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第五〇話 物証集め

『こいつは、貴女(きじょ)らを妨害している』

 たしかにそうだ。このゲイル星系の治安悪化が、赤星鉄貿易の不首尾や、帝国の講和交渉の放棄に(つな)がっている。

『俺たちや採掘士連中にとっても、宙戝(ちゅうぞく)を招き入れる敵だ』

 ジムは仲間の報復の為にこの傭兵(ようへい)を追い、弱みを探っていたのだろう。

『採掘士連中には、俺から話を通す。協力して、こいつを()るさないか?』

「よかろう」

 スカーの即答に、ジムが不敵な笑みを浮かべた。

『まずは証拠固めだ。物証を抑えなきゃならん』

「発信機と、宙戝の航行記録を回収せねば。跳躍履歴が残っている可能性がある」

 俺は提言しつつも、疑問が拭えないでいる。小惑星帯は既に、偵察艦隊が走査(スキャン)済みだ。擬装された基地を想定した高出力走査に、この発信機を捉え損なったとは考えにくい。

『こいつの艦紋(かんもん)や目撃情報を送る。役立ててくれ』

「機密費を援助する。有益な情報には別途、報奨も出すぞ。ガゼルが稼いだ賞金は、有効に活用せねばな」

『そいつは豪儀だな。任せてくれ』

 スカーとジムが細々とした条件を詰める。俺は受け取った情報を分析し、発信機の投棄ポイントへ遊撃艦隊を向かわせた。


『AIガゼル、ノード〝ラスティネイル#A〟に接続完了』

 問題の宙域にて、遊撃艦隊を展開する。宇宙港リラからは離れ、惑星を挟んだ反対側の小惑星帯にあたる。哨戒(しょうかい)の目が届き難いぶん、競合の少ない採掘スポットのようだ。

 二隻の偵察巡航艦たちが十字に能動探査(アクティブスキャン)を行う中を、戦艦が念入りに観測する。電子巡航艦は、周辺の警戒にあたらせた。

(……ッ! あれか!)

 長さ二(メートル)程の円柱状構造体だ。異様に捕捉しづらく、低視認(ロービジ)塗装が施されていた。詳細走査(アクティブスキャン)の結果、何らかの発信機であることが判明する。素材として、緑星鉄を含んでいることも確認できた。

(スカーなら、より詳しく解析できるかもしれん)

 すぐさま作業用ドローンを射出し、戦艦の艦倉(カーゴ)へと回収する。そのまま巡航へと移行し、母艦モリガンへの帰途につく。

巡航阻害(インターディクト)を検知。巡航解除(クルーズアウト)

 帰路、宙戝の襲撃を受けた。巡航を解除し、迎撃に移る。敵味方ともに四隻ずつだ。

(艦数互角で仕掛けてくるとは。珍しいな)

 宙戝は数的優位を好む。補給や整備が弱いぶん、数で圧倒したがるわけだ。

『僚艦A、電子妨害(ジャミング)開始。敵艦A・B、防盾(シールド)喪失……機関破壊』

 偵察巡航艦二隻が陽動をかけ、宙戝艦隊を撹乱(かくらん)する。そこへ電子巡航艦の電子妨害で、混乱に拍車をかけた。戦艦は砲撃と雷撃を併用する。宙戝艦二隻の主推進機を破壊し、航行不能に陥らせた。

『敵艦C・D、防盾喪失……機関破壊。僚艦B・C、詳細走査。敵艦A、撃破』

 全ての宙戝艦を航行不能にし、偵察艦に宙戝艦の詳細走査を実施させた。宙戝艦それぞれの構造を把握し、誘爆させないよう止めを刺す。

『てめぇッ! なぜ、ひと思いに()らねぇんだ!』

 慌てた宙戝が、公共通信で野次りだす。艦橋に加減した一撃を加え、搭乗員を真空に(さら)していた。苦しめる殺し方なのは自覚している。目的遂行の為の……必要悪だ。

『僚艦B・C、詳細走査。敵艦B、撃破』

 心を殺し、淡々と宙戝に死を(もたら)す。宙戝への人道的配慮は存在しない。宙戝という存在は、人道を食い尽くすからだ。救難信号を釣り餌に使う所業が、端的な例だろう。

『弄びやがって! このダボがぁ!』

『いやだ! 死にたくねぇ!』

 宙域に静寂が戻った。俺は僚艦たちに周囲を警戒させ、次の工程に移る。作業用ドローンたちを発艦させ、それぞれの宙戝艦の艦橋に取り付かせた。ドローンは非常用の通信ジャックに有線接続し、宙戝艦へのネットワーク接続を確保する。

『敵艦航行記録に侵入……完了。跳躍記録取得』

 跳躍の日時や座標など、航行記録を手に入れた。これを解析すれば、他の発信機の座標も割り出せるだろう。ドローンたちを戦艦へ帰艦させ、帰路を急いだ。

 遊撃艦隊を母艦へ着艦させ、拾得物を母艦へと移す。荷物を下ろした遊撃艦隊は、即座に再出撃させた。


『AIガゼル、ノード〝モリガン#A〟に接続完了』

『ボクセルシステム、起動完了』

『拾得物、解析開始』

 傍目(はため)にも高度な製品だ。より設備が整った母艦で、念入りに解析しておく。解析完了を待つ間、ふと思索に(ふけ)っていた。

(そういえば、ボクセルシステムの挙動が変化しているんだったな)

