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第七〇話 再編と再始動

 仮想空間内に、いつもよりも小振りな円卓を据えた。そこに俺、スカー、ネッサ、シギュンの順に席に着く。スカーとネッサはこれが初対面だが、二人はごく自然に挨拶を交わしていた。提出したネッサの圧縮資料で、委細を承知したのだろう。

「まずはわたしの身柄引き受けの成就へ、心からの感謝を申し上げます」

 シギュンはスカーと姿なき俺へと向き、謝辞を述べていた。

「礼には及ばぬ。ところで、其方(そなた)はロプトの助命が希望と訊くが……それは、彼奴(かやつ)の無罪放免を期しての事か?」

 スカーが率直過ぎる問いを投げかける。

「いいえ。むしろ仮死状態に在る現状こそが最善と、わたしも判断します」

 応えるシギュンは、更に率直だった。彼女の真意を計りかね、俺は沈思黙考する。

(愛さえあれば、相手の意思や意識は意に介さずか……)

 まるで、戯曲のサロメのようだ。捕らわれた預言者への恋を拒まれた彼女は、その者を死に追いやってでも恋を(ささや)いた。

()せぬな。……一体、其方は何を企んでおる?」

 スカーが眼光を研ぎ澄ませる。

「それを語るには先ず、あなたへの奉仕を示す必要があると考えます」

 応えるシギュンは、泰然としていた。一体その度胸はどこから来るのか。

「ロプトを昏倒(こんとう)させたままにするのであれば尚の事、ロカセナ艦隊の平和利用を周知すべきでしょう」

 俺はたまらず、割って入った。関わる者を(ことごと)く窮地に陥れたロプトの意向は、本人に語らせるのが一番だろう。そのカードが切れぬのならば、せめて麾下(きか)のロカセナ艦隊の無害化を世間一般に示す必要があると考える。

(良くも悪くも、ロプトの用兵は大胆に過ぎた)

 おかげでロカセナ艦隊の跳梁(ちょうりょう)ぶりは、帝国の民に広く知れ渡った事だろう。そうした社会不安を、一度払拭する必要がある。

(問題は、今のロプトが有害で無いと証明不可な事か)

 無い事は無いと証明できない。悪魔の証明というやつだ。ロカセナ艦隊は、現状で最先端の技術を有する。俺たちダンスカー艦隊を以てしても、無害化や安全の保証がし辛い。

 肝心のロプトの記憶改竄(かいざん)についても、この時代の人々にはロストテクノロジーと映るだろう。だからと言って、それを一から一〇まで説明はできない。俺たちダンスカー艦隊の機密保持に抵触するからだ。

(結局のところ、王国や帝国に信用してもらうより他に無いか……)

 ならば、王国と帝国双方にとって有益な事に、このロカセナ艦隊を取り組ませると良いだろう。その方針で、対策を模索してみる。


鹵獲(ろかく)したロカセナ艦隊の三隻を、ダンスカー艦隊に組み込まないといけないね」

 ネッサがもっともな指摘をする。

「そうだな。宙戦法規に則り、所属標識を改める必要がある」

 スカーが応じていた。誤認や背信を避ける為、ひと目でダンスカー艦隊所属と判るよう、外観や紋章を改めるのだ。

「その前に、損傷した各艦の修理を行っても宜しいですか?」

 シギュンの確認に、スカーが(うなず)いた。

「ありがとうございます。……修理完了しました」

 すぐ近くの宙域から、独特かつ高出力なノイズを検知した。同居AIの解析の結果、ロカセナ艦隊有するボクセルシステム由来のノイズだと判明する。

「ガゼル。わたしたちの艦を、貴方に委ねます」

 シギュンから詳細走査諸元ディティールスキャンデータを受け取った。言葉に(にじ)む、切なげな声音が気にかかる。

「承知した。……シギュン。貴方たちの艦は、確かに優れている。だからこそ、使い捨てにする訳にはいかない。今後行う改修は、私が扱う為に必要な措置だと理解して欲しい」

 未知の星鉄(せいてつ)で造られた艦たちだ。破格に高性能だが、維持は出来そうもない。

「ほう? なかなか興味深い星鉄が使われておるな?」

 そこにスカーが反応を示す。探求熱心な彼女らしい振る舞いだ。

「この宇宙で最も優れた星鉄……白星鉄(はくせいてつ)です」

 さらりと断定するシギュンに驚かされる。彼女の演算力は計り知れない。この宇宙は既に解明し尽くしている、とでもいうのだろうか。

(惜し気もなく、緑星鉄を使える訳だ……)

 ロカセナ艦隊は、緑星鉄よりも希少な白星鉄を有している。だからこそ、緑星鉄製の跳躍発信機を大量敷設できたのだろう。緑星鉄すら扱いかねる俺たちを尻目に、随分な優位性(アドバンテージ)を隠し持っていたようだ。

