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第九三話 続く試験戦闘



『AIガゼル、ノード〝モリガン#A〟に接続完了』

 俺はスカーに呼ばれ、経過を報告する。訪れた艦橋には、ベルファの姿もあった。

「弾薬消費軽減を狙い、新兵装を開発中です」

 戦闘詳報や報告所見を読み進める彼女らに、そう言葉をかける。

宙蝗(ちゅうこう)に共食いをさせぬ工夫が必要だな」

 スカーがもっともな指摘をする。共食いを許せば戦闘の長期化や、戦闘後の獲得資源量低下を招く。

「現状では、小規模戦闘の繰り返しで対応しています」

 こちらが後手に回らぬ規模の戦いとなるよう、誘引剤や中和剤の使い方に気を配っている。だが、これらの薬剤で宙蝗を(だま)し続けられるか、疑問も残るのだ。

「いずれ限界が来るでしょうね。その時に備えて、戦闘と分解を並行できる方法を模索すべきでは?」

 ベルファの指摘に、ふと考え込む。

(作業ドローンも戦闘に参加させるのが早いか)

 俺は次の戦いに備え、さっそく艦隊運用を見直す。

「そうだな。我らはその方針で良いだろう。……だが、王国や帝国はそうもいくまい。私が対策を講じよう」

 思案顔のスカーが同調する。彼女には、何か考えがあるようだ。

「では私はテストに戻ります」

「待って。ガゼル」

 去り際をベルファに呼び止められた。彼女は流れるような高速タイピングを披露すると、俺に文書データを寄越す。

「その項目もテストして欲しいの。……どうも気になってね」

 意外な内容だ。思わず意図を聞き返しそうになる。しかし、俺一人の考えで凝り固まるのも(まず)いと考え、彼女の要望を受け容れる事にする。

「心得ました。艦隊を再編し、テストを再開します」

 艦隊を二分した。前衛はレーヴァテイン級母艦を旗艦とし、ナリ級戦艦二隻、ラスティネイル級戦艦一隻、アフィニティ級巡航艦を三〇隻とする。後衛はスカイアイル級機動要塞を旗艦とし、モリガン級母艦一隻、ラスティネイル級戦艦二隻、アフィニティ級巡航艦三〇隻、バーボネラ級工作艦一二隻が控える。前衛が実験戦闘を行い、緊急時は後衛が火力支援を行う構えだ。艦隊再編と布陣を済ませた後、ボクセルシステムでの一斉改装を行った。


『AIガゼル、ノード〝ラスティネイル#C〟に接続完了』

 俺は馴染の戦艦にアクセスすると、前衛を更に二分する。

「ネッサ、引き続き新型のテストを頼む」

『あいさー!』

 ネッサはナリ級戦艦二隻とアフィニティ級巡航艦六隻を率いる。この六隻はナリ級との連携に特化した無人型だ。今後は彼女の戦果と相談し、数を増やす予定でいる。

(さて、こっちはこっちでやる事が一杯だな)

 俺はラスティネイル級戦艦一隻とアフィニティ級巡航艦二四隻を率いる。巡航艦は戦艦の直掩(ちょくえん)に攻撃型を四隻を付けた。残る配置は偵察型六隻と攻撃型一四隻とし、それぞれ独自の任務を与えている。

 前衛は主星近傍で前進守備の構えを取り、後衛も所定の位置で迎撃陣を敷いた。

「配置完了。戦闘開始」

 宣言と共に、誘引魚雷を放つ。遠来の刺客に、改めてご挨拶といこう。


 誘引剤に釣られた宙蝗の跳躍解除を捉えた。

(よし、こっちだ)

 宙蝗らに戦艦ラスティネイルの能動探査(アクティブスキャン)を浴びせる。即座に宙蝗が反応し、こちらへ急接近を始めた。

(さて、ベルファの注文に応えるとするか)

 今の戦艦の武装は、レールガン二門と魚雷発射管四門だ。前者は宙蝗相手には効果無しと観て、使用を控えて久しかったのだが。そうした事情もあり、随伴の攻撃巡航艦の兵装は、魚雷発射管四門にしている。

『対装甲砲撃。敵性体A、命中せず』

 レールガンは見事に(かわ)され、宙蝗らがこちらへと突進する。予期していた俺は、急速左傾(ロールレフト)からの垂直下降(リフトダウン)緊急回避(ブレイク)した。随伴艦らも、その動きに追従している。

(痛ッ……てぇッ!)

