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第八四話 斥候を狩れ


***


 俺は提督に呼び出され、仮想会議室へとアクセスした。いつもの円卓には既に、女王と皇帝の二人も居る。

宙蝗(ちゅうこう)斥候(せっこう)が、王国への接近を早めておる」

 要塞スカイアイルの観測データが、スカーの手で映し出された。

(数千光年の距離があるはず。どうやって観測したんだ?)

 素朴な疑問を感じたが、女王らの前だ。きっと機密に抵触するだろう。俺は規約(プロトコル)に従い、余計な好奇心を追いやった。

 手近の恒星めがけて小刻みな跳躍を繰り返していた斥候は、明らかにブルート星系を目指した長跳躍航行に切り替わっている。

「第一艦隊から、迎撃の分遣艦隊を出します」

 俺は要塞を護る当該艦隊から、巡航艦三隻の小艦隊を六個抽出した。各隊の陣容は、攻撃型が二隻、偵察型が一隻だ。それらを斥候の予測進路へと散開させ、待ち伏せの構えを取らせる。全体の警戒管制は、要塞に担わせている。

「うむ。此度(こたび)の迎撃は、宙蝗の戦力評価も兼ねておる。まずは足止めを図り、出来る限り情報を集めよ」

「了解。宙蝗の情報は随時送信します。後詰めは宜しくお願いします」

 王国と帝国は同盟を結んだとはいえ、正式な発表はまだだ。今は帝国領内を浮足立たせぬよう、迂闊(うかつ)な艦隊行動は控えたい。帝国首都港の復旧へ向けて、資源の援助も必要だ。故に治安の安定した王国から、既存艦隊の分遣で対応する。

「任せて。アタシらは艦の改修を急ぐわ」

 女王が迷い無く宣言する。彼女は中立港ロンドに停泊した輸送母艦スカイボートから、既に赤星鉄を本拠ノーフォへと運び込ませていた。

「余は可及的速やかに、貴国との同盟や通商条約締結を正式に告示する。流言を弄ぶ輩を黙らせ、スカイボートの受け入れ態勢を整えねばならぬ」

 帝国領内には、まだスカイボートが停泊し得る港が存在していない。一般の輸送艦によるピストン輸送に頼らざるを得なかった。

「元老院の承認を取り付けよ。さすれば、我らが造って進ぜよう」

「元老院など関係無い。このまま押し切る」

 提督の進言に、皇帝が強気に応える。彼の真意を巡り、皆の注目が集まっていた。


「……今の元老院に、この難局は(さば)けぬよ」

 皇帝クラウディアが、にこやかに毒を吐く。

「良いのか? 其方(そなた)は後世の歴史家に、暴君として記されるやもしれぬぞ?」

「構わぬ。全ては民の為だ。……今は宙蝗に備え、一つでも多くの対策を打ちたい」

 どこまでも民を愛する皇帝は、揺るぎなき決意を提督に示していた。

「そもそも元老院議員には、商取引や高利貸しを禁じている。奴らはこの禁則に服さぬばかりか、守るべき民の不安を流言で(あお)っているのだ。そろそろ議員共には、己の役目を思い出してもらうとしよう」

「……」

 淡々と帝国の汚点に言及する皇帝を、女王が静かに見つめている。彼女の蜂起は、まさにその〝元老院議員の禁則〟に端を発していた。

 権力の一極集中を避け、異なる立場から民を守る為の議決機関……それが、元老院だったはずだ。しかし現状は、皇帝との権力闘争の手段と化しているのだろう。

「大局を観ず、我欲に溺れる者共だ。そんな手合に(おもね)るくらいなら、余は喜んで暴君の(そし)りを受けようぞ」

 覚悟を決めた皇帝に促され、俺たちは今後の段取りを確認する。

(そろそろ宙蝗とご対面か)

 目星をつけていた宙域へ、迎撃艦隊群の配置を終えた。既に仮想会議は一旦お開きとなっており、三首脳はそれぞれの政務に戻っている。


『AIガゼル、ノード〝アフィニティ#G〟に接続完了』

 一隻の偵察巡航艦が、微かな跳躍解除ノイズを捉えた。俺はその艦へと意識を移し、部隊の指揮を執る。この辺りは、主星だけの星系が点在する。ノイズ発生源が少なく、宙蝗に対する走査や解析にはうってつけだ。

(……ッ!)

 捉えた跳躍解除ノイズを追い、主星上空を公転する。主星が放つノイズの風の中に、塗り潰されたような欠落を見つけた。

(あれか! やけに捉えにくいな)

 事故記録の中で観た害虫と再会する。全長約三〇(メートル)。色()せた石柱のような外観だ。一体の宙蝗が脇目も振らず、ただ真っ直ぐに突っ込んで来ていた。

『僚艦A、牽制(けんせい)射』

 前衛の攻撃巡洋艦の片割れに、対盾レーザーを撃たせた。火器管制システムでの捕捉が利かず、光学照準を合わせている。猪突(ちょとつ)する目標へと、レーザーの火線が伸びた。

(何ッ?!)

 命中したかに思えたレーザーは、虚しく空を切っていた。宙蝗は瞬時に横へとスライドし、回避に成功している。そのまま勢いを殺さず、僚艦Aへと肉薄する。

(光速を超える瞬発力? そんな馬鹿な!)

 宙蝗の突撃を、緊急回避でどうにか(かわ)す。俺は早くも苦戦を予感していた。


 俺は前衛二隻に、散発的な対盾レーザー砲撃を反復させていた。対する宙蝗はレーザーを器用に回避する一方、愚直で不器用な突撃を繰り返している。

(陽動を掛ける様子は無し、か?)

 作戦や戦術を感じにくい、衝動的な攻撃に観える。だが、油断は禁物だ。敵の情報は不足しており、自動照準も利かない。俺は後ろへ退きながら、宙蝗を迎え撃っていた。

(小回りは利かないようだな)

 突撃を躱されると、旋回にそれなりの時間がかかるようだ。細長い形状の問題が大きいと思われる。

(……ん、待てよ? こいつはシールドを持っていない?)

 宙蝗の表面は、紫外線で朽ちたように観える。この劣化はシールドで耐え、シールドの強さは走査(スキャン)で分析するのが常だ。今の走査機(スキャナー)では、宙蝗を捉えきれていない。

(弾速はもっと落ちるが、試してみるか)

 対盾、対装甲の順に行うのが砲撃の鉄則ゆえに、つい見落としていた。俺は前衛に、対装甲レールガン砲撃を命じる。

『対装甲砲撃。敵性体A、命中』

 宙蝗の真っ向に、レールガンの被弾痕が刻まれた。すかさずもう一隻の僚艦が、追撃の砲火を浴びせる……が、これは躱されてしまった。

(回避機動だけは、やけに正確だな)

 火線に対し、必要最小限の横移動で躱される。しかし時が経つにつれ、宙蝗の動きは次第に精彩を欠いていった。レールガンのダメージが効いたらしい。

『敵性体A、沈黙』

『自艦、詳細走査(ディティールスキャン)実行』

 更に数回の追撃を加え、宙蝗は動かなくなった。俺は攻撃巡航艦らに警戒をさせつつ、偵察巡航艦での詳細走査に踏み切る。



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