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第五三話 アノニム包囲網


***


 帝国勢との連携を果たした俺は、採掘艦隊の監督に注力していた。宇宙港アモルへ急行させた電子巡航艦は、量子通信端末の進呈を済ませて帰投中だ。母艦には、戦艦三隻と偵察巡航艦二隻が控えている。それらは帝国勢の動きに備えていた。

 日付が変わる。宙域が(にぎ)わい出す頃、宇宙港ルテアからの量子通信が入った。

『スカー提督へ、至急お取次ぎ願いたい。ガゼル殿も同席を』

 言葉少なにザエト提督が告げる。固い表情からは、難事の報せを予感した。

「居るぞ。何があった?」

 俺が取り次ぐよりも先に、スカーの個室から本人が応答する。

傭兵(ようへい)アノニムが、宇宙港リラから脱走した』

 スカーは動じず、先を促す。俺は母艦で待機中の艦艇群に、出撃準備を始めた。

『奴は跳躍せずに主星近傍を経由し、この方面の宙域に遁走(とんそう)中だ』

 ザエト提督が星系図を提示した。アノニムの逃げ道と帝国軍の捜索網が、そこには反映されている。捜索要員は、宇宙港ルテアと主星付近の艦隊から抽出したようだ。

『奴の首に賞金を懸けた。貴艦隊にも、捜索と討伐に参加を要請する』

「よかろう」

巡航阻害装置(インターディクター)の使用許可を願います」

 スカーの即答に続き、俺も必要な申請を挙げる。ザエト提督からの電文を受け取った。

「……許可状を受け取りました。偵察戦闘艦隊、編成完了」

 偵察巡航艦二隻と、戦艦一隻の出撃準備を整えた。

「出撃待て。私も出る。……見張員は多い方が良い」

『情報は随時、更新する。このまま艦隊内で共有を願おう』

 卑怯技(チート)な道具を駆使する相手だ。要員の安全確保にも、それなりの対策を講じていたのだろう。アノニムを捕り逃したユーリスには気の毒だが、忖度(そんたく)する隙は無さそうだ。


『AIガゼル、ノード〝ラスティネイル#A〟に接続完了』

 俺たちは総出で、アノニムの捜索へと出撃した。話を聞きつけたベルファらも、参戦を志願したからだ。今はスカーを陣頭に、縦列で巡航している。

「アノニムを最初に見つけた者には、私から褒美を遣わす。任務に精励せよ」

『『了解!』』

 急遽(きゅうきょ)戦艦を一隻加え、偵察巡航艦と戦艦を二隻ずつ動員している。偵察巡航艦にはエシルとルスト、戦艦にはスカーとベルファがそれぞれ単独で搭乗中だ。母艦の護りは残りの戦艦一隻と、宇宙港アモルから帰投したての電子巡航艦が担当した。

「アノニムは宇宙港リラから脱出する際、ハイパードライブを損傷したようです」

 俺はザエト提督から共有を受けた情報を分析し、そこから推察した内容を伝達する。

「痛めたドライブで跳躍の押しがけ(・・・・)を狙い、主星での重力ターンを試みたのでしょう」

 ハイパードライブは、主推進機(メインスラスター)の推力を過給(チャージ)して起動させる。跳躍に必要な、高い過給圧を稼ぐ事ができなかったのだろう。そこでより低過給圧で跳躍可能な、巡航状態からの跳躍に切り替えたらしい。主星めがけて巡航すれば、主星重力でより加速が付く。

『でも、主星近くで急にそっぽを向いてるね。ゲルム星系へ跳びたきゃ、しっかりターンしないといけないのに……』

 エシルが冷静に、アノニムの航跡を分析していた。

『ターンの寸前、怖気づいたのだろう。ここの主星防衛態勢は、決して甘くはない』

 ルストが応じる。確かに主星近傍では、アノニムを待ち構える動きが観えた。主星のすぐ側で、速度超過艦への巡航阻害(インターディクト)は危険極まる。巡航阻害を受ける側からすれば、阻害が成功しようがしまいが、主星に墜落する危険性が生じるからだ。

