表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/108

第一〇六話 砲火後之茶会

 敗残の宙蝗(ちゅうこう)らが、次々と銀河核へ進路を取っている。女王宙蝗に殉じるのだろう。だが、遅れて戦場入りした宙蝗たちと女王宙蝗の間には、活性化した降着円盤が横たわっていた。

(……これは、観るに耐えんな)

 遅参の宙蝗らは降着円盤に焼かれ、誰一人として主君の元へと至れずに居た。終いには自分たちの行動が、かえって主君を苦しめる〝炎〟を強くすると悟ったのだろう。

(……ッ!)

 宙蝗らは互いを捕食し合い、(ことごと)く自決していた。しかし完全には捕食し切れず、宙蝗だった(いびつ)な塊が遺る。

「忠勇、見事である。……ガゼル!」

「応ッ!」

 スカーに促され、俺は生き残った要塞と工作艦二隻に、分解部隊発艦を命じた。彼らの思いに沿う為に、彼らの亡骸を分解する。彼らを降着円盤に落とす訳にはいかない。

『ひとまず、終わったみたい……だね』

 疲れきったネッサの声がする。

「無事か? 相棒」

『あたしはね。……でも、二隻やられちゃった』

 ろくに試験もせず、ぶっつけ実戦でよくぞ生き残ってくれた。

「試作艦は生還こそが第一義。そこは、誇るが良い」

『うん! 増加食(おやつ)、楽しみにしてるよ』

 スカーが労い、ネッサが応える。その無邪気さに、皆が苦笑していた。

「茶会の前に、両陛下へ連絡を入れましょう」

「うむ。形式は……そうだな、こうしよう」

 俺はスカーと話し合い、回線を開いた。


***


 陣営(キャンプ)に停めた艦内にて。女王は自身への電文を受け取る。

(……ッ!)

 送信元は戦友(スカー)であり、盟友(ヴィル)にも宛てられていた。

『我、損耗大なれど宙蝗本陣を攻略せり。委細は別添えにて』

 文書と動画が添えてある。文書には戦闘の経過が記録されていた。

(損耗率三〇(パーセント)ですって?!)

 簡素な文面とは裏腹な、凄まじい戦いだったらしい。この数字は、王国艦隊ならば士気が阻喪し、総崩れになる事だろう。

 続いて動画を開く。決戦場での敵味方の動きを俯瞰した記録映像だった。記録では〝女王宙蝗〟なる標的個体が、多数の個体を産む様子が確認できる。その後、ダンスカー艦隊が取った航跡が示され、標的個体を討伐した映像で締め括られていた。

(……っと。ヴィルからの量子通信だわ)

 相変わらずフットワークが軽い。ディセアはすぐさま回線を開く。

『ディセア。スカー提督の報せを観たか?!』

「ええ。今、観たわ!」

 前置きをすっ飛ばし、いきなり本題に入っていた。お互いに興奮が隠せぬまま、話題は動画最後の討伐映像に及ぶ。

『まっこと大きな、月桂冠(ラウレアトゥム)であるなぁ』

 彼が(たと)えたのは、青く煌めく降着円盤の事だと察する。月桂冠とは、英雄の証であると同時に、帝権の象徴でもある。今上(きんじょう)皇帝にできる、最大の称賛に思えた。

 彼女の冠には、赤い飾りが散りばめてあった。……そう観えたモノの正体は、銀河核へと落ちゆく過程で赤方偏移を起こした、彼我の(しかばね)の残影だろう。その多さは、繰り広げられた戦いの壮絶さを物語っている。犠牲を(いと)わず戦い抜いた、彼女らを(たた)えるべきた。

「アタシらの連名で、戴冠の祝電を送るのはどう?」

『おぉ、それは妙案! 宛名は、影の宙域の……いや、銀河の女皇かな?』

 前人未到な影の宙域を征き、未曾有(みぞう)の蝗害から人類を守った英雄だ。ヴィルの表現は大仰に観えて、実は真実なのかもしれない。そんな談笑を交わし、二人は祝電を打つ。

(ん? これは?)

 入れ違うように、二通目の電文が届いていた。これはディセアのみに宛てられている。

(……『我、其方(そなた)がウェルシュケーキ調理法を学ぶ(よう)(みと)む。至急教示を乞う』? いったい、どういうことなのかな?)

 よく娘の為に作っていたお菓子だ。予期せぬ求めに戸惑うも、面白いので全力で応えるディセアなのであった。


***


 俺はスカーに呼び出され、母艦モリガンのボクセルシステムへとアクセスする。

(……ッ!)

