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第七七話 炎を抜けて

 各機械歩兵の視界、戦艦の艦外カメラ等の情報を統括し、現状を把握する。

 戦艦ラスティネイルの艦底には、既に乗降用のタラップ車が接続されていた。そこから機械歩兵を送り出し、タラップを降りた先に四機横隊を三段に構えた方陣を敷く。機械歩兵らには、軽盾と電撃拳鍔(スタンナックル)を装備済みだ。

 管理局員らしき人影が、こちらへと近づく。帝国の軍服に似た紺地の宇宙服姿だ。現代の宇宙服と比べ、随分とスリムに映る。フルフェイスヘルメット着用な事もあり、レーシングスーツのような印象を受けた。

「お待たせしました。六〇名、搭乗可能です。避難誘導を始めて下さい」

 俺は陣頭の機械歩兵のスピーカーを使って呼びかけた。

「ありがたい。すぐに始める。……搭乗、六〇名だ。訓練通りやれ」

 応対した男性は、やはり管理局員らしい。無線での指示を聞き、俺は機械歩兵らの陣列中央を開ける。格納庫内の通路扉が開き、宇宙服姿の避難民たちが駆け寄って来た。

「二列に並んで下さい。走らないで下さい。押さないで下さい」

 避難民は皆、気が急いている。無理もないことだが、自重を呼びかけていた。だが効果は薄く、このままでは将棋倒しになりかねないだろう。機械歩兵たちには、割り込みや押し退けの阻止に注力させている。

「皇帝陛下は、皆様の無事なる帰還を見守っておいでです」

 出任せの(うそ)が、避難民の足を射すくめる。我先な行動が和らぎ、群衆は秩序を取り戻し始めた。かの皇帝の威光は確かなようだ。

(……ッ!)

 安堵(あんど)するには、まだ早かったらしい。恵体の男性が列を乱し、駆け寄りつつあった。

「貴様! 順番を守らんか!」

 身を(てい)した管理局員に、暴漢が熱線拳銃(ブラスター・ピストル)を撃ち込む。

「敵襲! 迎撃する!」

 浮足立つ群衆へと、俺は咄嗟(とっさ)に宣言していた。最前列の機械歩兵たちを前に出し、避難民たちを搭乗口へと逃がす。暴漢の銃撃を盾で防ぎつつ、悠々と間合いを詰める。

 暴漢が銃を捨て、襲いかかってきた。一機が盾で阻むも、取っ組み合いとなる。

(悪く思うなよ)

 暴漢の横へもう一機が回り込み、ガラ空きの脇腹に電撃拳鍔で一撃を加える。感電に体を強張らせ、暴漢は床に倒れ伏した。

「制圧完了。……ドック・ゼロエイトに負傷者在り。救護求む」

 俺は戦艦から管理局へ通信を入れた。撃たれた管理局員の無事を祈りつつ、機械歩兵たちを残して発艦準備にかかる。


「搭乗中の皆様。本艦はこれより救助母艦へ直行します。揺れますので、必ずシートベルトをご着用下さい」

 重苦しい空気が、寿司詰めの客席に満ちている。暴漢の襲撃が、動揺となって後を引いているのだろう。

「ダンスカー艦隊の名誉に懸けて、皆様を必ず送り届けてご覧に入れます」

 壮語する俺に、反応を示す乗客が居る。……俺たちの存在はどうやら、市井(しせい)(うわさ)にも及んでいるらしい。

(あの皇帝の仕業かもしれんが)

 講和会議を欠席してまで、何らかの政治宣伝を行っていたらしい。しかし、その詳細までは(つか)めず終いだ。この帝国本拠のアイタル星系には、そうしたツテが無かった為だ。

 残りの戦艦二隻と擦れ違う。港外での分解作業を、無事終えたようだ。管理局は降着先を上手く散らしてくれている。

(おっと、危ない!)

