第一章⑦⑧ EX "規格外"
真夜が暁を文字通り叩き落とした直後、彼が位置する島の南端より遠く離れた東端でも戦闘が勃発していた。しかしその戦闘は少しばかり異常であった。
「あいつらは何でこんなに追ってくんだよ!!!!」
百を凌駕した者たちが、全力疾走をする男を四方八方から追い詰め、行動の自由を奪っていく。全員がバラバラに行動するのではなく、まるで一つの意思を抱いた集合体のような動きで。
「邪魔だッ!!」
向かってくる者たちを尽く薙ぎ倒し、意識を沈める。多勢に無勢とも取れるこの状況下で男は善戦する。
「焔!!」
中級魔法を唱え、辺り一面を焼き焦がし、その炎は13の者の命を刈り取った。それでも追っ手は収まらない。それどころか段々とその数を増やして言っているようにさえ見える。キリがないと感じた男は直下に魔法を放った。
「厳!!」
突如地面が隆起し、辺りの木々の身長を軽々と超す。ふぅ、と一息ついて辺りを見下ろすと既にまた百人ほど集まっていた。能力が短期戦闘には不向きな男は数秒熟考した上で、思い切り跳躍した。元いた地点が霞むほど北上した彼は再び息をつく。
「さすがにここまで追えるやつも中々居ないだろ」
彼がそう独り言を呟いた瞬間、木々が揺れる音がした。
「…!?」
驚いたように辺りを見渡すが誰もいない。自然発生した風で揺れただけか?と勘繰る。そうして、彼はその可能性を排除してしまっていた。はるか上空から落ちてくると言う可能性を。
「ッッッッ!!」
一瞬にも満たないであろう時間ではあったが警戒を怠った影響というのは甚大たものであった。上からの押さえつけるような攻撃を何とか魔法で応戦したが、その直後に魔法が使えなくなる。
(魔力切れ…!?いや、そんなに魔力を使ったはずがない!!)
と言っても使えないのは覆せない事実であるため、男は戦場からの離脱を試みた。しかし、その試みが成功することはなかった。
「は?」
魔法どころか身体に力を込めることさえ出来ず、そのまま倒れ伏す。押さえつけるように攻撃をしてきた者は絶好の機会だと言うのに手出をしない。
「うん、見事な手際だ。チェックメイトだね」
呆然とする男の背後からパチ、パチと疎らに拍手をしながら知性の感じる少年が現れる。正体を悟った男は憤りを感じ、思わず怒鳴る。
「てめぇ!エルフのガキだな!!さっさとこの拘束術を解け!!」
多くの能力者を引き連れたそれは荒い口調で怒鳴りつけられたが、ものともせずに告げる。
「いや、ここで解いたら何のために拘束したって話になるでしょ。そんなことも考えられないほど頭が弱いの?」
明確に煽る目的で放たれた言葉に益々憤りを感じるが、これ以上喚いても負け犬の遠吠えに過ぎない。それを悟った男は別の方向に舵を切る。
「じゃあ答え合わせをさせろよ。まずなんで俺がここまで狙われた」
「うん。まだ知性のあることを聞くようになったね。いいよ。それを評価して教えてあげる。と、言っても簡単なことだよ。君が狙われたのはクラスAだから。たったそれだけだよ」
思いがけない答えに男は瞠目する。クラスAたった一人を捕縛するためにここまで集まれるものなのか…?プライドの高い能力者たちが…?次々と湧き出る質問の中から男は選んで尋ねる。
「…何故ここまで能力者を束ねることが出来た」
「他にもなにか聞きたそうだけどそれでいいのかな?ま、答えるとしたら」
大方それがこいつの能力であろうと予測していると、思いがけない答えが返ってくる。
「何もしてないよ。みんなぼくが声をかけたらすぐに付き従ってくれたさ」
「は?そんなわけないだろ!」
そんなわけないだろ、そう言い終わる前にそれは言葉を被せる。
「事実そうなんだよ。逆に、それが所謂能力だとしたら今起きてるこの事象はどう説明するの?まさか君が勝手に寝てるだけとは言わないよね?」
「くっ…」
実際、先程の集合体のような攻撃は生半可なものではなく、全ての者が魅せられていることになる。だがそうなるとどれだけ多くの者を操っているんだという話になる。そこまでの大人数を操れるような能力ならもっと別のやりようもあったはずであり、今の状況と合致しないため確かに能力ではないのだろう。そうすると自ずと別の疑問が湧き出で来る訳だが。
