表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/85

第八五話 宙蝗の生態(前編)

『ボクセルシステム、起動完了』

 俺は時を停め、詳細走査(ディティールスキャン)結果を検分する。宙蝗(ちゅうこう)の謎を出来るだけ解き明かそう。まずは走査機(スキャナー)で捕捉できなかった点からだ。このデータ取得には、偵察巡航艦で高出力かつ長時間の走査を必要とした。

(……そういう事だったのかぁ)

 宙蝗の朽ちた外殻の奥には、やけに高密度な緑星鉄(りょくせいてつ)の反応が眠っていた。緑星鉄は時空に作用すると聴いている。この天然の隠密擬装ステルスカムフラージュと言うべき体で、自らが発する電磁波を吸収しているのだろう。

(どう観ても、人工物には観えないな)

 内部構造は無機質ながら、生物的な器官や神経束らしきモノが観て取れた。

星鉄(せいてつ)と化合した、珪素(けいそ)生命体か?)

 そう仮定すると、前部は感覚器官、後部は消化や推進器官、中部はそれらを結ぶ神経束に観えてくる。

(……ん? これは?)

 緑星鉄が大半を占める宙蝗から、微かながら青星鉄(せいせいてつ)赤星鉄(せきせいてつ)の反応を見つける。前者は前部のレールガン被弾痕から、後者は後部の消化器官らしき(のう)中にあった。妙に気にかかるが、現状では判断材料が無さすぎる。

(これ以上は堂々巡りになりそうだな。ひとまず、スカーに報告しよう)

 俺は更なる判断材料を求め、ボクセルシステムを後にする。


『AIガゼル、ノード〝モリガン#A〟に接続完了』

 俺は報告の為、母艦モリガンへと意識を戻した。スカーはベルファと共に艦橋に居る。宇宙港アモルにほど近い宙域に、第二艦隊を勢(ぞろ)いさせていたようだ。役目を終えたアモル救助部隊――地上部隊や救助母艦など――は、既に資源化されている。

「状況報告。宙蝗と会敵。交戦の末、沈静化を確認。詳報、送ります」

「ご苦労。……ふむ」

 後席のスカーが端末を操作する。要塞のメインAIと通信したようだ。宙蝗との戦闘記録を分析にかける為だろう。

「ガゼル、お主の所感はどうか?」

 スカーが艦隊を指揮しながら問うてくる。見覚えのある二重の円陣が、母艦前方に組み上がりつつあった。

「既存の艤装では、捕捉や撃破が困難です。早急に対策する必要があります」

 火器管制システムでの捕捉は、命中率の底上げに必須の工程だ。おまけに宙蝗は群れを成している。数的不利で対抗するには、初手で確実に倒せるようにしておきたい。

「宙蝗は緑星鉄の体を持ち、高い隠密擬装能力を有しています。これを突破できる走査能力が先ず必要です」

 宙蝗は自身が空間に放つ、電磁気や熱などの痕跡を吸収していたらしい。レールガンがラッキーヒットしてからは、その部位から様々なノイズが漏れ出ていた。

「それなら、緑星鉄で走査機を造るのが良いでしょうね」

「うむ、そうだな」

 ベルファの指摘に、スカーが同意する。

(……と、言われても。造り方がさっぱり判らんぞ)

 こと緑星鉄に関しては、俺やガゼルがアクセスできる情報は限られている。

「ベルファ。ガゼルの走査機開発支援を頼めるか?」

「ええ。王国艦隊にも扱えるものを造りましょう」

 トントン拍子に話しが進む。良い機会なので、流れに乗ってみよう。

意見具申(いけんぐしん)……いえ、お願いがあります。これからの宙蝗との戦いに備え、私は緑星鉄についてもっと学んでおきたい。ご教示願えますか?」

 宙蝗は緑星鉄の塊だ。これ以上、謎として無関心では居られない。

「よろしい。宙蝗の分析も兼ね、情報を整理して共有しよう」

「異存は無いわ」

 意見が一致した途端、俺の頭に新たな情報が流れ込んで来た。


 艦外の宙域に、白く激しい閃光(せんこう)(ほとばし)る。二重の円陣の内に、新たな宇宙港が現れた。

(輸送母艦スカイボート用の係留施設を造っていたのか)

 荷役や補給の効率を上げる為の設備だ。中立港ロンド近傍のものと同型となっている。帝国への引き渡しを待つ間、警備しつつの情報共有となった。

「緑星鉄は青星鉄や赤星鉄に変化し易い。緑星鉄が希少な所以(ゆえん)だ」

「ええ。この宙蝗の被弾痕が、青く変異しているのはその為ね」

 スカーの説明に、ベルファが応じる。彼女らは、俺の戦闘詳報を観ながら話しているようだ。宙蝗に撃ち込んだレールガンの弾体は、軽く頑丈な青星鉄製だった。着弾時に何らかの相互作用が働き、傷口が青星鉄化したというのだろう。

