第七六話 宇宙港アモルの異変
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俺たちは相も変わらず、二個艦隊でのゲイル星系主星哨戒を続けていた。
(明日は恩賞授与式だな)
皇帝クラウディアに進呈した量子通信端末宛てに、帝国本拠のアイタル星系への跳躍を先触れする。応答を確認次第、母艦モリガン率いる第二艦隊を向かわせるとしよう。
(……ん? 応答が無い?)
端末の不調かもしれない。作動ログを検めようとした、その時だった。
『緊急、緊急、緊急。港内にて火災発生。至急、救援を乞う』
文字情報のみの微弱な緊急通信を目にし、反射的に乗組員たちにも共有する。送信元端末の所在は、言うまでも無く帝国首都港アモルだ。
『母艦モリガンを偵察に出せ。全艦、緊急跳躍準備』
スカーが居室から指示を出す。
「了解。直掩艦群へ帰艦下令。爾後、跳躍航行へ移行します」
俺は指示に応えつつ、必要な艦隊行動を取る。母艦モリガンの随伴艦らを緊急着艦させ、母艦内に格納する。ラスティネイル級戦艦、アフィニティ級巡航艦を三隻ずつだ。
「発、ダンスカー艦隊母艦モリガン。宛、宇宙港ルテア管理局。我、首都港アモルより救援要請を受く。これより同港へ急行す」
並行して帝国の回線へ報告を入れる。どのみち恩賞授与式出席の為、俺たちが持ち場を離れる事は予定済みだ。
『総員、跳躍準備よし』
「直掩艦群、帰艦確認。区画閉鎖。航路設定完了」
スカーが乗組員らの安全確認を済ませてくれた。皆はそれぞれの個室で、跳躍航行に備えている。俺は閉鎖した個室ごと慣性制御を行い、急加速から乗組員を護る。
「ハイパードライブ起動……三、二、一、今!」
帝国本拠のアイタル星系めがけ、母艦モリガンは跳躍航行を開始した。
「跳躍解除用意……今! アイタル星系へ到着を確認しました」
普段より早めに、跳躍制動を掛けていた。
(やはり、混雑していたか)
主星の周りは騒然としている。数多の艦艇が集い、様々な通信やノイズが飛び交っていた。救助、輸送、護衛、警戒……それぞれが役目を帯び、馳せ参じているのだろう。
俺は母艦モリガンに主星を大回りさせ、首都港アモルへの進路を取る。そのまま加速し、亜光速に抑えた巡航を続けた。並行して巡航艦のボクセルシステムを起動し、装備換装を済ませておく。
「右舷前方に救助母艦群を捕捉」
全長二粁ほどの箱型艦たちが、主星と首都港アモルを結ぶ航路の脇に集結していた。その横陣中央には、一際豪奢な造りの母艦が観える。
「……旗艦の照会を完了。母艦アウレア、クラウディア陛下の御召艦と判明」
あの役者皇帝の座乗艦だ。彼らは舳先を首都港アモルへと向けている。俺はその横陣の後ろを通り、母艦モリガンを最右翼へと迂回させた。
「巡航解除用意……今! 偵察巡航艦、緊急発艦」
巡航解除と同時に、格納庫外扉を開く。間髪を入れず垂直離艦した偵察巡航艦が、即座に母艦の上甲板スレスレを水平飛行する。十分な加速と安全距離を得て、巡航に入ったのを見届けた。
『こちら母艦アウレア! 余は貴艦隊の来援に、心から感謝する!』
皇帝クラウディアの声だ。形式から外れた率直な通信に、彼の本心を垣間見た。
「こちら母艦モリガン。これより救援に着任します」
俺もあえて形式を外して応える。……ここで変に畏まるのは、かえって皇帝に恥をかかせるだろう。
『AIガゼル、ノード〝アフィニティ#A〟に接続完了』
先行させた偵察巡航艦は、既に巡航を解除していた。前方に望む首都港アモルは、異常な高温を発している。付近には帝国のカリガ級工作艦数隻の姿も在る。だが先着の艦群は、首都港の入出港ゲートを遠巻きにしたままだ。
(……ッ!)
彼らが拱手傍観していた理由は、すぐに判明した。
『こちら宇宙港アモル管理局! 接近中の傭兵艦に告ぐ! ゲート内事故艦の、速やかなる排除を乞う!』
通信を入れて来た管理局員は、今にも気が触れんばかりの悲痛さを滲ませる。
只でさえ狭い入出港ゲートを塞ぐように、大型輸送艦が多重衝突事故を起こしていた。事故艦らは既に焼け爛れている。もはや、乗員の生存は望めないだろう。
『排除すべき残骸として、処理して宜しいかな?』
『是非も無し。余が責任を取る』
偵察映像を確認していたらしい、スカーとクラウディアの遣り取りを聞く。
「了解した。直ぐに増援を呼ぶ」
俺は管理局員に応え、母艦に残した戦艦を呼び寄せる。
『戦艦を三隻とも出せ。念の為、機兵も乗せよ。皆が行儀良いとは限らんからな』
スカーの指示を聞きつつ、ボクセルシステムでの装備換装を済ませる。兵装は分解機を四門、牽引光索を二門とし、艦倉は客室へと改装した。客席は六〇。今はそこへ、機械歩兵を一二機乗せている。搭乗時の群衆制御には、これくらいの機数で良いだろう。多過ぎれば、却って群衆を刺激しかねないからな。
(周辺警戒用に、残りの巡航艦も出そう)
火事場には悪さをする者が付き物だ。この偵察艦は港内の監視に専念させつつ、不測の事態に備えるとしよう。
『AIガゼル、ノード〝ラスティネイル#A〟に接続完了』
偵察で得た情報を元に、さっそく救助活動を開始する。先発の偵察巡航艦は港内監視を続行。追加派遣した偵察巡航艦二隻に周辺警戒を担わせ、戦艦三隻は入出港ゲートへと向かわせた。
「これよりゲート内事故艦の撤去にかかる」
管理局へ一報を入れ、砲門を開く。事故艦に向けて慎重に、戦艦二隻ぶんの分解機の光を翳した。つかえた隅を落とすように裁断した後、牽引光索で引き摺り出す。
「撤去完了。入港する」
港外へ残骸を牽引した二隻はゲートへの道を開けつつ、そのまま残骸の分解を続ける。港内を誤射しないよう、完全な分解は港外で行う訳だ。
『了解! ドック・ゼロエイトを使ってくれ!』
管理局員に指定された降着先を確認する。ドック区画の一番奥だ。港内はいたるところで火の手が上がり、破片や残骸も浮遊している。
『注意。艦表面温度上昇中』
『港内温度測定。防盾最適化実行……完了』
『降着脚、展開』
業火と噴煙に霞む視界の隅で、システムログが走る。
艦を護るシールドは本来、紫外線による劣化を防ぐ事に特化している。その反動で、赤外線による熱作用に弱い。そんなシールドの波長を偏向させ、熱への耐性を強めていた。
「降着完了。格納求む」
舞い降りた戦艦を乗せたリフトが沈み、格納庫へと収められた。そのままリフトごと前後が反転し、真背後を向く。
(さて、避難民を迎えに出よう)
俺は客席に待機させていた機械歩兵らを動かし始めた。




