表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/108

第九二話 進む迎撃準備


***


(それがし)は第九艦隊提督、クイント・ティリーと申します。女王陛下のご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」

 ティリー提督は着任挨拶の為、ロンド管理局を訪れていた。通された一室には、娘のルストとアイセナ女王母娘の姿がある。

「この者は副官のグナー・ユーリス。現刻を(もっ)て、防衛の任に当たります」

 提督が盾の敬礼を(ささ)げ、女王が挙手の答礼を返す。

「アイセナ王国女王、ディセア・アイセナ。共同し、宙蝗(ちゅうこう)に臨みましょう」

 顔合わせが済むと席を勧められ、軍議の時間となった。

「さて。ここからはざっくばらんに行こうね、提督さんがた」

「いきなり砕け過ぎです、お母様」

 女王母娘の掛け合いに、ティリー提督は思わず和む。

「こうでもしないと、そちらの副官さんが気疲れしそうだからねぇ?」

 女王の指摘を受け、提督は事態を察知した。一瞥(いちべつ)した副官の顔には、敵愾心(てきがいしん)が色濃く浮かんでいる。

「……ユーリス!」

「失礼(つかまつ)りました」

 提督が語気強く(とが)めると、副官はふてぶてしい謝罪で応えた。

「あっはっは! 判り易い子だねぇ」

 許しとも(あお)りとも取れる女王の哄笑(こうしょう)が響く。

「私情は厳に慎め。そう申した(はず)だぞ?」

「ハッ。如何様な処分も甘受いたします」

 言葉は殊勝だが、顔色は不遜そのものだ。血気盛んなこの若者に、割り切りを求めるのは未だ酷だったか。

「ま、副官さんの気持ちも判るよ。アタシもそうだったからね」

 女王がひらひらと手を振り、提督に笑いかける。彼女は手にした端末を机上に据えると、映像の投影準備を始めていた。

「まずはこれを観ようか。話はそれからだね」

 女王の顔から笑みが消え、映像の再生が始まった。


 映像では巨大なる宇宙港が、瞬く間に()らい尽くされていた。委細は明かされなかったが、ダンスカー艦隊に属するものだと思われる。

「これが、宙蝗。アタシら人類を滅ぼしかねない害虫だよ」

 女王が淡々と告げる。先ほどまでの砕けぶりが(うそ)のようだ。

「人間どうしでいがみ合ってる場合じゃないんだ。わかってもらえたかな?」

「存分に。皇帝陛下が急がれていた理由に、ようやく理解が及びましたぞ」

 ティリー提督は肝を冷やすも、アイセナ女王に気丈に応えていた。

「ユーリス殿。顔色が優れぬようだが、医務室にご案内しようか?」

 娘のルストは、落ち着き払って呼びかけていた。

「……必要ない。小官の職務を、全うする」

 対する副官ユーリスは、息も絶え絶えだ。明らかに痩せ意地を張っている。

「刺激が強すぎたね。深呼吸してから、話そうか」

 砕けた調子に戻る女王に促され、提督たちは呼吸を整えた。

「これは、他言できませんな」

「そうだねぇ。パニック間違い無しだわ」

 提督は努めて明るく振る舞うも、女王は更に明るく混ぜ返した。

(陛下らは、早々に腹を括られたのだな)

 既に覚悟を済ませた主君を畏敬し、ティリー提督は気を引き締めて軍議に臨む。


 アイセナ女王との軍議を終え、ティリー提督らはロンド管理局を後にした。麾下(きか)の第九艦隊は、スカイボート係留施設近くで陣営(キャンプ)を張っている。

 提督は座乗艦を陣営に引き上げると、自室で今後の行動についてを考え始めた。

(事前連絡どおり、魚雷戦仕様で()せ参じたが……肝心の魚雷は生産中とはな)

 宙蝗には特殊な魚雷で対処するとの事だ。シミュレーターによる魚雷戦訓練もそうだが、導入したての新型艦の慣熟も十分とは言い難い。並行して進めるとしよう。

(それよりも問題はユーリスだ)

 かの者はザエト閣下に宇宙港リラ管理の任を解かれ、此度(こたび)の防衛出撃に同行するよう命じられている。内心は穏やかではあるまい。

 ユーリスはブルート星系からの撤退以来、明らかに功を焦っていた。焦りは失敗を生み、更なる焦りへと(つな)がる。そうした悪循環が、失敗の連鎖を生んでいた。ついには疑心に囚われ、皇帝陛下への批判すら口にする有り様だ。