 システムを起動すると、システムの外の時間が停まって観える。まるで〝白い世界〟が合わさったかのようだ。今では精神的ストレスを()めずとも、いつでも長考ができる。

(もっと言えば、俺とガゼルの立ち位置も変わった気がする)

 あくまで感覚的な話だが、初めはガゼルの隣で伴走するような印象だった。しかし今は、ガゼルに騎乗しているような一体感がある。

(あの時は死を覚悟したなぁ)

 俺は再起動で揮発するはずだった。ガゼルは俺との境界を曖昧にする事で、俺を(かば)ったのだろう。

(あらためて、ありがとうな……ガゼル)

 時間を完全に味方につけられるようになった。その立役者に感謝を込めて、ガゼルについてもっとよく勉強しようと思う。

(手始めに、このボクセルシステムについてだ)

 何せ俺の主観では、馴染(なじ)みのゲーム世界の中だ。ほぼ感覚的に行えているが、根深いところでは違っている可能性もある。これを機に、全てを把握しておこう。

(……ほう)

 出力可能な物品を流し読みする。ゲームでは見かけなかった、古風な武具の数々がまず眼についた。これらはきっと、管理者殿の趣味なのだろう。

(これは……一目瞭然だな)

 続いて目に留まったのは、家具や調度品たちだ。様式や大きさで、誰の趣味かが判る気がしている。皆、私生活を満喫できているようで何よりだ。

(……)

 勿論、細々とした部品や部材を作ることもできる。救援で艦艇に援助した部品の数々も、記録として収められていた。半ば自動制御で救けていることもあり、身に覚えのないモノも多く存在している。……そんな品々の羅列に、眼が()れてきた頃だった。

(……ッ!)

 俺はボクセルシステムを甘く観ていた。たった今までの、和む気持ちや誇らしげな気持ちなど、軽く吹き飛ばしてしまう項目が並ぶ。

(これは……作っては駄目だ。作れる事自体が、おかしい……はずだ)

 酷い動揺と忌避感の自覚だけが残る。

『拾得物、解析完了』

 停止した思考から抜け出せた。俺はボクセルシステムの設計者を呪う。その者は、敬愛する我が管理者殿とは別人であれ、と祈るばかりだ。


 さらに数日が経過した。母艦モリガンにて、個室のスカーと音声通信で計画を練る。

「傭兵アノニムの外患誘致に関する、十分な物証が集まったと判断します」

 発信機投棄の目撃情報、回収した発信機、その発信機への跳躍履歴。こうした一連の記録を、三〇件ほど集め終えた。これだけ集めれば、偶然で言い逃れはできないだろう。

『問題は、発信機に緑星鉄が含まれることか』

 投棄された発信機にも、緑星鉄が使われていた。招く傭兵と招かれる宙戝には、よほど大きな後ろ盾が控えているらしい。希少な緑星鉄を、湯水の如く使うほどに。

(問題、ね……事情が変わったのか?)

 緑星鉄に関して、スカーは初め帝国への注意を促していた。しかし今は、ルストへ自粛を要請している。俺にすら明かされていないが、ベルファの働きかけによるものだろう。

「それに加えて、当艦隊に対する擬装や、諜報(ちょうほう)の形跡を確認しています」

 小型の発信機ながら、逆位相電磁波発生装置(ノイズキャンセラ)がある。こちらの走査機(スキャナー)は、見事に欺かれていたわけだ。

 更に、傭兵アノニムの目撃情報や入出港履歴をプロットすると、こちらの艦隊行動を避けて動いている節も確認できる。こうした情報は、ジム代表が集めてくれていた。スカーが渡した機密費が、袖の下として効いているのだろう。

「機密漏洩(ろうえい)は考え難く、痕跡や傾向を分析されたと判断します」

 走査機の仕様や艦隊行動計画を、俺がモリガンの乗客たちに言及した履歴は無い。機密情報への不正アクセスも、俺とメインAIで絶賛監視中だ。

『帝国を動かす必要があるな』

 俺たちと互角かもしれない敵が居る。これ以上後手に回る前に、さっさとこのアノニムを逮捕すべきだろう。大事なのは、どんな動かし方をするかだ。少なくとも、あの参謀ユーリスには、少し荷が重いかもしれない。

(ジムの仲間を見殺しにした件を通報しても、なんの音沙汰も無いからな……)

 こちらの通報を()み消されたか、アノニム本人への追求をはぐらかされたか。

「ユーリス経由では、不首尾に終わる可能性が高いです。別ルートでの働きかけを、ルストに相談してみましょう」

『よかろう、お主に任せる。吉報を待っておるぞ』

 スカーの許可を得て、ひとまず回線を閉じる。さて、どう交渉したものか。



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