表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/65

第六三話 ゲイルの機神


***


「ロプト、どうか冷静になって下さい」

 妻の苦言に苛立つ。ロプトの姿は、母艦レーヴァテインの操縦席にあった。シミュレーターを動かすように、戦艦ナルヴィの遠隔操作に臨んでいる。もう一方の戦艦ヴァーリは、航行不能となった。

 ――まだ、手はある。まだ、負けじゃねぇ。

『貴艦はよく戦った。大人しく沙汰を待て』

「AIガゼルより、戦艦ヴァーリの武装解除要求を受信。……応じます」

「なッ! 勝手をするんじゃねぇ!」

 また、ガゼルのレーザーを()らう。チマチマと鬱陶(うっとう)しい、本当に苛立つ攻撃だ。

「あなたの名誉の為です。応じました。戦艦ヴァーリ、全武装オフライン」

 力と知恵を絞り尽くして勝つ。自力と他力、知恵と悪知恵……そんな区別は、勝つ気が無いも同然だ。ロプトはそう考えている。妻の意図が読めず、ロプトは更に苛立った。

 ――まだ、絞り尽くせてねぇ。これじゃ、負けを認めたみてぇじゃねぇか!

「呼吸、脈拍が乱れています。一度、距離を取って下さい」

「……ッ!」

 できない相談だ。大勢の前で退き撃ちなどとは。臆病者扱いだけは、ごめんだな。

(あんなシールドをいつの間に……それに、奴の動きは何かおかしい……)

 奴に潜ませたスパイウェアは、何の情報も送って来ていない。ならば、この異変をどう説明すれば良いか。ロプトは判断に迷っていた。

(一撃当てれば、オレの勝ちだ。……まだ、慌てる場面じゃねぇ)

 焦ることは無い。機体性能では、こちらが勝っている。ロプトはシールドに痛手を受けつつも、勢いを増したガゼルの機動を見極めていた。奴は背後上方に貼り付き、時折こちらの砲の仰角ギリギリを(かす)める。

(読めたぜ。足りねぇ推力を、近道で誤魔化してやがる)

 そうと判れば、やりようはある。ロプトは作戦を練り、その時を待つ。


「戦艦ナルヴィ、シールド喪失」

 妻の報告には構わず、奴の挙動を注視した。戦艦ナルヴィが背面旋回をする。その軌道の内側へと斬り込むように、奴の戦艦ラスティネイルが身を乗り出した。

 ――ここだ!

 上に位置した奴が、艦首を上げた。その瞬間、ロプトはナルヴィの前進を停める。即座に遠心力に乗っかるように、艦尾を下に振り飛ばした。引かれる艦尾に釣られ、戦艦ナルヴィの艦首上げが切り増しされる。かかった慣性で態勢を崩しつつも、戦艦ラスティネイルを射線に捉えた。奴の艦底をモロに(さら)す機動を、ロプトは(わら)う。

(オーバーシュートだ! 莫迦(ばか)め!)

 ロプトは勝利を確信し、自慢のガンマレーザーを照射した。八門すべて、全力でだ。劇的な逆転勝利を、(まばゆ)い花火で祝えることだろう。

「注意! 戦艦ラスティネイル、未だ健在!」

 ――何ッ?!


***


 流石(さすが)に肝が冷えた。

『ピンポイントシールド、ダウン!』

「ナイスだ、ネッサ!」

 俺は相棒の好プレーに賛辞を送る。首の皮一枚で得た勝機、逃してなるものか。

 思えば妙な機動だった。ロプトにしては、基本に忠実すぎる背面旋回だったのだ。その気付きが警戒を生み、ロプトの急速艦首上げを察知できた。俺は自身の艦首上げを予備動作(フェイントモーション)とし、一気に艦首を振り落とす。反動がついた振り子の如き、一気呵成(かせい)咄嗟(とっさ)機動だ。相棒はそんな土壇場でも盾を合わせ、被害を最小限に留めてくれた。

(流石に、完全には防げなかったか……)