 推力偏向(ベクタード)ノズルと復原機(バラスター)を使い、急速反転を掛ける。復原機は艦の重心を自在に変化させ、今迄(いままで)以上に攻めた宙戦機動が可能になった。その代償には、この際目を(つぶ)ろう。

(次の注文だ)

 旋回に手間取る宙蝗に追い(すが)り、後ろからレールガンを見舞う。

『対装甲砲撃。敵性体A、命中』

 後方から侵徹した弾体は、標的の動きを一撃で奪い去っていた。検証の為に手数を絞り、単発射撃したにもかかわらずだ。存外の戦果に意表を突かれる。

『命中確認。詳細走査(ディティールスキャン)……完了』

 シギュンの声で我に返る。彼女は母艦レーヴァテインと偵察巡航艦三隻の眼を使い、瞬時の解析を可能にしていた。残る三隻の偵察巡航艦は隠密擬装ステルスカムフラージュ展開のうえ、死角となる主星の裏側を警戒している。

(最後の注文だ)

 俺は行き足を失った宙蝗の正面に回り込む。対する宙蝗は藻掻くように姿勢を制御し、顔を背けようとした。こちらの射線への角度を取って跳弾を誘い、最後まで生き足掻(あが)こうとするようにも観える。

(……悪く思うな)

 放たれた止めの一撃は、宙蝗の前部に被弾痕を刻みつけた。

『分解部隊、発艦』

 後衛のスカーの号令で、作業ドローンたちが前線に上がる。検証を兼ねた戦闘は、ここからが本番だ。


 宙蝗らが続々と現れる。俺の隊がベルファの注文を検証する一方、ネッサ隊は派手に暴れ続けている。戦場は早くも乱戦の(てい)を成しつつあった。

(そろそろ潮時だな)

 ネッサ隊が宙蝗の注意を惹き過ぎている。俺は検証を中断し、ネッサ隊の援護に回る。参戦する新手の脇を衝くように、俺の隊の五隻を追従させた。

『自艦、魚雷装填。一、四番に撹乱(かくらん)。二、三番に収束』

『直掩艦群、魚雷装填(そうてん)。弾種、収束』

 戦艦(ラスティネイル)の魚雷発射管四門に、魚雷を装填する。発射管番号は、左舷外側からの数え上げだ。両舷外側の撹乱魚雷、これが俺の考案した新兵器だ。両舷内側の収束魚雷は、先ほど多用した親子式魚雷の正式名称となる。直掩艦四隻にも同様に、収束魚雷を全門装填した。

『撹乱魚雷、発射』

 一発の撹乱魚雷が航走する。宙蝗らの鼻先を横切るように旋回した。

(うまく釣られてくれよ)

 この魚雷は白星鉄を模したノイズを振り()く。宙蝗は星鉄を見境無く()らい、レーヴァテイン級母艦やナリ級戦艦に執着を示していた。白星鉄は桁違いの性能を秘めた星鉄であり、宙蝗にとっては見逃し難い好物に映るのかもしれない。俺はそう仮説を立て、この(おとり)兵装を試作したというわけだ。

『敵性体群、転進』

 宙蝗らは、見事に釣られた。その数、二〇体。撹乱魚雷は宙蝗よりも小柄ながら、強力な疑似白星鉄ノイズを振り撒き続ける。俺は撹乱魚雷をネッサ隊から遠ざけつつ、釣られた宙蝗らの背後を取った。宙蝗らは互いにぶつかり合い、次第に失速する。

『収束魚雷、発射』

 五発の収束魚雷が統制された雷跡を描く。魚雷には宙蝗が放つ推進ノイズを目印として入力済みだ。分離した子魚雷は狙い(あやま)たず、個別に割り振られた目標へと命中する。

 一五体の宙蝗が航行不能となり、残る五体も覚束ない動きで離脱を図ろうとした。俺は直掩艦四隻へ、追撃の第二射を命じる。

『目標敵性体群、航行停止。分解部隊へ座標諸元転送』

 あとは作業ドローンたちに託し、俺は新たな群れを釣りに行く。これでネッサ隊の負担を軽減できるだろう。

 戦況の変化に合わせ、予備の攻撃巡航艦らも投入する。警報フェロモン濃度が高まれば中和魚雷で、手透きになれば撹乱魚雷と収束魚雷で援護を命じた。

『入れ食いだな。主の私を()き使いおって』

 言葉とは裏腹に、スカーが喜色の(にじ)む声を上げる。彼女が操る作業ドローンたちは、順調に宙蝗を分解し続けていた。分解された宙蝗は緑星鉄として備蓄され、今後の艦隊強化や補給へと費やされる。

『そろそろ攻勢限界です。戦闘を中断し、情報を分析しましょう』

 長らく沈黙していたベルファが口を開いた。その声音には、微かな警戒感が漂う。

『うむ。宙域を中和せよ』

 スカーの声音に冷静さが戻る。宙蝗を殲滅(せんめつ)後、中和魚雷で後続の来襲を断った。



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