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第九四話 宙蝗の逆襲

『AIガゼル、ノード〝モリガン#A〟に接続完了』

 偵察巡航艦らを主星付近に残し、他艦の配置を通常に戻した。配置転換を見届けた俺は、母艦モリガンの艦橋へとアクセスする。スカーとベルファは、既に情報の分析を始めていた。

「来たか。役目、大儀であった」

 スカーは俺の来訪に気づき、労いの言葉をかけてきた。

「役目を果たせて何よりです。次の戦いに備え、戦果を検証しましょう」

 勝って(かぶと)の緒を締めよだ。自戒を込め、謙虚に応えた。宙蝗(ちゅうこう)の主力部隊が接近中とも聴いている事だしな。

「テスト結果を踏まえ、所見を共有します」

 ベルファが連絡と共に、文書ファイルを寄越してきた。宙蝗へのレールガン使用について、簡潔に(まと)められている。内容は後方からの砲撃は有効、推進器官破壊を最優先すべきというものだった。

(そういえば、正面からの止めは回避できなかったようだな)

 推進器官をやられた宙蝗は、ハイパードライブを作動できなかったのだろう。

「悪い報告があります。宙蝗は個体が学習し、全体に共有している形跡があります」

 ベルファの報告に、危機感を募らせる。スカーも同じ気持ちのようだ。

「初戦で遭遇した宙蝗は、レールガンを回避しませんでした。しかし、二度目以降は全て回避に成功しています」

 戦闘記録を(さかのぼ)って確認する。かの宙蝗は確かに、初撃を回避しなかった。ある程度時間が経過したところで動きが鈍り、ようやく追撃が命中していた。

「……今しがたの戦闘では、全ての宙蝗が初手のレールガンを回避しておるな」

 スカーの指摘に、ベルファが(うなず)く。彼女の報告は尚も続いている。

「偵察巡航艦が、奇妙な重力波を捉えました。到達速度は光速を超え、この宙域と銀河核方面の双方向から伝播(でんぱ)しています」

 たまらず同居AIに示唆(サジェスト)を求める。重力波とは、光速で伝わる時空の歪みを指すらしい。この波は全てを貫通するが、距離に対して振幅が減衰する。観測は至難と思われたが、時空に親しむ緑星鉄製の走査機(スキャナー)には好相性だったのだろう。

「ハイパードライブで、重力波を加速させたか。其方(そなた)はこれが、宙蝗の通信手段と考えているのだな?」

「ご明察の通りです」

 スカーの判断を、ベルファが肯定した。本来の伝播速度を超えているのだ。これが自然現象とは考えにくく、彼女らの推論は妥当に思えた。

(ここから先、スカーの生命をどう護るべきか)

 圧倒的多勢を誇る宙蝗を少しずつ討ち取り、資源化してこちらの艦数を増やす。これを地道に繰り返し、数的劣勢を覆す。これが、スカーが示していた基本方針だ。この手は着実だが時間が掛かる。宙蝗がこちらの手の内を学習しきった途端、俺たちは一気に形勢不利になる恐れが出てきた。

「小賢しい。決着を急ぐぞ」

 スカーが決断し、とある文書ファイルが共有される。彼女考案の新兵器についてだ。

「……学習しても防げぬ攻撃を、という訳ですか」

 一読したベルファの言を、突然の警報が遮る。

「緊急警報。当宙域への宙蝗来襲を確認。迎撃します」

 主星近傍の偵察巡航艦隊からの通報だった。俺は宣言と共に、すぐさま戦闘配置へと前衛を動かす。


『AIガゼル、ノード〝ラスティネイル#C〟に接続完了』

 戦艦に意識を移し、現状を把握する。宙域の警報フェロモン濃度は著しく低い。分解作業を指揮するスカーが、適切な分解手順を踏んでいるからだ。彼女たち後衛は、まだ分解作業の途中だ。そんな折に、隠密擬装ステルスカムフラージュ中の偵察巡航艦から、敵状の速報を受け取る。

(なんだ、あれは……)

 今迄(いままで)の宙蝗よりも、明らかに大きな個体が居る。全長は六〇(メートル)ほどだろう。大型宙蝗は三体おり、それぞれ八体ずつの小型を率いている。大小合わせて九体編成の三部隊が、横陣を敷いていた。

 対するこちらの布陣を確認する。右翼にネッサ隊のナリ級戦艦二隻、アフィニティ級巡航艦六隻が居る。左翼に俺の隊のラスティネイル級戦艦一隻、アフィニティ級巡航艦六隻が展開済みだ。予備戦力として、アフィニティ級巡航艦一二隻が後ろに控えている。全艦の兵装は、対装甲レールガンと魚雷発射管の組み合わせで統一した。