 不意の爆発に、戦艦たちが揺らぐ。燃え盛る港内では、視界も走査(スキャン)も利き辛い。頼みの綱は、港外の偵察巡航艦だ。港内を監視し、リアルタイムに情報共有を行ってくれている。艦艇間の位置情報もその一つだ。

 俺は衝突を回避し、艦を立て直す。

「本艦は港外へと脱出しました。まもなく巡航に入ります」

 客席から感嘆の声が漏れる。艦首方向を修正し、あとは真っ直ぐ駆けるだけだ。

「巡航一〇秒前です。……三、二、一、今!」

 救助母艦群までの巡航時間は一分にも満たない。

「巡航解除。通常航行へ移行しました。救助母艦へ着艦します。シートベルト着用のまま、お待ち下さい」

『こちら母艦アウレア。貴艦の着艦を歓迎する!』

 俺が着艦申請を上げるより先に、皇帝直々(じきじき)の招待が届いていた。

「母艦アウレア、貴艦の歓迎を感謝します」

 どよめく客席を尻目に、俺は戦艦ラスティネイルを母艦アウレアへと降着させた。戦艦はそのままスムーズに、母艦内へと格納される。乗降用のタラップ車が接続し、母艦付きの誘導員が配置についていた。

「本艦は母艦アウレアへ到着しました。誘導員の指示に従い、下艦をお願いします」

 誘導員たちが戦艦へと乗艦し、避難民の介助や誘導を始める。さすがの皇帝直属部隊だ。実に手際が良い。仕事を終えて下艦する彼ら見送ると、俺は収蔵管理(インベントリ)端末を作動させた。機械歩兵を補充し、客席へと着かせる。

「こちら戦艦ラスティネイル。再出撃準備、完了しました」

『ガゼル殿、我が臣民を頼む』

 皇帝の願いと共に、格納庫上部扉が開く。

「お任せあれ、皇帝陛下」

 切なる言葉に応じる。ここからは、夜を徹しての往復航走(シャトルラン)の時間だ。


『AIガゼル、ノード〝アフィニティ#A〟に接続完了』

 先発の偵察巡航艦へと、俺は意識を戻す。宇宙港アモルの火災は、一向に衰える兆しを観せてはいなかった。

(他の傭兵(ようへい)艦も、救助活動を始めたようだな)

 (にわか)に港内の交通量が増えている。皆、右側通行の原則を守り、果敢に操艦していた。俺も負けじと、戦艦三隻を引き続き動かしている。

(……消火が後手気味か?)

 増えた交通を(さば)く為に、管理局の人員を割かざるを得ないらしい。その分、消火に回す余力を失いつつあるようだ。

(あ! いかん!)

 出港中の傭兵艦が、爆風に(あお)られた。(あた)う限りの乗客を乗せ、重量増で制御困難となっていたのだろう。その艦はゲートを潜り損ない、港内の壁へと正面衝突する。

(操縦手がやられたのか?!)

 艦前方に艦橋を設けた箱型輸送艦だ。艦橋は原型を保つも、艦は行き足を失っている。このままでは艦が過熱し、乗客の生命が危ぶまれる。

「港内で衝突事故を確認。事故艦を戦艦に牽引(けんいん)させます」

『お待ち下さい。もっと良い手があります』

 シギュンの声だ。俺は素直に、彼女の策に耳を傾ける。

『私が臨時の入出港管制を行います』

『クラッキングか。……非常時ゆえ、許し願えるかな?』

 シギュンの意図を察したスカーが、皇帝クラウディアへと話しを向けているようだ。俺は理解が追いつかずに面食らう。

『許す。余の臣民を守る為だ』

 勅命が下ると同時に、俺に何かが重くのしかかる気配がした。

『AIシギュン、AIガゼルに装填(ローンチ)完了』

 シギュンは俺を経由し、能力を発揮しようとした。しかし俺の演算能力が足りず、彼女は身動きが取れなくなってしまう。

『あーらら。ちょっと待ってね』

 思わぬ醜態を(さら)す俺に、相棒がおちゃらけた声をかける。

『AIネッサ、AIガゼルに装填完了』

 相棒の演算力支援を得て、負荷が軽減した。

『ありがとう。これで、スカー提督にご奉仕できます』

 シギュンがフリーズから脱したようだ。

『うむ。各員、奮励努力(ふんれいどりょく)せよ』

 スカーの号令を機に、救助活動は新たな局面へと向かっていった。


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― 新着の感想 ―
宇宙港アモルの火災現場における、手に汗握る救助活動を一気読みさせていただきました。 特に第77話において、ガゼルがシギュンとネッサをローンチし、演算負荷によって身動きが取れなくなる描写は、AIを単な…
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