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第九〇話 飽和雷撃


***


巡航艦らと横陣を敷き、雷撃を続ける母艦レーヴァテインの艦橋にて。俺は慎重に戦場を観察していた。

宙蝗(ちゅこう)の狙いが、やけに偏っているな?)

 途中参戦した、レーヴァテイン級やナリ級ばかりが狙われている。宙蝗は多勢だが、一挙に攻めては来ない。これらの艦へ、散発的な突撃を繰り返していた。

 随伴の巡航艦は、レーヴァテイン級一隻に対し一二隻、ナリ級二隻に対し六隻が付く。前者は横陣にて飽和雷撃を続け、後者は近接格闘宙戦(ドッグファイト)の真っ只中だ。

 宙蝗たちは主星付近に屯している。今はざっと二〇〇体ほど。なおも増加傾向だ。相対する俺たち二一隻との間には、行動不能となった個体らが漂う。

(ものは試しだ)

 宙蝗らは幾つかの集団に別れ、漂う同類を迂回(うかい)しつつあるようだ。その隙に母艦を後退させ、横陣を鶴翼へと変化させる。それでも宙蝗は母艦をめがけ、長蛇を成して突出する。その数、二〇体。後続を待たず、いきなりの急接近だ。

(……ッ! 躊躇(ためら)い無しかよ!)

 宙蝗の真っ向へ、母艦の親子式魚雷を見舞う。勢いを削がれた宙蝗の先鋒(せんぽう)へ、後続が衝突していた。そのまま多重衝突を起こした宙蝗は、隊列を乱して立ち往生する。そこへ両翼の巡航艦らが、側面への挟撃を加えた。この追撃は宙蝗らの後部――推進器官を有し、比較的防御が薄い部位――へと、終末誘導を行っている。その結果、母艦へ肉薄して来た宙蝗を、(ことごと)く航行不能へと陥れる事に成功した。推進力を失いつつもジタバタと蠢く宙蝗へ、俺は警報フェロモン中和魚雷を撃ち込む。

『動きを封じた宙蝗を盾にしつつ、新手の進路を制限しましょう』

 シギュンが提言する。今やるべきは時間稼ぎだ。しぶとい宙蝗は、討伐よりも無力化を優先すべきだろう。

「それが良さそうだ」

『アイ・マム!』

 俺はネッサと共に同意する。未だ多勢を誇る宙蝗らは、相変わらず逐次攻撃の構えだ。どんな思惑があるにせよ、時間が稼げて好都合だ。戦いつつ検証するとしよう。


 狙いが偏る宙蝗を逆手取り、俺たちは無力化を推し進める。ネッサはナリ級らの速力を落とし、宙蝗らを誘っている。誘われた宙蝗らは背後から襲いかかるも、そのまた背後からは随伴艦らが雷撃を浴びせていた。俺はレーヴァテイン級を介し、統制した雷撃を繰り返している。

『待機中の宙蝗は、明らかに戦闘意欲を欠いています――』

 シギュンの報告だ。彼女は俺たちの眼として、この宙域を注意深く観てくれている。

『中和魚雷による、沈静化の影響と観てよいでしょう』

 言われてみれば、最初の追手は跳躍解除と同時に襲いかかって来た。それに比べると、今ここいる宙蝗は動きに緩慢さが目立つ。

 遂に宙蝗は攻撃行動を取らなくなり、漫然と留まるのみになった。数はざっと一〇〇〇ほどだろうか。相対する俺たちとの間には、行動不能の個体が五〇〇は漂っている。互いの攻め手が緩み、ようやく戦場が()いだ……かに思えた。

(……ッ! 何だあれは?)

