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20代最後のゲイのBL短編集  作者: 赤井獺京
僕はサンタとキスをした

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僕はサンタとキスをした①

 僕はクリスマスが嫌いだ。街を歩けばクリスマスソングが必ず聞こえてきて耳に指を突っ込みたくなる。イルミネーションの光もまぶしくて目ん玉を引っ張り出したくなる。これは生まれて20年間恋人なんていない現実からくる妬みかもしれない。リア充は爆死しろ。毎年12月になるとそう呪い始める。それが続くのは12月25日の夜に1人で布団に入るまで続く。


 大学生になったらゲイをカミングアウトして自分らしく生きるだなんて想像をしていたけれど現実は上手くいかなかった。そもそも自分のセクシャリティを暴露するタイミングが無いし、男友達が好きな女優の話をし始めると癖で話を合わせてしまう。女性に興味なんて全くないのに。


 大学2年のクリスマス、いつも遊ぶ4人組で僕以外の全員っは彼女を見つけた。去年はみんなクリスマスもバイトだと傷の舐めあいをしたのに今年は全員に裏切られた。「想矢も彼女見つけろよ」と誠也に背中を叩かれた。正直言えば、誠也は僕たち4人組の中で一番不細工で低身長だ。僕のタイプからも程遠い。女の子の前で札束でも見せたのか、その女の子がB線なのか誠也にそう言われるのだけはゲイであっても負けた気がした。


 クリスマスまで1週間、どうにかして彼氏でも見つけようかと出会い系アプリを開いてみたけれどいい出会いは全く無くて、もし彼氏ができたら誰にシフトを変わってもらおうかだなんていう心配は不要だった。そして僕は去年と同じくクリスマスイブの夕方にバイトに向かっている。空は曇っていてもうすぐ一気に暗くなりそうだ。寒さも身を切る冷たさだ。

 僕のバイト先はファストフードのハンバーガー屋だ。正直言うと冬の時期はみんなラーメンとかうどんの温かい汁ものを食べたくなるせいかお店は閑散とする。ましてやクリスマスイブの夜に安いハンバーガーを好んで食べる人はいない。お客が来ないならお店を早仕舞いしてしまえばいいのに、今年も独身の女性店長と二人でお店を回した。

 

 回すと言ってもこの1時間1人もお客は来ない。店長の彼氏欲しい、休みたい、と言ったアラサー店長の切実な愚痴を聞いて時間だけが流れた。僕はそうですねと相づちをしながら時間が過ぎるのを待った。

 閉店まで残り30分でキッチンの調理器具はあらかた洗っていた。もう誰も来ないだろうと閉め作業を進めていると入り口扉のチャイムが鳴った。このタイミングで来るなよ、正直面倒くさかった。店長は事務所で事務作業をしている。レジに出向いて面倒くささが顔に出ないようにと口角を上げながら顔を上げた。

「いらっしゃいませ」

 お客さんの顔を見ると、僕の時が止まった。一目ぼれなんてしたことが無い。なのに僕はいらっしゃいませの「ら」のあたりで、目が釘付けで心臓がドクン、と大きく脈を打ったのが聞こえた。


 人懐っこそうな、幼さのある顔で目がとろんとしている。サラサラで指通りのよさそうな黒髪が似合っている。可愛い……。髪をワシャワシャとかき乱したい。後ろからハグをして抱きしめたい。スベスベな頬っぺたに触れてみたい。細いその指に手を絡ませたい。

 不思議なほど一瞬で僕の頭の中にいろんな欲求が流れ込んできた。除夜の鐘では取り除けないくらいの煩悩で侵されて、心臓に紐をくくられて引っ張られているように息苦しくなった。


「ご注文お伺いいたします、店内ご利用ですか?」息を吸ってマニュアル通りに聞いた。

「あ、はい。店内でお願いします。えーと……」


 閉店30分前を過ぎたら注文はテイクアウトのみになる。だけど僕は少しでも長く彼を見ていたいという欲望に負けた。それに店長は事務所から出てこなそうだ。歳は同じくらいか、クリスマスイブの夜に1人で外食というと彼女はいなさそうだ。僕は彼が悩んでいる間にそんなことを考えていた。だけど注文はなかなか決まりそうにない。


「あの、すみません。このお店初めてでおすすめってありますか」彼はそう聞くとにこっと笑顔を見せてくれた。僕は胸を矢で貫かれたみたいにその笑顔で苦しくなった。


「期間限定のこちらの商品がお勧めになっております。個人的にはこのチキンバーガーがクリスマスですし気分も出るかと」僕はマニュアルにはない個人的なおすすめをした。


「それじゃ、そのチキンバーガーでお願いします」


 ハンバーガーを作って彼のもとへ運んで飛び切りの笑顔で接客をした。そして彼の食べているところを気づかれないようにそっと、レジから見ていた。


「あれ、閉め終わったの?てかお客さんいるじゃん。さっきいなかったよね」店長が事務作業を終えて出てきてしまった。「今すぐ食べないと死んじゃうみたいな、かわいそうな顔をしていたので店内にしちゃいました」お店の外を見ると雪が降り始めていた。


 彼は食べ終わってお店を出て行く前に「ごちそうさまでした、美味しかったです」とわざわざレジまで来て言ってくれた。「あら、可愛い……」と店長が言った。僕は思わず「ですよね」と返してしまった。店長には聞こえていなかったようで、聞き返された。僕は何でもないですと言い、閉め作業を進めた。

 

「いいクリスマスを」


 閉め作業を終えた店長が皮肉を込めて僕に言ってきた。この時間から良いクリスマスなんて過ごせるわけがない。それに明日も一緒に仕事の予定だ。僕も皮肉を込めて「店長も」と返して別れた。

 外に出ると吐いた息は真っ白で、地面に積もらないくらいの雪が降っていた。僕はお店の裏にある喫煙所でタバコに火を点けた。横にある自動販売機の光が僕にとってのクリスマスイブのイルミネーションってわけだ。セブンスターのメンソールを吸っているけれど寒い冬はメンソールの気分じゃない。吐いた息はより白く、僕の目の前に広がって消えていった。

 受け入れたはずの恋人のいないクリスマスだ。タバコを一本吸い終わると寂しさが残って僕はスマホを取りだした。

 一夜限りでもいいから、僕もクリスマスを誰かと過ごしたい。僕は以前消した出会い系アプリをダウンロードしてログインした。ゲイ専用の出会い系アプリで位置情報で自分と相手の距離が大まかに分かる。だから近くで出会いを探している人がいて、ある程度タイプなら会ってしまおうかと思うくらい寂しさに襲われた。そしてもう一本タバコに火を熾した。


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