『ははっ、有り得るね。それ』

 エシルの機嫌が良い。巡航艦の操艦で浮かれているようだ。

『発見報告後は、応援の到着まで待機を徹底しましょう』

 ベルファが至極真っ当な事を言う。……が、それはどこか必死に、自分に言い聞かせているようにも観えた。

「うむ。首狩りは、決して(はや)ってはならぬぞ。……全隊、散開!」

 スカーの物騒な訓戒と共に、全員が散らばる。俺は皆を守るべく、気を引き締めた。


 さて、ここから数日の動きを(まと)めておこう。

『帝国臣民諸君! 忠勤、大儀である!』

 皇帝クラウディアが将兵らを激励する。量子通信で事態を知ったのだろう。

『この国を脅かさんとする、不逞(ふてい)の輩に惑わされるな。この国に連綿と受け継がれし名誉と戦いの歴史こそ、我らを我らたらしめる魂なのだ』

 この騒動は、単なる宙戝(ちゅうぞく)の暗躍ではない。それは皇帝にも伝わったようだ。

『その魂の強大なるが故に、敵は我らを(かた)る策を弄した。疑心を()って我らを裂き、我らの魂を(おとし)めんとする。これこそが、敵の狙いである』

 内通者の露呈は、軍内部の動揺に(つな)がる。そうした不安や不信が増幅する前に、皇帝自ら手を打ちたいのだろう。

『諸君、今こそ団結の時である! 信じよ、我らが築きしこの国の力を! 我らを愚弄する不埒者(ふらちもの)に、絶望を与えてやれ!』

 動揺する者は、これで立ち直ることだろう。なかなかの役者ぶりだ。

『宇宙港リラの守備は、(それがし)らも請け負うぞ』

 ティリー提督が、艦隊を率いて駆けつけて来た。発信機経由の奇襲への備えだろう。アノニムが採掘場へ()いたそれは、まだ全ては回収出来ていないはずだ。

『陛下の演説で、将兵らの士気が高まっておる。この機に決着をつけたい』

 宇宙港ルテアを守るザエト提督は、アノニム捜索の増援を送り出し続けていた。捜索網は順調に狭まり、幾許(いくばく)かの暗礁宙域を残すのみとなる。

 単艦で捜索中のスカーたちは、それぞれの艦で寝起きし、捜索を続行していた。活発化した帝国勢に負けじと、捜索に熱を入れている。



『AIガゼル、ノード〝ラスティネイル#B〟に接続完了』

 ラスティネイル級二番艦へと呼び出された。ベルファの駆る艦だ。

「ガゼル。この宙域へ巡航を、お願いできるかしら?」

 ベルファが指定した宙域は、星系図上では何も無い空白宙域扱いとなっていた。

「このあたりに、小規模宇宙港があったはずなの」

 巡航は多くの場合、目標を予め設定する。目標を捜しつつの巡航は、乗り慣れた艦でなければ危険だ。ベルファは無茶をせず、俺に依頼してきたのだろう。

「了解。金属反応を探知しつつ、巡航で接近します」

 ベルファが(うなず)く。どこか、表情が優れない様子が気になった。

「ハイパードライブ起動。……三、二、一、今!」

 巡航速度を極力抑える。走査機(スキャナー)の効きを観つつ航行した。


緊急巡航解除(フォースアウト)。進路上に金属反応を検知」

 事後報告かつ急制動(ブレーキ)だが、ベルファに(ひる)む素振りは無い。さすがの鍛えっぷりだ。

詳細走査(ディティールスキャン)中……これは、廃棄された宇宙港でしょうか」

 眼前の巨影に走査(スキャン)の眼を向けた。ごく小さな円筒形宇宙港らしい面影がある。長らく放射線に(さら)されたのか、表面はボロボロに荒れてはいたが。

(……ッ!)

 詳細走査結果がおかしい。荒れ果てたドック区画らしき投影図に、空白が生じている。空白は走査が弾かれた事を意味する。線画のごく一部だけ、暗く塗り潰したように観えるのだ。本来見通せる筈の、その向こうの様子を隠す何かが居る。

「詳細走査に、不自然な欠落を確認。隠密擬装ステルスカムフラージュ展開の可能性有り」

「……居るわね」

 ベルファが断じる。彼女の講義によれば、隠密擬装は廃れて久しい技術とのことだ。

(われ)、目標の痕跡を発見せり』

 俺は報告を上げ、位置座標を共有した。スカーたちが直ぐ様、巡航で接近してくる。その進捗を星系図で見守りつつ、俺はベルファに疑問を投げかけることにした。

「この廃宇宙港の存在を、よくご存知でしたね」

 ベルファ属するアイセナ王国には、関わりの無さそうな廃宇宙港だ。この星系を治める帝国自身ですら、半ば存在を忘れているようにも観える。

「……えぇ。まぁね」

 ベルファは浮かない顔をしたままだ。ならば今は、これ以上問うまい。


 ほどなくして、スカーたちが合流した。俺たちは廃宇宙港の出入り口を固めつつ、対応を協議する。目標の擬装を暴き、識別する必要があるからだ。

『憲兵小隊を派遣する。識別が不可能な場合は、この小隊に始末させる』

 ザエトの指示を受け、憲兵小隊の合流を待つことになった。賞金が懸けられた艦は識別でき次第、誰でも攻撃が許可される。逆に識別不能な段階では、俺たちが手を下すことはできないのだ。

(念には念を、だ)

 エシルとルストが駆る巡航艦たちを、偵察型から電子戦型に装備換装する。ボクセルシステム由来の、派手なノイズが振り撒かれた。それを捉えた廃宇宙港内の何者かは、気が気でない思いをしていることだろう。

(十中八九、アノニムで間違い無いだろうが、な)

 現状では最善の手を打てた。ここでアノニムを討てば、宙戝の侵入の元を断てる。

(討伐を果たし、あの役者皇帝にもう一幕頼もう)

 アノニムのほかにも、宙戝の工作員が入り込んでいる恐れがある。その場合に備え、アノニム討伐成功を広く伝えることは必要だ。


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