 傷つき漂う宙蝗へ、無傷の同胞らが近づく。すると傷ついた宙蝗の体は、瞬く間に潰れ始めた。その破壊は一点へと収束し、最後は跡形も無くなった。あまりの出来事に、俺は呆気(あっけ)にとられる。

『それが宙蝗の捕食行動だ。お主も記録を観たであろう?』

 (とが)めるスカーの言に、思わず我に返っていた。

此処(ここ)から先は、食うか食われるかだ。腹をくくれ』

 主の(げき)とほぼ同時に、盛大なノイズを検知した。俺たちが位置する後方からだ。母艦レーヴァテインの走査機(スキャナー)には、友軍を示す光点が多数浮かぶ。第一艦隊の来援だ。機動要塞スカイアイルの姿が在る。

「了解。反撃に転じます」

 動けぬ仲間は()らうまで。宙蝗の過酷な生態に、俺は気を引き締めた。


『AIガゼル、ノード〝スカイアイル#A〟、セクション〝スカイ・ゼロ〟に接続完了』

 俺は直ちに要塞へと意識を戻し、宙蝗迎撃艦隊の再編成に取り掛かる。

(スカーはしっかりと戦況を観てくれていたようだな)

 主星から二〇〇光秒ほどの位置に、要塞らは跳躍解除していた。そこは母艦率いる鶴翼の陣のすぐ後ろだ。艦列は先発隊と(そろ)っている。こんな芸当は、ここが主星のみの星系だからこそ出来た。

「陣形変更。ネッサ隊、前衛に合流されたし」

『アイ・サー!』

 再編した陣容は、スカイアイル級機動要塞一隻、レーヴァテイン級母艦一隻、ナリ級戦艦二隻、アフィニティ級巡航艦六〇隻、バーボネラ級工作艦三隻となる。俺は前衛の陣形を変化させ、要塞前面に蓋状の陣を敷く。要塞側面には艦を置かず、ガラ空きにしてある。

 腹を満たした宙蝗らが前に出る。幾つかの小集団に纏まりつつの波状攻撃だ。

「合流確認。スカイアイル、魚雷戦開始」

 要塞側壁の垂直発射管群が、一斉に魚雷を放った。それらは前衛艦隊を避け、弧を描いて航走する。攻め寄せる宙蝗らは、前方から包み込むような雷跡の網に捕らわれた。

 親子式魚雷が炸裂(さくれつ)する。雷撃の花火が、そこら中で咲き乱れていた。

(さすがに資源消費が重いな。長引かせず、殲滅(せんめつ)せねば)

 これまでの雷撃とは規模が違う。圧倒的な火力を前に、宙蝗は混乱を生じていた。この雷撃には、警報フェロモンの中和魚雷も混ぜている。新手の来襲を防ぎ、急ぎこの宙域の安全を確保したい。

 戦列乱れる宙蝗たちへ、要塞が再度の雷撃を見舞う。その瞬間だった。

『注意! 敵前衛、急速接近中!』

「友軍前衛、各個雷撃」

 気色ばむシギュンに、俺は冷静に応じる。両翼を(むし)り取るが如く宙蝗を討つ最中、被雷を免れた中央の一群が吶喊(とっかん)する。縦陣を成しての一点突破が狙いだろう。速力を増すその群れを、前衛艦隊の雷撃が迎える。

(敵ながら、見事)

 前衛艦隊の雷撃が止む。思いがけぬ敢闘を見せた宙蝗らは、(しかばね)となって漂着した。母艦レーヴァテインが、艦首の牽引光索(トラクタービーム)円錐(コーン)状に照射する。屍がそこに集まると、工作艦らが作業ドローンを飛ばし、分解作業が始まった。

 その後も要塞スカイアイルは雷撃を続け、遂に宙蝗は全滅した。

「航宙優勢確保。警戒しつつ、資源備蓄と艦艇の改修を行います」

 要塞からも作業ドローンが飛び立つ。討ち果たした宙蝗は残さず分解し、緑星鉄(りょくせいてつ)として備蓄する。まずは各艦に、緑星鉄製の対宙蝗走査機を標準搭載させたい。

『大儀である。星鉄転換炉の制御権を委譲した。存分に活用するが良い』

 主から労いの言葉を受ける。宙域には、静寂が戻っていた。



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