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第一〇四話 軌道戦闘

 降着円盤が、時計回りに渦巻いている。その上空を、宙蝗(ちゅうこう)らは一心不乱に駆けていた。

巻舵一八〇(まきかじひとはちまる)。背面旋回へ」

 母艦モリガンに乗る二人へ、左のネジ巻き機動(エルロンロール)からの降下を予告する。先鋒(せんぽう)の俺の隊には、螺旋機動(バレルロール)で上昇してから急降下をさせた。対峙(たいじ)する宙蝗らも追従するが、先頭集団は速度超過が(たた)って軌道を逸らす。

「このまま流れに乗って、降着円盤内を航行します」

 状況が文字通り一転し、降着円盤は反時計回りして見える格好となる。渦の流れに沿った左旋回ならば、多少は搭乗員の負担を減らせる(はず)だ。人間の心臓は、左胸に在るからな。

 走査(スキャン)(ほとん)ど利かぬ、放射線の嵐の中を()く。この難局への備えとして、先鋒には偵察巡航艦を多く配置した。

受動探査(パッシブスキャン)に感。艦隊後方。虫共が追って来たわ』

 ベルファの報告だ。突撃して来た宙蝗らの後続が、首尾よく釣られてくれたようだ。奴らも視界が利かないらしく、全力で能動探査(アクティブスキャン)しつつ航行しているのだろう。

「了解。ベルファ、続けて後方警戒を頼みます」

 作戦の第一段階は成功だ。女王宙蝗の護衛を釣り出し、俺たちの後を追わせる。

(次は追いつけそうで追いつけない、ギリギリの速度調整だな)

 その為には、実測の航行データが要る。俺は慎重に手探りで航行しつつ、データ収集を始めた。


 大きすぎる重力を持つ銀河核に対し、綺麗(きれい)な円軌道を保つ事は至難の業だ。だが、銀河核の最至近に巣を構えた宙蝗らは、事も無げにそれを成し遂げている。生ける緑星鉄鉱床とも言うべき奴らは、その時空干渉能力を存分に発揮しているようだ。

 公転軌道は内側ほど高速になる。俺たちは宙蝗の巣よりも外側の円軌道で、巣を置き去りにしつつ、宙蝗の追跡を受けていた。本来の公転速度を大幅に上回りつつ、銀河核の重力に逆らう繊細なコントロールを求められるのだ。はっきり言って、危険極まる操艦だと言えるだろう。その結果……。

(くっ……前衛の巡航艦が何隻か、軌道から外れたか)

 軌道が外に逸れるなら、まだ幾らかマシだ。急加速を得て戦域を逸脱してしまった艦は、この戦いの後で回収すれば良い。このまま公転軌道を内側へ絞りつつ、巣に周回差をつける必要がある。できるだけ、後続の宙蝗を引き連れながらだ。

『後方の宙蝗、落伍らくごし始めています』

 ベルファの連絡を受け、走査諸元(スキャンデータ)一瞥(いちべつ)する。後方からの能動探査は、確かに数を減らしつつあった。新種の石鏃(せきぞく)型宙蝗は、やはり旋回性に優れているようだ。存外多くの宙蝗が、この危険操艦に追従できている。

『主砲、過給圧上昇。このまま突っ走れ!』

「応ッ!」

 高揚するスカーに思わず同調した。あえて降着円盤の中を進んだ理由の一つ目がこれだ。有り余る放射線を電力に変換し、主砲へのエネルギー過給を早めている。

『ミスティネイル隊、帰巣宙蝗群の跳躍解除を観測』

 自動航行中の切り札たちからの報告が、ログとして出力される。ここまでの跳躍航行で突破してきた宙蝗らが、遅れ()せながら参戦してきたようだ。

『あっちの足止めは、あたしがサポートするよ!』

 すかさずネッサが宣言する。その声音は、疲労よりも戦意が勝るように感じた。

「頼んだ、相棒!」

 俺は言葉少なに、秘蔵っ子らの命運を託す。

「シギュンは艦隊の前方警戒を。見張員は多い方が良い」

ヤヴォール(りょうかい)

 決戦の場に役者が出揃った。ここからは、作戦の第二段階に移行するとしよう。


 後続の宙蝗が追いついてきた。俺は予定通りに、殿(しんがり)を務める巡航艦らへ攻撃を指示する。巡航中は過剰な放射線などに備える為、砲や走査機(スキャナー)を艦内に格納するのが原則だ。当然ながら、いつものような砲撃戦は行えない。だが巡航中で後ろを取られた時ならではの、唯一の攻撃方法が存在する。

