表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/108

第九一話 最前線へ


***


(戦況はひとまず安定したか……)

 スカーは安堵(あんど)もそこそこに、次なる行動へと移る。母艦モリガンは既にブルート星系入りを果たしており、宇宙港ロンドのそばに停泊中だ。乗員一同は、二隻の戦艦ラスティネイルに分乗して入港する。ドック隣接のロンド管理局への一室へと通されると、そこには懐かしい顔が皆を待ち構えていた。

「皆、元気そうでよかったぁ」

 女王ディセアだ。彼女はここを、宙蝗(ちゅうこう)迎撃の作戦本部としているらしい。

「壮健でなによりだ、ディセア」

 スカーも応じる。一同は女王に勧められるまま、席についた。ディセアとベルファ、エシルとルストが隣り合い、横手の上座にはスカーが座る。

「まず仕事の話をしよう」

 女王が口火を切り、話し合いが始まる。議題はもちろん、宙蝗への対応についてだ。


 投影した星系図を囲み、皆で情報を共有する。

「現在の警戒態勢について、おさらいしておこう。其方(そなた)らの要所は、この三つだ」

 スカーがブルート星系図を指した。ここで言う要所とは主星、宇宙港ロンド、スカイボート係留施設の三つが該当している。

「主星の哨戒(しょうかい)は、我らダンスカー艦隊が担当する」

 宙蝗を捉えるには緑星鉄が必要だ。残した巡航艦六隻が、守備艦隊の眼となる。

「あたしらアイセナ王国艦隊は、宇宙港ロンドを守るよ」

 女王が意気込む。王国艦隊はロンド付近に陣営を張り、演習を行っている。

「残るは、スカイボート係留施設だが――」

 スカーが端末を操作し、電文を投影させた。

「ここは帝国が防衛する。帝国は既に艦隊を派遣中だ」

 帝国は電文で到着予定を先触れしていた。無用な誤解を避ける為なのだろう。

「ギリギリまで演習しながら待機するんだね」

 エシルは要点を(つか)んだようだ。

「ええ。人や物の流れを止めるのが早すぎると、かえって混乱や危険を招くでしょう」

 ベルファが答える。今や宇宙港ロンドは、ブルート星系の一大拠点として機能していた。

(宙蝗の脅威は、無闇に広められぬからな)

 目先の暮らしか、少し先の敵襲か。どちらにも備えるべき難局だ。

「我らの先遣隊が、この星系で宙蝗を迎撃しておる」

 そこは臣下らが、宙蝗の第一波を退けたばかりの宙域だ。しかし宙蝗は、未だ銀河核からの進軍を続けている。

「討ち漏らしが出た時点で、厳戒態勢へ移行せよ」

「了解だ。帝国には私から伝える」

 スカーの指示にルストが応じた。彼女の身形(みなり)は、初対面の際の礼装に戻っている。だが言動は寝食を共にした頃のままだ。その事実を前に、スカーは満足げに(うなず)いていた。


 さて、ここから数日の動きを(まと)めておく。

「我らは帝国軍の到着を待って出立する」

『了解。ディセアに宜しくお伝え下さい』

 臣下らは宙蝗共の迎撃に勤しむ。現有戦力でも、当面は大丈夫だろう。

「機兵らを巡査として残してゆく。我らとの技術提携を強みとして、宇宙港ロンドの中立維持に努めよ」

 中立は皆の敵と見做(みな)される。(よしみ)を通じた王国や帝国はともかく、第三勢力が手出しできぬ仕組みづくりが必要だ。その為の腹案をエシルとルストに授け、彼女らに実務を担わせている。この実務を通しての指導を、彼女らへの手向けとしたい。

『余の親書を、スカイボートに託した。船出の前に披見を願いたい』

 皇帝からの量子通信に承諾を返す。

(あえての親書とは……な)

 密談が目的では無さそうだ。だとすれば、あの艦に届けさせる事自体に意味があるのやもしれぬ。その真意は今は詮索せず、愉しみに取っておくとしよう。

「エシル殿下には、たっぷりと宿題を出さなければいけませんね」

 ベルファが微笑む。彼女は主君に暇乞いをし、受け容れられたばかりだ。

「受けて立ちます。その代わり……約束を果たしてね、ベルファ先生」

「ええ。殿下が即位される時には、私から相応しい装飾品を贈らせて頂きます」

 主従であり、師弟でもある二人が、互いに激励を交歓する。その様を、女王は満面の笑みで見届けた。

「ベルファの事、よろしくね」

「皆まで申さずともよい」

 差し出された友の拳に、こちらも拳を合わせた。

「またご指導賜る事を願い、稽古に励みます」

 敬礼のルストが、控えめに望みを口にする。

「うむ。其方も息災であれ。稽古には、機兵を活用せよ」

 あえて約束はせず、答礼を返した。

(抜き打ちで、私が手合わせをしてやろう)

 機兵を己が動かし、ルストを驚かせる。悪戯と指導の混ざる思いつきに、スカーは密かに苦笑していた。

 帝国軍に僅差で先駆け、輸送母艦スカイボートがブルート星系へと辿(たど)り着く。スカーとベルファは、既に母艦モリガンへと移乗していた。

『皇帝陛下の親書を届けたい。連絡艇の着艦許可を乞う』

 パドゥキャレ同盟代表、ジムからの通信だ。許可を出すと、彼は自らの操艦で母艦モリガンのドックへと現れる。スカーは情報端末を受け取ると、その場で内容を検めた。

「……返答や如何(いか)に?」

「許可しよう。ただし、等身大にせよ」

 かの皇帝の親書は、スカーの軍功を称える彫像建立を打診するものだった。

「有り難い。貴女らの船出を見送り次第、陛下へ奏上するとしよう」

「物好きなことだな。其方の皇帝も、其方自身も」

 親書に隠された目的を悟る。義理堅きこの商人の望みを、かの皇帝は(かな)えたのだ。



 母艦モリガンの走査機が、艦隊の跳躍解除を捉える。その艦隊が発する公共通信に、スカーは耳を傾けていた。

『こちらアモル帝国軍第九艦隊。要請に応じ、これより防衛に着任する』

『こちらロンド管理局。貴艦隊の来援を歓迎する』

 ティリー父娘が公共通信で言葉を交わす。数分の通信ラグを経て、第九艦隊は進路を変更した。そのまま短時間の巡航へと移り、スカイボート係留施設近くへと移動する。

「第九艦隊の巡航解除を確認。出航だ、ベルファ」

「了解」

 前席のベルファが微速前進を掛ける。第九艦隊とすれ違う頃合いを図り、後席のスカーはかの艦隊との回線を開いた。

『ご武運を、スカー提督』

「後詰めを頼む、クイント提督」

 映像通信にて、挨拶を交わす。艦隊がすれ違う際、敬意を示す為の艦隊礼式だ。そんな遣り取りの影で、幾つかの電文が届く。母艦モリガンを見送る者たちからだった。

『銃後の守りは請け負った。パドゥキャレ同盟』

『ベルファの姐御(あねご)、達者でな。アイセナ王国兵一同』

『スカー執政官、ご指導有難うございました。ロンド管理局員一同』

 電文の受信が続く。戦の門出に、思わぬ土産を貰ったようだ。

「先遣隊と合流する。ハイパードライブ起動」

 スカーが号令する。関わりし者を護る為、(おの)が使命を果たす為に。

「ハイパードライブ起動……三、二、一、今!」

 ベルファが応え、母艦モリガンは戦場へと跳躍した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