 荒々しくも美しい自然が在った。朝陽さす彼方には海と湖を望み、此方(こなた)には緑芽吹く丘に岩石柱が並ぶ。仮想の異境に、目を奪われる俺が居た。

「何を(ほう)けておる。(ちこ)う寄れ」

 主の声で我に返る。皆は円卓と椅子を(しつら)え、茶会の準備を整えていた。卓上には何故か、俺を含めた人数分のコーヒーと茶菓子がある。

(そろ)ったな。冷めぬうちに食べよう」

「いっただっきまーす!」

 スカーが促し、真っ先にネッサが(かじ)りつく。

(どうやって味覚を再現する気だ?)

 ここは仮想空間だ。しかも相棒は肉体を失い、仮想体(アバター)となっている。そんな俺の心配をよそに、皆は茶会を楽しんでいるようだ。

「……お母様の味だわ」

 涙ぐむネッサを観た。その傍らで、ベルファとシギュンがハイタッチを交わす。

(確か味覚は電気信号。ベルファを実験台に、シギュンが再現度を高めたのだろうな)

 時を停め、奮闘する二人の姿が目に浮かぶようだ。今流れたネッサの涙は、報われた苦労の証と言えるだろう。


 暫しの歓談を経た。圧倒されるような自然の中で、俺はふと安らいだ気持ちになる。

(なんとも、勇壮な野点(のだて)だ……)

 そんな感想を抱くほどに。

「レイよ。……お主に問おう」

 主に(いみな)を呼ばれ、思わず居住まいを正す。

「お主の生きる目的は、果たせたか?」

「ええ、果たせました。お仕えすべき名君は、貴女(あなた)です」

 即答していた。彼女は神業を成し、俺の支えあればこそと認めてくれたのだ。

「そうか」

 応じるスカーが妙にしおらしい(・・・・・)。いつもなら、得意げな声音が返るはずだ。

「「……」」

 周りの反応もどこか神妙だ。茶化しのひとつも無く、静まり返っている。

「やはり、お主の心は偽れぬ。故に再び問おう」

 スカーは深く呼吸し、いつになく真剣な眼差しを向けてきた。

「私は人にあらず。……AIだ。それでもお主は、私に仕えると申すか?」

 突然の告白は、虚を突くに十分だった。

(スカーが、AI? (うそ)だろ?)

 友人(ディセア)には茶目っ気を、無礼者(ユーリス)には反撃を、部下(おれ)には鞭撻(べんたつ)を。彼女が取った言動は、実に人間臭いのだ。この告白は俺を試す(わな)とすら思え、言葉に詰まってしまう。

「……そうか。詮無き事を問うたな。許せ」

「仕えますとも!」

 言葉とは裏腹な、悲しげな目の色を観る。その途端、俺は声を大にしていた。

「AIは人の道具に過ぎぬ。従えて使いこそすれ、仕えて使われる存在ではあるまい?」

「肉体の無い私を人だと認め、人としての道理を説く。そんな貴女だからこそ敬い、身命を賭してお仕えするのです」

 俺が観た彼女は、何者にも(なび)かず誇り高い。自らを道具と(おとし)めるのは、彼女らしからぬ自虐に思える。だからこそ、俺は説得に力を込めていた。

「AIに人格を見い出すか。酔狂な事だ」

「万物に神格が宿る。私の故国では、ごく自然な考え方です」

 こちとら、八百万の神々(アニミズム)に育まれた日本人だ。そんな(あお)りは、効かないぜ。

「……ふん。御大層だな。傀儡(くぐつ)に過ぎぬこの姿を、よもや気に入りでもしたか?」

「戯れが過ぎますぞ。貴女が人かAIか、生身か否かなどは、問題ではありません」

 俺は鬼火の如き矮小(わいしょう)な体で、スカーの眼前へと進み出る。

「……」

「貴女が貴女として、如何に在り続けたか? その本質(こころ)が重要なのです」

 沈黙するスカーに構わず、俺は尚も畳み掛けた。

「貴女は言った筈だ。『お主の心は偽れぬ』と。これは私の為に秘密を打ち明けるべきだと、心を砕いたという事。なのに何故、貴女は心無き抜け殻のフリをするのですか?」

 更なる沈黙が返る。そのまま、暫くの時が経った。

「スカー。……貴方の負けよ」

 ベルファが静かに口を開く。彼女はスカーを見つめ、尚も語りかける。

「貴方がいくら否定しても、レイは既に、貴方の心を受け取っているのよ」

 諭されたスカーが(うつむ)く。そんな彼女を、ベルファは半ば強引に抱き寄せた。

「その事実を受け容れなさい! ……満更でもないんでしょう?」

 ボソリと耳打ちした一言。その影に、俺は微かな嗚咽(おえつ)を聞いた気がした。


主人公が観た『自然』はこんな感じです。


https://x.gd/HRNsb

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