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20代最後のゲイのBL短編集  作者: 赤井獺京
捨て猫恩返し

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『捨て猫の恩返し』1

帰りの電車は子供のころやった押し競まんじゅう状態だ。これは毎日のことだけど、毎日ちゃんと嫌気がさす。朝から仕込みをしてお昼のピークを回して、お店を閉めて今帰る、休憩する暇もないし1日中立ちっぱなしだ。だけど1日中ハンバーガーを作って食欲も湧かない。脂っこいものなんて食べたくもない。


 油まみれの体で電車からバスへ乗り換えた。最終のバスも長蛇の列で座るどころか乗れるかすら怪しい列だ。ない隙間に体をねじ込んでまた押し競まんじゅうをする。終点のバス停まで20分、半分も過ぎればようやく席が空いて座ることができる。


 やっと足を休めさせたのもつかの間にバスは最寄り駅へ着いた。降りるのは僕だけでバスに残るのは運転手だけだ。

 早く帰ってシャワーを……。その前に作り置きのおかずを温めてゴミをまとめて……。家に帰ってからの段取りを仕事みたいに考えながら歩く。そうもしないと休む時間が無くなる。明日も早い。


 涼しい夜風に気持ちよさを超えて肌寒さを感じると、、いつの間にかあの暑い夏が終わっていたことに気が付いた。服は半袖のままで寒いわけだと腕をさする。鈴虫の鳴き声に気が付いてより一層季節の変わり目を感じる。その鳴き声に交じって、高い鳴き声が混ざって聞こえてきた。


 猫の鳴き声だ。


 どこだろうと暗闇に目を凝らしても見当たらない。聞こえるのは鈴虫だけで聞き間違いかと歩くと、また聞こえた。足を止めるとまた聞こえて、声の方に向かった。家の近くにある駐車場の敷地からだった。野良猫かと思って探してみると、駐車場の端に置かれた段ボール、そこの中に猫がいた。

 捨て猫か、それにしては大きいけれど段ボールに入ってこっちを見つめている。手を上げるとニャーと鳴いて左右に手を動かすとそれを光る目で追った。たぶん黒猫か、暗いからはっきりした色は分からない。頭を撫でてやるとゴロゴロと鳴く。


 昔実家で飼っていた猫を思い出した。名前はタマだ。茶色い毛の雌猫で、高貴な態度の猫だった。立ち姿はスフィンクスみたいな、そんなイメージだ。数年前に死んじゃったけれど、とても長生きしたし幸せに暮らしてくれたと思う。

「ごめんなー。猫好きだけどアパートはペット禁止だからさ」


 昔は動物に話しかけるなんてしなかったのに無意識に話しかけてしまった。周りを見渡しても他にはいない。けれど恥ずかしくなった。もう一度最後に頭を撫でて帰ろうとすると、その猫は悲しげな声で鳴きはじめる。


【いかないで、お腹空いた】


まるでそう言っているみたいで、後ろ髪が引かれてしまった。

「俺から旨そうな匂いするのか」

 まだ自分のご飯も食べていないのに、近くのコンビニまで歩いて猫用のご飯を買った。明日も早いのに何しているんだろう、手に持ってきた餌を乗せて口元に近づけると、ぺろぺろとそれを食べ始めた。あっという間に一袋の餌を食べて、今度こそはと家に帰ろうとした。


【寂しい、一人は嫌だ】


「ごめんな、だけどどうしても飼えないんだよ。俺も一人は寂しいけれど無理なもんは無理なんだ」


 相当疲れている。猫相手に寂しいだなんて。最後に頭を撫でて家に帰った。段取り通りに家事をこなして布団に入った。5時間は寝られる。


 その日見た夢は昔飼っていたタマの夢だった。猫じゃらしで遊んでいるところ、なんでもない夢だった。その日も朝から忙しくて猫のことなんて記憶から消えていた。バスを降りて早く帰ろうと歩いていると聞こえた鳴き声で記憶が蘇ってきた。


 顔を見る前にコンビニに歩いて餌を買った。会いに行くと嬉しそうに鳴いて美味しそうに餌を食べた。頭を撫でてお腹を撫でて、昨日と違って向こうも慣れてきたのか段ボールから出てきてお腹を向けてきた。



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