 ロプトはわざと狙いを散らし、全力照射したらしい。ピンポイントシールドで護った艦中央は損傷軽微な一方、シールドの外だった両舷の装甲は大破した。

『どこだ?!』

 ロプトは動じ、緩やかに艦首を上げ続ける。俺は余勢で艦首を下げ、敵艦Aの底面を捉えた。両舷が大破したついでに、補助推進機(サブスラスター)も不調に陥ったらしい。ままならぬ姿勢制御を、推力偏向(ベクタード)ノズルで補った。普段は禁じ手の、搭乗者殺し(レッドアウト)な戦闘機動で事無きを得た。武運を噛み締め、レールガンを撃ち上げる。砲身摩耗覚悟の、全開フルオート射撃で。

『敵艦A、主推進機(メインスラスター)破損!』

 敵艦Aの片肺が潰れ、挙動が乱れる。追撃を受け、敵艦Aは航行不能に陥った。……だが、まだロプトは戦いを諦めないらしい。

『クソッ!』

 ロプトは生き残った補助推進機で、艦首をこちらに向けてきた。俺は構わず、戦艦Aの背後を突く。破孔に蓄電機(キャパシター)が垣間見え、そこへ一撃を加えた。敵艦Aは小破し、停電を起こす。これで戦闘力を奪えただろう。

(ギリギリだったな……)

 ロプト(ゴード)には心の揺さぶりが効く。それは演習で証明済みだ。……とは言え、二番煎じな今回は、相応に掛け金を()り上げる必要があった。その為に選んだ、二対一だった。専門性を活かし、技で勝ちを狙ったが……危うく敗けかけた。武運と相棒に感謝したい。


 ロカセナ艦隊の前衛を無力化成功……その事実に気づいた帝国軍が沸き始めた。

『あいつ……単機でやりやがった!』

『……奴はバケモノかよ?!』

『人間業じゃねぇ……』

 ――自己認識は、人間なんだけどな。

『あれはな、〝機神〟ってヤツだよ』

 ブルート星系での蛮族扱いから、様変わりしたものだ。……()められるよりマシか。

『敵母艦を(たた)く。逃亡の(いとま)は与えぬぞ!』

 スカーが母艦モリガンに、対盾魚雷攻撃を指示していた。今までの親子式弾頭と異なる、対母艦用の一粒弾だ。それを釣瓶打ちのように、敵母艦へと浴びせ続ける。

 ダンスカー艦隊の魚雷発射管は、魚雷保管庫を艦内に設けていない。その代わりに、撃つ毎にボクセルシステムで出力し、装填している。魚雷発射管内だけの限定的なシステム起動で、魚雷速射と艦の軽量化を両立している訳だ。その方式をスカーは母艦規模で最大稼働し、備蓄資源でブン殴る大盤振る舞いを始めていた。

『第一四艦隊、魚雷戦用意。弾種、対盾。目標、敵母艦左舷底部』

『第九艦隊は右舷底部だ!』

 盛大な対盾花火を前に、帝国勢も加勢する。敵母艦は踏み止まり、魚雷迎撃を始めた。次第に命中弾が増え、シールドが色褪せていく。

「敵母艦へ、接舷斬込みを敢行する。各員、破盾に注力されたし」

 予告とともに、作業にかかる。戦艦ラスティネイルの修理と装備換装だ。三隻まとめてボクセルシステムを使い、一瞬で一気に仕上げた。

『任せろ!』

『たいしたイカれっぷりだ!』

『機神に道を(ひら)いてやれ!』

 帝国兵たちの士気も上々だ。突発的に始めた戦にも関わらず、よく動いてくれている。流石の練度と言うべきだろう。

 控えのラスティネイルA、Bの改装は終えた。問題は一戦交えたばかりの三隻目だ。

(エネルギー回復が遅い……)

 戦闘で疲弊した直後、高負荷なボクセルシステムを使った為だろう。もどかしいが、今は待機だ。接舷斬込みは、三隻のタイミングを(そろ)える必要がある。

『まだだ! これで勝ったと思うなよ!』

 ロプトの声だ。しかし、声がする方角が今までと違う。擱座(かくざ)した眼前の戦艦ではなく、母艦からの公共通信だ。

『注意! 高エネルギー反応!』

 相棒の情報共有を観て理解した。奴はここから直接、宇宙港ルテアを砲撃する気だ。敵母艦の艦首主砲に、エネルギーが収束しつつある。

(撃たせるわけには……そうだ!)

 出たとこ勝負だ。場の流れに乗るぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