 宙蝗の左翼部隊が、ネッサ隊めがけて突撃する。矢印のような鋒矢(ほうし)の陣だ。

緊急回避(ブレイク)!」

 ネッサ隊八隻が、行動で応えた。散開した八隻は反転しつつ集合し、宙蝗の鋒矢の側背へと肉薄を試みるようだ。突撃を(かわ)された宙蝗部隊は、既に左旋回を始めている。その大回りな軌道に、ネッサ隊が追いつくのは造作も無い事だろう。

 一呼吸遅れ、宙蝗の右翼部隊が突出する。横陣を組み、俺の隊を狙っている。

(こちらも躱して、背後を突かせてもらう)

 正対射撃(ヘッドオン)は効果が無い。真後ろから、胴体後部と中部を一射で(とお)す。俺は回避機動に備え、宙蝗らを十分に引きつける。

(……ッ!)

 宙蝗右翼部隊が突如、左旋回の姿勢を取る。体は左を向き、進む勢い(ベクトル)はこちらへと向いたままだ。直後に右翼部隊は、体を向けた方角へと急加速を果たす。その進路は、ネッサ隊の背後へと向いていた。

(しまった!)

 俺は宙蝗右翼部隊追尾の為、隊を急発進させた。それに呼応するかのように、宙蝗中央部隊がこちらへと急速接近する。短距離巡航を繰り返しつつの速攻だ。

「魚雷発射」

 咄嗟(とっさ)に放った収束魚雷群は、宙蝗中央部隊の出鼻を(くじ)く。その隙を突いて隊を右へと急旋回させ、宙蝗右翼部隊の追撃を始めた。並行して予備戦力を動かし、宙蝗中央部隊の足止めを担わせる。


 宙蝗左翼部隊を追うネッサ隊に、背後から宙蝗右翼部隊が急追する。

「ネッサ、後ろに注意だ!」

 魚雷命中ノイズが(ほとばし)る。ネッサ隊は既に、宙蝗左翼部隊への雷撃を始めていた。

「ネッサ! 後方注意(チェックシックス)! 右に回避(ブレイクライト)!」

『……ッ!』

 ネッサ隊が回避機動を取る。だが、一手遅かった。

(くそっ! 殿(しんがり)がやられた!)

 ネッサ隊の緩やかな左旋回機動の内側へと、宙蝗右翼部隊が突撃した。ネッサ隊最後尾の巡航艦二隻は、宙蝗の体当たりで主推進機を損傷する。落伍(らくご)した艦に眼もくれず、宙蝗は更なる突撃を仕掛けようとしていた。対するネッサ隊は上下左右に細かく蛇行(ジンキング)し、宙蝗の狙いを逸らそうとする。

牽制(けんせい)する。立て直せ」

『了解!』

 俺の隊は宙蝗右翼部隊に追いつき、背後からのレールガン砲撃を浴びせる。牽制と言いつつも、狙いは推進器官を有する胴体後部へと集中させた。少なからず被弾した宙蝗らの挙動が乱れる。それでも俺は砲撃の手を止めず、宙蝗の縦陣には混乱が観て取れた。

『助かったぁ!』

 ネッサ隊が急速一八〇度後転する。そのまま後進を掛けつつ、鶴翼の陣を敷いていた。

『目標捕捉! 打ちぃ方始め!』

 互いの火線を避けつつ、挟撃の砲火が交差する。ネッサ隊は陣形を保って後進し、統制した砲撃を続けていた。一射目で回避を誘い、回避先に二射目を合わせている。

(器用なものだな。負けてられんぞ)

 ネッサ隊の善戦に奮起し、俺の隊も宙蝗らの推進器官を潰して回る。宙蝗右翼部隊は討たれながらも、左旋回を続けていた。

(合流を図る気だな)

 ネッサ隊を釣った宙蝗左翼部隊へと、注意を向ける。かの部隊は反転し、ネッサ隊の背後から襲いかかろうとしていた。

「ネッサ――」

『判ってる!』

 ネッサ隊は背後の宙蝗左翼部隊へと、後進のまま加速する。好機と観たか、宙蝗右翼部隊が肉薄していた。俺は彼女の意図を察し、次の戦闘機動に備える。

『緊急回避!』

 ネッサ隊と呼吸を合わせ、四方八方へと散開した。その直後、騒々しいノイズを至近距離で捉える。聴覚がわりの波形再生器(ノイズプレイヤー)が音で示すのは、金属物どうしの衝突音だった。

『同じ手は食わないよ!』

 ネッサが隊を再集結させた。その舳先(へさき)には、同士討ちで混乱をきたす宙蝗らが(うごめ)く。

『見事であった。腐食弾を試すが良い』

 我らが管理者殿からの通信が入る。俺たちは彼女考案の新兵装を、急遽(きょうきょ)テストすることとなった。



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