甘味料の味が口の中いっぱいに広がる。
「うわー、食べられる―」と讃太が急に言い出して、僕は噴き出しそうになった。「この時期しかできない渾身のギャグです」と言った。
冷静に考えれば特に面白くはないはずなのに、僕は幸せな空間にいることでツボに入っていた。そしてケーキをすくって食べさせてくれた。僕も讃太に食べさせた。「恋人みたいですね」と讃太は言った。僕は嬉しすぎて何も言えなかった。
チョコレートケーキに移る前に僕は下心が抑えきれなくなった。それも仕方ない。一目ぼれした相手が奇跡的に目の前にいて、クリスマスイブの夜にケーキを食べさせあっている。これは言わなくても、相手にも少しばかりは気があるに違いないはずだ。僕はスプーンを置いて、勇気を振り絞って讃太の左手に右手を重ねた。讃太の手は冷たかった。僕の手は温まっていて触れた面で熱交換がされた。僕の暖かさが讃太に流れて讃太の冷たさが僕に流れ込んだ。だけど讃太の冷たさは僕に負けてだんだんと、暖かくなって1つの同じ温度になった。僕たちは交わった。
手が触れただけで熱く、体温が上がるのが分かる。今までにしたことのない興奮、恐る恐る讃太の唇に顔を近づけた。讃太は拒むことなく僕の唇を受け入れた。恥ずかしい話キスをするのは初めてだ。唇を強く結んでくっつけた。
すると讃太は唇を離して言った。「力抜いてください」
僕は唇の力を抜くと讃太の唇が僕の唇にくっついてきて、讃太の柔らかい舌が侵入してきた。甘かった口の中は、酸味にも侵されて甘酸っぱさに変わった。息を吸うのも忘れるほどに夢中になって、僕は苦しくなって咳き込んだ。讃太は笑いながら僕の背中を擦ってくれた。僕は落ち着くと讃太の手を引いてベッドに倒れ込んだ。
僕たちは夜通し熱交換器みたいに体を交わり合わせて、目を覚ますと讃太は隣で僕の方を向いて寝息をかいている。机の上に置きっぱなしのチョコレートケーキは夜通し暖房の風に当たってチョコレートが滲み出て溶けていた。それを冷蔵庫に入れた。歯を磨いて珈琲を淹れて窓を開けた。冷たい冷気をお腹いっぱいに吸い込むと頭が覚めた。珈琲を二杯、淹れてリビングの机に置いた。一瞬、なんで二杯入れているんだろうと不安になってベッドの方を見ると讃太はちゃんとそこにいた。
クリスマスの日に1人じゃない。僕は店長に連絡をした。「風邪をひきました。今日は休みます」と携帯の電源を切って珈琲を一口飲んだ。
ベッドに戻ると讃太の温もりがそこに確かにあった。そして今年はサンタクロースが来てくれたんだと実感できた。サンタクロースは讃太とクリスマスに出会わせてくれた。僕は讃太が起きると2つのお祝いを同時に祝った。
「ハッピーバースデー、メリークリスマス」僕は讃太にキスをした。