(まるで()(びし)だな)

 僅かに残った資源で空のコンテナを出力し、後続の宙蝗めがけて投棄していた。コンテナの質量は微々たるものだが、亜光速での巡航中だ。頑強さを誇る宙蝗といえど、無視し難い痛手となるだろう。

 宙蝗はこちらの撒き菱を食らい、(ある)いは避け、次々と落伍していった。それでも(ひる)まず追撃を続けるのは、見上げた闘争本能と言える。だからこそ、宙蝗らの崩れぶりが気にかかった。撒き菱が効き過ぎているように観えたのだ。

『こいつら、もしかして……』

 呟くネッサに釣られた俺は、ミスティネイル隊の戦闘記録を確認する。同隊は帰巣した石柱状個体群に対し、隠密擬装ステルスカムフラージュでの一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェイ)で応じていた。そこへ女王宙蝗は、直掩(ちょくえん)の石鏃状個体群を派遣したらしい。

『訓練が足りていないのかも? 全然、動けてないよ』

 ミスティネイルの後方カメラ映像を詳しく分析する。追撃する石鏃状宙蝗は、明らかに挙動を乱し過ぎていた。必要以上に(かじ)を切り、慌てて当て舵を切る……そんな操舵を繰り返しているのだ。

「というより、まだ新しい体に慣れていないようだな」

 奴らはラスティネイル級やアフィニティ級を模倣し、体型を変化させたらしい。これらの艦級は、過敏な操舵特性を量子制御航行(フライバイクオンタム)で適度に(なま)してある。急旋回時に一瞬だけリミッターを外し、高い旋回性と安定性を両立させているのだ。どうやら宙蝗共は、こうした宙戦制御について学べていないらしい。

(奴らが己を知る前に片を付ける!)

 千載一遇の好機だ。俺はスカーの予言を実現すべく、操艦への集中を高めていた。

『討伐目標捕捉まで、降着円盤を残り半周です』

 シギュンの連絡だ。巣の前に陣取るミスティネイル隊と、降着円盤を周回中の本隊との、艦艇間位置情報から割り出したのだろう。


 降着円盤内での航程は順調に進捗し、宙蝗の巣へ追いつこうとしていた。軌道が内側へと進むにつれ、本隊の旋回姿勢はキツくなる。今は目一杯の九〇度左ロール状態で、ずっとナイフエッジターンを続けていた。……これが、災いした。

『熱源接近中! 二時下方、多数!』

 鬼気迫るシギュンが急報を告げる。ただでさえ、眼が効き難い降着円盤の中だ。そんな時に死角の下方から、まさに盲滅法(めくらめっぽう)に急接近する何かが居る。

(南無三!)

 限界ギリギリの高速機動中だ。迂闊(うかつ)に回避行動は取れない。未識別の何かが下方から艦隊を横切り、後ろへと去っていった。驚く間も無く、熱源は次々と交差してゆく。

『シギュン、(とりで)の能動探査を使え』

『ヤヴォール』

 主砲の調整や過給で手一杯のスカーが、一部の権限を移譲したようだ。要塞スカイアイルが、高出力の探信電波を放つ。

(……ッ! 宙蝗が遡上(そじょう)して来たのか!)

 新旧混成した宙蝗群が、降着円盤の流れに逆らって吶喊(とっかん)してきた。その身を摩擦熱で焦がしつつ、自滅も(いと)わぬ急角度で。次の瞬間、俺は酷い衝撃を知覚する。

防盾(シールド)喪失。緊急巡航解除(フォースアウト)

 愛艦が急激に失速した。ログから目を離すと、眼下には一体の石鏃状宙蝗が居た。その前部は酷く潰れている。どうやら衝突事故の余波で、巡航が解除されたようだ。

『ハイパードライブ損傷』

 凶事は続く。長時間の高稼働と急制動(ブレーキ)が祟り、ハイパードライブが壊れてしまった。

(もはやこれまでか……)

 銀河核の重力に引かれ、艦が加速し始める。いかな駿足(しゅんそく)のラスティネイル級とて、ハイパードライブ無しでは脱出不能だった。

(介錯は、頼めんな)

 俺は愛艦へ、最期の命令を下す。

『ノード〝ラスティネイル#C〟ネーム〝レイ〟、自爆シークエンス開始』

 名残を惜しむ暇は無い。俺は奇襲に(さら)される本隊へと帰参する。


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