花のように散る
僕は廃校となった小学校の屋上から、十数メートル離れた校庭の地面を見つめている。無駄に広いその土地は全体が乾燥した土で覆われていて、遊具や草木も何も無く、まるで何も描かれていないキャンバスのようである。
ただその大きなキャンバスの下の方には、小さな花が描かれている。こじんまりとはしているものの、朱殷の花びらと墨色の茎と葉で構成された花は、亜麻色の生地の中でひときわ目立っている。
もちろんそれは本物の花ではなく、実際はうつ伏せで地面に倒れている人間であったものである。真っ直ぐ伸びた脚が茎で、横に大きく広げられた腕と手が葉、頭と思われる部分を中心にして円状に広がる血が花びらのように見えているのだ。
もはや人間と呼ぶのも憚られるほどに変わり果てた姿のそれは、間違いなく先程まで僕であった肉塊だ。どうやら僕はちゃんと自殺を成し遂げたらしい。
この世に生まれてからの十三年間、僕は周りの大人に言われた通りの人生を歩んできた。言うなれば、僕というキャンバスは全て、他人の決めた色で埋め尽くされていたということだ。
そんな僕も、最期の最期に自ら選んだ色で自分を彩ることができたのだ。僕はなんだか誇らしい気持ちになり、僅かに頬が緩んだ。
多くの人は僕の死体を見たら、そのあまりの醜さに恐怖することだろう。しかし僕には、本当の絵のようにぴくりとも動かないそれが、今まで見てきたどんなものよりも美しく鮮やかに見えていた。