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第二三話 急報

***


 エシルの独白を聴いて以来、俺は鬱々とした日々を送っていた。……その間に起きた出来事を(まと)めておこう。

『前納分の互換部品を受領した。近々、通商護衛を依頼する。詳細は追って報せる。引き続き、よしなに』

 パドゥキャレ同盟(アリオンス)からの連絡だ。いつでも艦隊戦力を抽出できるよう、運用に余力をもたせておく。

一宿一飯(いっしゅくいっぱん)。恩義に報いるわ。構えなさい」

 何故か俺は機械歩兵の中に収まり、ベルファと対峙(たいじ)していた。彼女もまた杖術の使い手だ。その技は長さ一(メートル)ほどの細い杖を、フェンシングのような構えから繰り出す。比類なき速さの振り打ちだ。俺の構える大盾の守りの外を、的確に狙って空振り(・・・・・・)して来る。露骨に手加減されているが、俺は全く反応が追いつかない。

「ほう……其方(そなた)使える(・・・)のだな」

「護身の(すべ)女性(にょしょう)(たしな)み。乱世(らんせ)ならば尚更よ」

 暫しの間、ベルファとの組手で眼を鍛えつつ、体術の経験知を積む。その様子を終始、興味深げに見つめていたスカーが印象的だ。……変なスイッチが入って無いことを願う。

 後続の補給艦隊がロンドへ順次入港し、補給物資の積み込みを始める。その作業ぶりを、ディセアが単身で(ねぎら)って回っていた。驚くほど自然体だ。内に秘めた、激しい怒りを微塵(みじん)も感じさせなかった。俺はその様子を、港内の監視カメラ越しに見守る。

 エシルはあれ以来、(ふさ)ぎ気味だ。俺以外の誰かの前では、気丈に振る舞っている。その反面、一人の時間は工作艦の居室に籠もりがちになった。あそこは狭く、仮眠の為の空間でしかない。決して快適とはいえないはずだ。

(……)

 その原因を作ったのは俺だ。お気楽で無責任な(なぐさ)めの言葉など……かけられる訳が無い。

『かの脅威を以後、宙蝗(ちゅうこう)と仮称する。この蝗害の解析には、もう少し時間をかけたい。お主の裁量で、ロンド巡察を開始せよ』

 ベルファによる訓練支援を受けた分、スカーはバッタ共の研究を推し進めるようだ。自分の城が壊される様を、繰り返し検分する作業は辛いだろう。

(……むしろ好都合か)

 正直、人間としての心苦しさを持て余している。しかし俺のガワはAIガゼルだ。AIが管理者に悩みを打ち明けるなど、不審が過ぎる。管理者がAIガゼルの再起動やシステムチェックを行えば、そこに内包された俺は存在ごと抹消されるだろう。……ならば、ウジウジ悩む暇など無くしてしまおう。俺は機械歩兵を増産し、ロンドの巡察を開始した。

『補給完了。我、前線へと復帰す』

 ディセアたちは補給艦隊を連れ、オールブへと出港した。その航程には、ゴード隊も同行させている。出港目前、静かに殺気立つ女王と参謀を目撃したという情報もある。ゴード隊の謹慎解除の際、一悶着(ひともんちゃく)あったのかもしれない。

(それよりも……問題は第一四艦隊の動向だ)

 仇敵(きゅうてき)ザエト総督率いる艦隊は、未だに遠征先から動く気配が無い。彼らが補給路を絶たれたこと、予備兵力を失ったことは、とっくの昔に耳に入っている頃合いだ。そうでなくとも、長期の滞陣で糧食などの物資が乏しいはずなのだが……。

 哨戒(しょうかい)、採掘、練兵(れんぺい)、巡察……タスクを俯瞰(ふかん)で遂行しつつ、資源の備蓄状況を確認する。被撃破に備え、艦艇や機械歩兵の再建用の保険は必須だ。摩耗した対装甲レールガンの砲身交換や、その砲弾にも青星鉄(せいせいてつ)を使う。後納分の互換部品生産も控えている。諸々(もろもろ)を差し引くと、要塞を成す二基目の宇宙港再建には足りない。

 そろそろディセアたちがオールブに到着するだろうか……そんなタイミングで急報が入る。

『未確認艦隊を観測。位置、ロンドから二七六〇光秒付近』

 ――一体、何があった!

 報告のあった宙域を確認する。そこは、敵の遠征先と味方の現在位置との中間だった。とにかく、まずは現状把握だ。俺は艦隊に、臨戦態勢を取らせる。



『AIガゼル、ノード〝アフィニティ#G〟に接続完了』

 アフィニティ級巡航艦七番艦とリンクした。電子戦仕様で緊急出撃中だ。二〇分ほどの巡航を経て、当該宙域の近くへと到着する。

 眼前にはリングを持つ惑星がある。リングは石と氷が綺麗(きれい)に分かれていた。

『巡航停止。受動探査(パッシブスキャン)開始』

 巡航状態のまま、一度アイドリングへ移行する。そのまま、周囲のノイズに聞き耳を立てた。

艦紋(かんもん)照合。スクトゥム級戦艦、二。パルマ級巡航艦、多数』

 拾ったノイズを照会し、艦の配置を記録してゆく。

『未確認艦捕捉。……照会完了。工作艦、カリガ級、四』

 記録を進めていくうちに、己の危機感が早鐘(はやがね)を打ち始める。……十中八九、これは要撃陣形(まちぶせ)だ。俺はすぐさま巡航を解除し、擬装を展開した。走査精度を上げ、監視を強める必要がある。

『……艦隊識別完了。帝国軍第一四艦隊の可能性、極めて大』

 俺が持つ情報を総合すると、この艦隊は第一四艦隊と観てほぼ間違い無さそうだ。しかし彼らの遠征先付近には、未だ多数の艦艇の反応を観測している。いきなり敵戦力が倍になり、そこが()に落ちずに居た。

 帝国は謀略戦が主体と思える。星系間貿易による経済戦争、ディセアたちへの相続契約不履行、暗殺未遂が良い例だ。一方で、第九艦隊を破って以降、(ろく)に守勢を()っていない。と、いうことは……。

(今の帝国軍は寡兵(かへい)。遠征先の反応は、擬兵(ぎへい)だな)

 衆寡敵(しゅうかてき)せず。ましてその()が、〝死は異界への門出、武名はその(はなむけ)〟と(うた)猛者共(もさども)なのだ。そんな相手に少数で正攻法など……無謀すぎるだろう。俺でも策を弄したくなる状況だ。

 囮風船(デコイ)か何かにノイズメーカーを仕込み、そこに艦隊がいるよう見せかけたらしい。気取(けど)られないよう慎重に離脱する艦艇と、その艦艇のフリをさせる同数の囮敷設。これを密かに、根気強く繰り返してきたと思われる。……俺たちが狙撃前に使った静音航行の長距離版だ。そんな統率を可能とする敵将が、素人目にも危険に映る要撃陣を構築しているのだ。

(……これはまずい。スカーの判断を仰ごう)

 俺は報告を急ぐ。艦はその場に留め、意識だけを彼女の元へ。


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