表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/65

第五五話 女王ディセアの奮闘


***


 ブルート星系、宇宙港ノーフォにて。アイセナ王国女王ディセアは、忙しく政務に取り組んでいる。喫緊の課題は、疲弊した国力の再興だ。具体的には、兵制の改革、艦艇の刷新、人材の育成など……多岐に渡っていた。

(いきなり常備兵制は無理があるね。……まぁ、できる事からやっていこう)

 帝国の収奪は、止んだのだ。ディセアは自領への投資を行い、軍備の近代化を図る。

(ガゼル君が言ってたなぁ。確か、『殖産興業』だったかな?)

 帝国軍の強みは、規格化と組織力にある。そう熱弁を振るう彼の事を、ディセアはふと思い出していた。

 あの苦い戦いの後、ディセアは直ぐに宇宙港ノーフォの工廠(こうしょう)群を整備した。乱立する工廠の統廃合に一役買ってくれたのが、ガゼルが残した新型艦の設計図だった。それは今のブルートの技術水準での量産を前提とし、部品点数や整備性にも気を遣っていた。

「訓練お疲れ様。新型の調子はどうかな?」

 執務室のディセアは、訓練帰りの艦へ通信を試みた。

『上々だぜ、姐御(あねご)!』

『乗り換えて正解だ。……もっと使いこなしてみせらぁ!』

 艦を駆る青少年らの返事には、確かな活気があった。

 伝統的なブルートの戦闘艦は、操縦手と砲手の複座方式だった。新型は単座で全ての操艦が完結する。非常に扱い易く、訓練の進捗は段違いだった。その成果に眼を付けた職人らは、競って新型の建艦や、整備技術の習得に取り組んでいる。ディセアは新型艦の導入と運用を通して、人材の育成をも推し進めていた。

「頼もしいねぇ。日課の巡回と、整備は欠かさないようにね?」

『『応ッ!』』

 ディセアは国策として、青星鉄採掘を奨励している。兵役に従事する者には、優遇措置を取った。最近のアイセナ王国は、採掘士と兵士を兼ねる領民が増えつつある。もともと、戦いを尊ぶ者たちだ。兵役と鉱工業に根ざした国造りは、着実に進んでいる。

(あとは……アタシら親世代の失敗に、子らを学ばせなきゃだ)

 強者との比武に過熱し、同胞(はらから)どうしで殺し合うのは禁じた。生命を大事に、生涯を通した練武の大切さを、若い世代には説いている。

 彼ら領民兵には、採掘場を中心とした巡回を義務付けている。表向きは戦時の斥候(せっこう)や、哨戒(しょうかい)の訓練を兼ねた指示だ。実はそれに加え、ディセアのある思惑が反映されていた。

(ゴード……アンタには、きっちりケジメをつけさせる!)

 巡回の強化は、逃亡したトルバ氏族長(ゴード・トルバ)の捕縛を期してもいた。(かつ)ての戦いでゴードは不義を重ね、抜け駆けを働き、同胞を滅亡の危機に陥れたのだ。笑って許せる範疇(はんちゅう)は、既に超えている。身を(てい)した友の助けが無ければ、ディセア自身も戦死していただろう。


 自領ばかりに囚われても居られない。ディセアには、近隣外交への懸念があった。

「何度も言うけど、そっちの内政には干渉しないよ」

 トルバ氏族治める、宇宙港コルツとの会合にて。コルツの共同統治を(ほの)めかす先方に、ディセアは苛立っていた。

「いつまで国を割ってるの? さっさと方針を決めなよ」

『そうは言うが、我らは族長を欠いている。立て直しには、貴国の助力が必要だ』

 映像通信相手の、ふてぶてしい男声が気に障る。既に一線を退いていた長老格らしい。ディセアには、彼のやる気が感じられずに居た。

『我らの内情にも通じている、ベルファ殿の力を借りたい』

「できない相談だね。ベルファには、帝国の動向を探らせてるから」

 予測通りの要請を、あっさりと断る。かつてのコルツ奪還作戦の準備として、ベルファにはトルバ氏族への働きかけを頼んでいた。その所縁(ゆかり)に、また(すが)ろうとしているらしい。

(ベルファはやっぱり、スカーに預けて正解だったわ)

 ディセアらアイセナ氏族との同盟締結の見返りに、トルバ氏族は母港コルツ奪還を望んだ。それを果たしたにも関わらず、今度はコルツの統治を投げ出そうとしている。あまりに身勝手であり、無様な話に思えていた。

「帝国はまた攻めて来る。そう考えて備えるのが、為政者として当たり前でしょ?」

『……』

 二の句が告げられない相手へ、ディセアは更に畳み掛けた。

「今の平和を無駄遣いしちゃ駄目。……だから、こうしよう」

 ディセアは妥協案を提示する。

「内政に人足(にんそく)()るなら、ウチから寄越すよ。共同統治はしないけれど、移住希望者は受け入れる。それがアタシらにできる、アンタらへの助力だわ」

 移住と聞き、男が焦る素振りを見せる。

『そんな事をすれば、こちらの人口が減ってしまう』

「だーかーら! さっさと方針を決めなと、最初っから言ってんの!」

 のらりくらりと、援助を引き出そうとする。そんな相手の出方を一喝した。

「せっかく母港に(かえ)れたんだ。アンタらが自分で治めないで、どうすんのよ?」

 勢い込んで、ディセアは説得に熱を入れる。彼らは一日でも早く、独立の意思で統一されなけばならない。何故ならこうしている間も、領民たちは流転しているのだから。

「とにかく、統治の方針をさっさと固めなさい。……その為の正式な代表(・・・・・)は、選挙なり力比べなり占いなり、アンタらの好きな方法で決めなさい。いいわね?」

 暫定の代表(・・・・・)は、渋々と従う。彼らトルバ氏族は、強者に(なび)く豪族気質があるらしい。

(アタシらを担いで、実益だけ(かす)める魂胆っぽいんだよなぁ……)

 先の戦いでトルバ氏族は、与えた見返りに見合う働きが出来ず(しま)いだ。それどころか、彼らの族長自ら犯した罪の事すら、忘れたフリをしているようにも観える。

(まさかだけど、ゴードを(かくま)ってたりは……)

 共同統治に同意した後で、ゴードがノコノコと現れたら。……考えたくも無いが、ゴードの罪を連帯して(かぶ)る事になるだろう。ゴードという内紛の火種は、確実に処理しなければならない。そうした意味でも、トルバに自治を促さなければ。ブルート星系の平和の為、ディセアは敢えてトルバを叱咤(しった)していた。

(とは言え、なかなか面倒な話になってきたなぁ)

 コルツとの会合を終え、ディセアは一息つく。

「……近々、スカーと相談しよう」

 帝国領へと踏み入る友へ。ディセアは静かに、思いを()せていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