「逆に青星鉄と赤星鉄を融合させる事で、緑星鉄に変化させる事もできる。我が(とりで)には、その為の転換炉を備えておる」

 これら三色の星鉄は、比較的自由に変化させる事ができるらしい。

「緑星鉄は時空に作用するのでしたね?」

 俺は復習を兼ねて二人に問う。

「うむ。彼奴の回避機動は、瞬発力偏重のハイパードライブに()るものと観た」

 スカーの指摘に思わず唸る。あの横移動がごく小規模な巡航だとすれば、確かに光速を超えた回避機動にも説明がつく。〝光速度不変の原理〟を誤魔化し、光を置き去りにできるのが、ハイパードライブの特性だからだ。

「ブーストラグの無い、ハイパードライブですか。多用すれば体への負担や、消費エネルギーが(かさ)みそうですね」

 ベルファの指摘は恐らく事実だろう。ハイパードライブは通常、必要な時に必要なだけ過給(チャージ)する事で負荷を和らげる。ブーストラグは、過給にかかる遅延時間の事だ。この時間を最小化したければ、常にハイパードライブを起動しておくしかない。過給圧がかかり続ける為、ドライブは消耗し、エネルギー消費も増えるというわけだ。

 宙蝗の高密度な緑星鉄の体は、高負荷に耐え続けた反動とも取れる。被弾後の宙蝗は明らかに勢いを失い、すぐに沈静化していた事も思い起こしていた。

「重力操作で自重を軽くする事や、時間操作で判断や反応速度を高速化する事も、理論上は可能だ」

「反応速度をまず速めねば、レーザーの回避は覚束ないでしょうね」

 緑星鉄を識る二人の確認作業が続く。どうやら緑星鉄は、その希少性に見合った潜在能力を秘めているらしい。……まったく、たいした卑怯技(チート)っぷりだ。

「宙蝗は代謝量が高すぎる体質に思えます」

 まるで餓鬼のようだ。思わずそんな感想を抱く。

「たしかにな。……そう考えれば、奴輩の食い意地の悪さも道理よの」

 スカーが吐き捨てるように同調する。要塞の惨禍を思い出させたか、彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。

「それにしても、レールガンが易々と命中したのが不思議です」

 俺はたまらず話題を逸らしてみる。

「二撃目は(しっか)りと(かわ)していますね。初撃は良く観えなかったのでしょうか?」

 ベルファがそう指摘する。宙蝗の知覚の仕組みは不明だが、有り得る話しに思えた。


 暫くの時が経つ。さすがに決め手に欠け、三人とも考えあぐねていた。

「現時点では、何とも言い難いですね――」

 そう締め括りつつ、俺はボクセルシステムに入っていた。

「……それを踏まえ、対抗兵装を設計してみました」

 密かに停まった時の中での試行錯誤を果たし、成果物を持ち戻る。

「ほう。親子式魚雷(クラスターフィッシュ)か」

「そうです。線から面の制圧に切り替え、回避機動を無効化します」

 興味を示したスカーに、簡潔に説明をする。宙蝗の回避機動は、正確かつ最小限だった。そこを逆手に取った二段構えだ。親魚雷に反応して回避した宙蝗を、より高速な子魚雷に追わせて狩る。察知されて連続や大きな動きを取られたとしても、エネルギー消費の増大が見込める。そこまで考えると、俺は忘れていた事を幾つか思い出した。

(そう言えば、あの宙蝗の戦いぶりは、あまり利口とは言えなかったが……)

 愚直に突撃を繰り返すだけの、お粗末な攻撃だった。しかし、明らかに〝斥候(せっこう)〟としか思えない、奇妙な単独行動を取っていたのが気にかかっている。

(宙蝗はある程度、組織力や社会性を持った群れなのか?)

 だとすれば斥候役の個体に、情報を持ち帰らせぬようにするべきだ。事が上手く運べば、宙蝗本隊の動き出しを遅らせる事ができそうだ。

(宙蝗どうしの意思疎通手段について、解析が必要だな)

 意思疎通のやり方が判明すれば、電子戦も選択肢に入って来る。採れる手段は、多い方が良いのは言うまでも無いだろう。

(……っと、いかん。宙蝗を沈静化させて、それっきりだったな)

 現在は緑星鉄を全て使い切っている。これから緑星鉄製の走査機を造るところだ。あの宙蝗は、資源として分解するのが良い。……そんな考えが頭を過った瞬間だった。

「緊急警報。ノード〝アフィニティ#G〟に異常発生。オーバーライド開始」

 宙蝗を詳細走査していた偵察巡航艦に、不測の事態が発生したらしい。俺はそう報告するや(いな)や、戦場へと舞い戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