(このままでは、元老院との確執も深まるだろう)

 ユーリスは元老院議員たちとも近しい。宙蝗の脅威を知らぬ元老院は、皇帝陛下の施政を咎める世論形成に熱心なはずだ。議員らからは遠ざけておきたい。

(……それでも、やるしかあるまい)

 帝国のみならず、人類の存続が危うい。帝国の行く末を案じるのは、宙蝗の脅威を退けてからであるべきだ。ティリー提督はそう再確認し、行動計画を練り上げた。


***


 話はほんの少しだけ(さかのぼ)る。俺は宙蝗との連戦に、要塞の火力で区切りをつけた。

「航宙優勢確保。警戒しつつ、資源備蓄と艦艇の改修を行います」

 作業ドローンたちが、宙蝗の亡骸を分解し始めた。緑星鉄備蓄が進んでゆく。

『大儀である。星鉄転換炉の制御権を委譲した。存分に活用するが良い』

 スカーの通信と共に、大量の情報が導入される。緑星鉄関連技術が、全て解禁された。俺は早速、艦隊の整備や補給に取り掛かる。

(……ッ!)

 想像以上に資源消費が重い。魚雷を多用したうえ、艦にも無茶な機動をさせた。もっと効率よく迎撃を行わねば、今後も勝ち続けるのは難しい。

(優先順位の高い順に始めよう)

 まず眼の強化だ。既存艦艇すべてに、対宙蝗走査機(スキャナー)を導入する。次に艦艇の運動性能向上を図りたい。最低でも、ネッサ操るナリ級戦艦らと連携可能なレベルにすべきだ。

(最後は迎撃の効率化か。これは二段構えで考えなければ)

 先鋒(せんぽう)のダンスカー艦隊と、後詰めの王国・帝国連合艦隊には、扱える技術に開きがある。効率化の手段を新兵器に求めるならば、そこを考慮する必要がある。

(……長考の時間だ)

 ボクセルシステムを起動し、時を停めた。先の戦いの記録を振り返り、まずは改善すべき点の洗い出しを始める。


 さて、ここから数日の動きを(まと)めておこう。

(スカーが到着するまで、出来る限りデータを集めよう)

 まずは走査機を一新し、宙蝗が観えるようになった。幾つかの新兵器も試作し、実戦で検証する必要がある。その為には、宙蝗を誘引する方法も欲しいところだ。

『宙蝗の誘引手段を作っておきました』

 シギュンから受け取ったデータを(ひも)解く。例の警報フェロモンから誘引成分を割り出し、合成したものらしい。誘引剤とでも呼ぼうか。

『新型のテストは、あたしに任せて!』

 そう言うネッサに、新型巡航艦を託す。発電機(ジェネレーター)推進機(スラスター)の一部に緑星鉄を使い、性能向上を図っている。更に新開発した復原機(バラスター)も搭載した。これは艦の重さを増減させる設備であり、運動性を劇的に変化させる可能性を秘めている。

 緑星鉄を艦の部品に使う場合、他の星鉄に変異し易い性質に要注意だ。その対策は、スカーが開示した情報の中にあった。

(まさか、ただの鉄で遮断できるとはなぁ)

 緑星鉄製の部品は、鉄でコーティング済みだ。あとは実戦で信頼性を検証する。

「宙蝗の迎撃を再開する。戦闘準備」

『『了解』』

 俺は要塞へと意識を戻し、宙蝗との戦いを再開する。警報フェロモンに惹かれ、銀河核のそばを離れた宙蝗らは、進軍速度を落としていた。宙蝗は跳躍の目印を見失って以来、先頭はその場に留まっている。後続は先頭への合流を図っていたようだ。

 誘引剤と中和剤を活用し、迎撃と分解に勤しむ。宙蝗は要塞を迂回(うかい)して王国領へ進むつもりは無いようだ。あくまで、今のところはだが。

「テストは順調だ。二人の協力に感謝する」

 緑星鉄の備蓄も捗っている。ネッサのテスト結果を踏まえて、そろそろラスティネイル級戦艦の改装に着手したい。そんなタイミングで、スカーとベルファの乗る母艦モリガンが、最前線への合流を果たした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