「ロプトの資源ですが、修理目的であれば、わたしが引き出す事ができます」

 ロカセナ艦隊所属艦の運用は、判断が分かれそうだ。強力な資源を活用すべきと考えられる一方、掌握不十分な他勢力由来の資源に依存すべきではないとも考えられる。そう考えたのは、俺だけでは無いらしい。スカーやネッサも、一様に思案顔を並べていた。


「宇宙で最も優れた星鉄か……こうして世に出た以上、備えが必要であるな」

 独り言つスカーが沈黙を破る。対するシギュンは沈黙を保ったままだ。

「……面白い。白星鉄の謎、私が解き明かしてくれよう」

「その道程は迂遠(うえん)です。お勧めはしませんよ」

 スカーの宣言へ、シギュンがすかさず口を挟む。

「果たして、そうかな? 其方らがその存在を誇示したのは、いささか失策であったやもしれぬぞ?」

「……」

 不敵なスカーの返しに、シギュンが再び沈黙する。

(白星鉄がシギュンの言う通り、最も優れた星鉄であるならば……恐らくは、ロカセナ艦隊の機密扱いのはずだ)

 それも、かなりの重要機密となるだろう。その存在を、あえて(ほの)めかした意図は何だろうか。そう考えた時、俺の脳裏に規約(プロトコル)が過る。

(この機密を、管理者(ロプト)蘇生(そせい)の取引に使おうとしている?)

 もしそうだとすれば、シギュンはスカーへ臣従したと見せかけて、離反の機を(うかが)っているのかもしれない。

(……シギュンへの警戒を強めよう)

 そんな事を考えながら、スカーの顔色を観る。

「ロプトの処遇は……今は保留とする」

 平静を装いつつも、意外に素直な判断に拍子抜けがした。飛躍した論だと一蹴される事も覚悟していたのだが。

「まずはロプトの逃げ道を、完全に塞いでやらねばな」

 スカーが獰猛(どうもう)な笑みを浮かべる。その笑みが意味するのは、シギュンへの迎合でも、ロプトへの赦しでもない事を、俺は嫌でも理解させられた。


 仮想会議を終え、俺たちは早速行動に移った。スカーらを母艦モリガンへと収容し、無人となった戦闘艦を再出撃させる。

「ダンスカー艦隊所属、レーヴァテイン級母艦一番艦レーヴァテイン、ナリ級戦艦一番艦ナルヴィ、二番艦ヴァーリ……主星哨戒(しょうかい)に着任します」

 帝国軍へ、必要な連絡を入れる。艦級や艦名はシギュンの諸元に沿い、旧来の呼称をそのまま残した。

(愛着ある名や、その名で歩んだ歴史を奪い取るわけにもいくまい)

 とは言え、個人的には発音の難しい呼称(ぞろ)いだ。

 転属させた三隻に、ダンスカー艦隊の識別標識を描き込む。俺がゲームで使っていた、Yの字の上下を逆さにしたような紋章だ。俺の家紋、立ち沢瀉(おもだか)を模している。

『これがダンスカー艦隊の紋章かぁ……なんだか、トリケトラみたいだね』

 見慣れている(はず)のネッサが言う。俺が設計したダンスカー艦隊所属艦は、低視認(ロービジ)塗装かつ同系色で標識を描いている為、判別しにくかったのだろう。

『跳躍発信機の敷設座標と、検知器の情報を共有します』

 シギュンの申し出だ。……やはり、採掘場襲撃はロカセナ艦隊の手引だった。

 工作艦三隻は採掘場へ戻し、赤星鉄(せきせいてつ)採掘と跳躍発信機回収に従事させた。残った大小合わせて一三隻の艦で主星の哨戒にあたる。母艦モリガンと母艦レーヴァテインの双璧は、なかなかの威容を誇っていた。

「レーヴァテイン級およびナリ級の諸元解析完了。現行任務に合わせ、装備換装します」

 哨戒の合間に、ボクセルシステムでの換装を行う。ガンマレーザー群を、対盾レーザーと対装甲レールガンに積み替えた。

(ガンマレーザーは、白星鉄を自力調達できるようになるまでは、封印すべきだな)

 希少で限りある資源は、使い所を良く見極めるべきだ。射つ度に発振器を痛め、資源を浪費するのは止そう。

 昏倒したロプトは、母艦レーヴァテイン内の彼の居室へと監禁した。記憶改竄の進捗はシギュンの手に委ねられたが、目付役のネッサが厳しく監督している。

(シギュンを帝国の為に働かせる。それを地道に続けるしかないか……)

 脅しで半ば強引に彼女の身柄を引き受けた。それを差し引いても帝国のプラスとなって観えるよう、頑張って立ち回るとしよう。

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