第九五話 作戦の変更
正面衝突した宙蝗らは、殆どが活動を停止していた。大型同士に挟まれた小型は、損傷が特に酷い。だが浅い当たりで済んだ小型は、そのしぶとい生存本能を発揮しようとする。
(共食いはさせない)
俺たちは示し合わせたように、レールガンを発砲する。弾体は強化樹脂製で、中身には希硫酸を充填してあった。これまでの採掘活動で、星鉄以外にも様々な元素を得ていた。そうした備蓄元素を化合し、出力している。
腐食弾の雨が降り注ぎ、宙蝗らが苦しみだす。酷い光景だが、眼は逸らさない。宙蝗の進軍を許せば、人々にもっと酷い死が訪れる。それを防ぐ為には、新兵器の効果検証から逃げる訳にはいかないのだ。
『ふむ。さしもの宙蝗も、腐食した同胞は餌と見做せぬようだな』
スカーが冷徹に状況を見極める。その根底にあるのは、探究心か復讐心か。或いは……。
『AIガゼル、大型の詳細走査をお願いします』
シギュンの耳打ちに促され、彼女の要求に応える。然る後に後衛の工作艦群へ、座標諸元を送信した。
『座標諸元受領。工作艦を向かわせます』
ベルファの声音に緊迫感が漂う。宙蝗に手の内を学ばれるのは、最小限に止めたい。だからこそ、彼女は急ぐのだろう。
「了解。私は残存部隊迎撃に加勢します」
宙蝗中央部隊は、予備戦力の巡航艦らと近接格闘宙戦を繰り広げている。小回りで劣る宙蝗らは、その場に縫い付けられていた。
俺は宙蝗中央部隊を無力化させ、座標諸元を送信する。ネッサは擱座していた巡航艦二隻の修理を済ませ、前衛艦隊へと合流した。後衛艦隊も、分解作業を進めつつ前進する。必要な実験戦闘を済ませた今、全力での迎撃を行う為だ。
『ベルファ、暫くこの場を任せる。私は軍議に向かうぞ』
スカーは後方との情報共有を行うようだ。俺たちは中和と分解を推し進め、新手の来襲に備える。
「緊急警報。当宙域への宙蝗来襲を確認。迎撃します」
言ったそばから新手が来た。俺は連戦に備え、気を引き締めてかかる。
***
スカーは母艦モリガンの後席に身を委ねたまま、仮想会議室を開いていた。設えた円卓にはいつもの如く、参加者が先着順に席に着く。
「連絡を待っていたぞ。戦況は如何に?」
軍装の皇帝が一番に問うてくる。
「落ち着きなよ、ヴィル。全員揃わなきゃ、スカーも話せないんだからさ?」
砕けた女王の言に、皇帝が大仰に頷く。
「お母様はいつも通り過ぎますね。……勉強になります」
次期女王は何かを学び取ったようだ。
「両陛下のご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」
「娘に遅れを取るとは、不覚の至り」
次期女王の友と、その父が口上を述べる。後者の顔はどこか誇らしげだ。
「遅参は平にご容赦を、陛下」
最後に現れた、不穏なる副官が謝罪を口にする。
「陛下? 貴君はどちらに申しておるのだ?」
皇帝が意地悪く問い返すと、女王が肩をすくめていた。
「……失礼仕りました。両陛下」
俯く副官には観えぬよう、女王が皇帝へ手振りする。
「余も貴君も、寛容であらねばな」
「それを言うなら、アタシもだね」
許しを得た副官が面を上げる。苦悩の顔を、理性で上塗る努力は見て取れた。
「さて、軍議を始めよう」
スカーの宣言に、皆の注意が集まる。こうしている間も、戦況は流転しているのだ。
軍議参加者たちの黙読が続く。宙蝗に関し、これまでに知り得た全てを共有した。
「物資の補給は、余が引き受けよう」
「計画的な補給には、弾薬消費量の予測が要るね」
ヴィルとディセアが、いち早く口を開く。
「模擬戦闘諸元を用意した。そこから割り出すと良い」
「かたじけない。すぐ、訓練に反映させる」
スカーの情報共有に、クイントが応じる。ディセアも麾下艦隊へ、何やら指示を出しているようだ。
「訓練の経過を踏まえ、補給計画を取り纏めます」
「厳戒態勢移行に備え、ロンド管理局の公式声明を出せるようにしておきます」
ルストとエシルも、神妙な面持ちで役目を負う。
「ロンドの政務は、余が補佐しよう」
「じゃ、軍務はアタシが助けるわ」
重荷を背負う若きロンド統治者たちへ、先達が救いの手を差し伸べていた。
(それで良い。補い合い、備えるのだぞ)
補給の話しが一段落すると、今度は戦術の検討に入る。
「後ろを取って撃つなら、身軽なウチの艦隊向けだね。乱戦に持ち込むわ」
「某らの艦は重い。困難だが、やりようはある」
ディセアとクイントが、戦法を模索している。犠牲を抑えて戦うには、それぞれの艦隊に合った戦い方を確立すべきだ。
「大丈夫? 具体的にはどうするの?」
「固定光索を使い、宙蝗を拘束する」
艦どうしを結びつけ、足並みを揃える装置の事だ。これを宙蝗と相対して照射し、刺股で抑えるが如き状況に持ち込むのだろう。
「宙蝗に齧られないようにね?」
「某が陣頭に出る。兵らを鼓舞せねばな」
活発な議論の片隅で、尚も沈黙を続ける者が居る。
「……」
厳しい表情で黙読を続けるその者へ、どんな言葉を投げかけるべきか。スカーは暫しの思索に耽っていた。
「僭越ながら小官の眼には、いささか悠長な話しに観えます」
不意にユーリスが、不遜な口を開く。
「宙蝗は、素早く確実に倒す必要があります。その為には、持ち味を活かすべきです」
「では、どうするのだ?」
提督が副官を咎める。自分のみならず、女王をも批判しているからだろう。
「防衛線を主星近傍まで引き上げ、我々アモル帝国艦隊が鉄床役を担います」
「アタシらは鎚役をやれ、ってことね?」
ユーリスの意図をディセアが読み取る。宙蝗を固定光索で拘束したうえで、連携して挟撃に持ち込もうと言うのだ。
「そうです。宙蝗の側背から、推進器官を傷つけるだけでいい。あとは鉄床役の我等が、宙蝗を主星めがけて押し出せば片が付きます」
宙蝗の骸は同胞を招き寄せる。後始末をも考慮している点は評価すべきだろう。
「宙蝗は、牽引光索を放つ個体も居る。引き摺られぬよう、用心する事だ」
「ご忠告、痛み入ります」
スカーの助言に、ユーリスが応える。言葉の慇懃さとは裏腹に、声音には尊大さが見え隠れするようだ。
既存の艦隊配置を覆す大胆な献策は、意外にもすんなりと受け容れられた。将帥らの果敢な性分に響いたのだろう。戦術の検討が一段落し、軍議は終了した。




