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20代最後のゲイのBL短編集  作者: 赤井獺京
捨て猫恩返し

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17/33

『捨て猫の恩返し』完

目を覚ますと布団の窮屈さがなくて、手を伸ばしてみたけれど何にも当たらなかった。体だけ起き上がると寝室に僕一人で、メラルはいなかった。


どこに行ったんだろう、トイレ、キッチン、お風呂場どこにもいなくて部屋の中は静まり返っていた。


「メラルー」


部屋の中から反応はなかった。誰もいる気がしない。外に出ていったのか、だけど玄関の内鍵はかかったままだった。まるでメラルなんて存在しなかったみたいに部屋の中には僕一人だった。あるのは思い出だけで、メラルのいた痕跡は何ひとつなかった。


メラルに着させていた部屋着も綺麗に畳まれていて、メラル用に開けたはずの歯ブラシも封を切らずに洗面台に置いてあった。メラルのお気に入りのミルクはちゃんとあるのにそれの封も開いていない。


記憶と違った痕跡は存在するのに、いたという痕跡が消えていた。僕は頭が混乱して、困惑して、いい歳なのに泣き出してしまった。体が勝手に泣き出した。


嗚咽が止まらなくて、鼻水が垂れてきて、目から涙が止まらなかった。


幻覚が見えるくらいに疲れていて、自分が限界だったことが分かった。それと、誰かの温もりを探していることに気が付いた。メラルは存在していなかった。


一ヶ月後、僕は仕事をやめて東北の実家に帰ることにした。仕事で関東に来ていただけで、いる意味もなかった。数年ぶりに帰る実家は懐かしくて、見ただけで涙が出そうになった。


「ニャー」


玄関を開けて一番先に出迎えてくれたのは両親じゃなくて首輪のついた青黒い毛の猫だった。目はエメラルド色だった。


「お帰りなさい」


その後ろから母さんがやってきて、その猫を抱き上げた。


「言ってなかったけど、また飼い始めたのよ。お父さんが拾ってきちゃって。メラルっていうの、目がエメラルド色だから」


僕は久しぶりに笑った。ネーミングセンスは親譲りだった。メラルは母さんの腕から下りて、僕の足元でゴロゴロと転がった。


「ただいま」


僕とメラルの生活はこうしてまた始まった。


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