「じゃあ今この状況は何なんだ…?拘束の幻術如きで俺が一撃で伏せ倒されるわけがない」
「随分と凄い自信だね。いやまあ合ってるんだけど」
一瞬それは押し黙り、すぐに語り出す。
「今君が力を込められないのは、ぼくの…沼男と拘束の混合技だからかな」
先程から何か言いつつも答え合わせをしてくれる事を理解した男はその方向に舵を切ってよかったと心の内で神に感謝した。
(やれるなら最後の最後までやってやる)
男は再び答えを求める。
「どうせこの拘束が解かれることはないからもう俺は終わりなんだろ?冥土の土産に沼男の能力の仕様を教えてくれよ。どうせ殺すんだからいいだろ?神勅になるだけだ」
「だんだんと自暴自棄になってきていないかい?…しかも神勅になるかはわかんないんだよな」
またまた思考を始め、その一瞬で処理が完了する。
「でも、またそれも一興かもね。望み通り解説してあげる。沼男は実体を伴った影を支配的または独立的に運用できる能力だよ。要するにオリジナルのコピーを生成してそれを運用する能力ってとこだね。コピーということは勿論ぼくが出来ることは何でもできる。そのコピーがさらにコピーを生み出すことだってね。それを繰り返して最後に拘束術を重ね掛けした。まあこういうことかな」
「そこまでコピー体を複製できるならわざわざこんな軍隊を作らないくても良かったんじゃないか?」
「それは単純に汚れを触りたくなかったからだね」
煽りを忘れずにした後静寂が訪れる。周囲に佇む者たちはこの会話の間何一つとして声を上げずに、ただ待ち続けていた。
「一通り疑問は解消できたかな?」
「ああそうだな。ここまでやってくれたんだ俺にも最後に恩返しをさせてくれよ」
これが正真正銘ラストの会話になることを悟った男は嘆願する。
「それはいいね。何をしてくれるんだい?」
「そんな焦んなよ。俺が今返してやれることと言えば…能力のカミングアウトだけだろ。俺の能力爆弾魔は自身を爆弾と見立てて、爆発する。そんな能力だ。と言っても爆発力を高めすぎると自分ごと爆破しちまうからそんな全力を出せる機会ってのはないんだがな」
「………」
何を語ってくれるのだろうかと期待したそれだが、案外面白くないことだったので落胆する。
「あのね、そんなくだらないことを話すなら…」
「この状況じゃ絶対に俺は今から殺されるもんなぁ」
先程男がされたように、言葉を被せる。
「…もしかして」
エルフは気づく。最後に意趣返しを出来た男は何の躊躇いもなく、返事をする。天に対する叫びとして。
「天より降りし神よ!我、終わらせる者として、ここに彼の者らの終了を宣す!汝、我が身、我が命を振るい、ここら一帯の破壊を成し給え!」
一拍を置いて紡がれた。
「〈滅天葬爆〉!」
───元来、神勅は神への贈り物とされ、その過程には様々なものを有する。だが効率化された現代でその過程は省略された。裏を返すと、本来の神勅の効能を出すためにはその過程を成せばいい。今紡がれた祝詞は正しくその過程である。
その祝詞は紡がれると同時に男を絶命させた。刹那、取り囲んでいた生物全てが死滅した。何も例外はなく。一瞬後、この騒動を知らずに島の東部を探索していた者たち含めて灰になることさえ許されず蒸発した。そして、1秒後。空間は崩壊し、漆黒に包まれた。
───────────────────────
「あーあ、ちゃんと説明してあげたのに。沼男は支配的、独立的に運用できるって言ったでしょ?わざわざぼくが矢面に立つわけないじゃないか」
本来声など聞こえるはずもない空間でその声は響く。
「…でも決死の自爆は見ていて爽快だったよ。命を賭した能力の威力もちょっとわかったし…ね」
それは深淵を思わせるようなほど冷たい目でその漆黒を眺めた。そして、時間さえ存在しない漆黒の世界の中で、二枚舌を覗かせてほくそ笑んだ。次の瞬間、周囲の漆黒に溶け合うように、消えた。
はい、本当にごめんなさい。投稿が遅いとかの次元じゃないです。見てくださっている方がいましたら、本当に申し訳ございません。私生活が整いましたのでぼちぼち再開します。




