第一章③ "アレ"
当初の目的も忘れ和気あいあいと談笑をしてしばらく経った頃に、真夜と真昼は本題へと移ろうとする。
「…なあ、美波」
「どうしたんですか?」
真夜が改めて呼び掛けると何を言われるのか分からず少し硬くなる美波。
「言い難いことかもしれないが、美波がさっきされてたのってナンパじゃないよな?」
「……」
核心に触れる話題を単刀直入に尋ねる。一段と空気が重くなり、誰かの鼓動が聞こえそうなほどの沈黙が流れる。いよいよ沈黙で耳が痛くなってきたその時、少女は口を開く。
「詳しいお話をされる前に逃げてきちゃったから確定的なことは言えないですけど、まあ多分ただのナンパでは無いですね」
「それについて詳しく教えてくれるか?」
あくまで冷静に詰めていく真夜。
「…嫌って言ったらどうなりますか?」
念の為の確認を美波は取る。それに対して答えたのは真昼だった。
「そうなったら申し訳ないけど一回管理者の所へ行くしかなくなるかな。美波ちゃんが悪くないならさっきの男が"大罪偽造における罪"で処罰される。美波ちゃんがもし…これは言わなくてもわかるよね」
「ですよね…分かりました。なら言いづらいですが言います。その代わり一つだけ約束してくれませんか?」
覚悟を決めた美波からのその願いを二人は聞く。
「出来ることなら何でも」
「この話を聞いても私を化け物だとか読んだり、引いたりしない。こんな単純なことです」
「そんなことならもちろん」
その二人の答えを聞き、意を決した様に話し始める。
「まず大前提として、あの男たちは私に直接的な用があった訳ではないと思います。それならさっさと事情を聞き出していたでしょうから」
「それはそうだろうな。ただ、その思考が出てくるってことは他の用事に検討がついてるってことでもあるよな?」
「そういうことです。これ以上言葉を重ねる必要は無いのではっきり言います」
そうして彼女は告げる。
「私の姉、"吸血女王"についてのことを聞き出そうとした。私はそう予測します」
その言葉を聞き、真夜と真昼は瞠目する。吸血女王は最近巷で有名な人類種を狙って攫い、生気を吸い取り殺害する猟奇的な吸血鬼のこと。その正体が今目の前にいる吸血鬼の姉ということに対して瞠目する。ずっと沈黙を貫いている一人の男を除いて。
「…言いたいことはあるが一旦続けてくれ」
「…わかりました。ここからは完全な私の推測になりますけど、あの男の一味が狩られたんだと思います。だから仲間意識が強い男たちが情報をどうにか漕ぎつけて、犯人の妹である私に聞いてきた。こういうシナリオかな。ただ姉の所在すら知らない私にそれを聞かれても答えられるはずもなく尋問のような形になっていた。そこをおふたりに助けていただいた。これが事の顛末です。」
「なるほどな…」
とりあえずの相槌を打ち、彼らは押し黙った。あまりにもシリアスな内容に、慎重に次の言葉を考える。だが次に言葉を発したのは彼らではなく、ずっと沈黙を保っていた男であった。
「…それ、そんなに気にする話か?」
「…え?」
あっけらかんとした物言いに思わず困惑する美波。
「大罪人の家族は等しく大罪か?そんな訳ないだろ。だって家族だろうと他人は他人なんだから。それで影響を受けて、私も悪に手を染めましたーとかなら忌避される思うがそういう訳じゃないんだろ?」
「そ、それはそうだけど」
「なら気にするべきことは何もないだろ?」
先程とは違った意味を持った沈黙が訪れる。そうして次の言葉を紡いだのは真夜であった。
「湊の言う通りだな。今語られた事実の整合性を僕らが取ることはできない。それなら友達の言うことを信じるのが一番だし、信じるよ」
「友達…」
「もちろん私も友達を信じるよ!」
友達と明言してくれた二人から目を逸らす。
「…ちょっと目にゴミが入っちゃったみたい」
そんなベタな言い訳をする美波を3人は何も言わずに暖かく見守った。
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それから暫く時は経過して、美波は湊が真夜は真昼が送る運びとなり談笑の会は終わりを迎えた。
「今日はありがとうね!」
「色々あったからなぁ。なんに対してだ?」
感謝を素直に受け取らず少し悪戯的な笑みを浮かべ返す真夜。
「んー、なら色々全てに対して、かな。今日は本当に全部助けられたし」
「そんな大人な対応されると僕がバカ恥ずかしいやつに成り下がるんだけど」
「あははっ。なら仕返し成功ってことで」
日が暮れた街にふたつの影を落としながら彼らは歩く。
「今日初めて会ったはずなのにどうしてか初めて会った気がしないんだよね」
「デジャヴってやつか?」
「まさしくそれ。もしかして記憶ないだけで過去会ってるとか?」
名推理と言わんばかりの表情と声音で推測を口にする真昼。
「どうなんだろうな。確かに僕は幼少期の記憶が割と欠けてるしもしかしたらあるのかもな?」
「何気に初耳の情報だったけど、まあそんなんだったらロマンチックだね、くらいの感覚でいいでしょ?」
「それもそうだな」
それから少しの間に談笑は続き、曲がり道に差し掛かったところで彼の方から別れを告げる。
「今日はありがとう。ここまででいいよ。気配は感じなかったし大丈夫だとは思うが、もし何かあったらすぐに叫ぶなりなんなりしろよ?」
「わかってるわかってる!子供扱いしなくてもいいから!」
少しムスッとした感じにドンっと背中を押して彼女も告げる。
「またね!」
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久々の投稿になりすぎて多分見ている方は相当レアでしょうが更新いたしました。