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第一〇一話 鉄床戦術

 走査機(スキャナー)が跳躍解除ノイズを拾う。

宙蝗(ちゅうこう)を捕捉』

 ほぼ同時に、ユーリスが端的な報告を上げていた。

(あれが、宙蝗かぁ)

 友が残した哨戒(しょうかい)艦らが、捕捉や識別を助けてくれている。宙蝗は一〇〇体ほどで、横隊を敷きつつあった。こちらは左翼のユーリス隊と中央のティリー隊がそれぞれ一〇〇隻、右翼のディセアは三〇〇隻足らずの隊を率いている。

『我ら第九艦隊、皇帝陛下の真なる寛容の先駆けたらん! ()くぞ、者共!』

 ティリー提督の(げき)に、帝国兵らの(とき)が返る。帝国勢が横隊で前進を始めた。

遅参(ちさん)童共(わっぱども)に、(いくさ)の手本を見せてやれ!』

「お手並み拝見! アタシらの戦速に、ビビるんじゃないよ?!」

 ユーリスの挑発に、ディセアは思わず反応していた。

『拝ませて貰おうじゃねーか!』

『やってやらぁ!』

『俺らの星系は、俺らが守る!』

 王国兵らも発奮する。帝国勢は能動探査(アクティブスキャン)で、宙蝗らを惹き付けていた。

固定光索(ロックビーム)、照射』

 間合いを測り、ティリーが号令する。四五米級の帝国軍巡航艦らが、体長三〇(メートル)ほどの宙蝗らをガッチリと押し留めていた。

 ビームは初め円錐状の光条を描き、狙った宙蝗を包み込むように捉える。その後は照射域を絞る事で、目標の固定出力を高めているようだ。帝国勢は宙蝗の回避を封じる二段構えで、確実に仕事をこなしてくれている。

「突入する!」

 右翼の王国勢が三列縦隊で左旋回し、宙蝗の背後上方を横切る軌道を取る。両舷の対装甲レールガンに仰角をつけつつ、射線上に帝国艦が入らぬように。

「各個射撃!」

『ブチかませ! 戦友!』

 女王と提督に促され、王国兵らの砲火が宙空に奔る。王国艦隊は早駆けの後に宙返りし、再突入の構えを取り始めた。

『上出来だ、童共。……押し込むぞ!』

 作戦が功を奏し、副官殿も上機嫌なようだ。推進器官を潰された宙蝗は、帝国艦隊に押し退けられるがままに、主星へと墜ちていった。


 宙蝗の襲撃を退け、凱歌(がいか)と共に陣営(キャンプ)へと帰り着いた。これから艦艇の点検や整備、乗員の喫食や休養と並行し、宙蝗への警戒を続ける必要がある。

 帝国兵らは交代制を駆使しつつ、黙々と次の戦に備えているようだ。一方の王国兵は、初戦の興奮が覚めやらず、組織的な動きが取れていない。

(これも積み重ねの差だなぁ)

 苦笑のディセアは、浮かれる兵らを取り締まっていた。

 時を経て両国の陣営が落ち着く頃、女王は提督との映像通信回線を開く。初戦を踏まえ、意見交換や情報共有を行う為だ。

『このまま鉄床(かなとこ)戦術を基本に。魚雷は極力温存しますぞ』

 宙蝗への対抗兵器と目される親子式魚雷には、確かな利点と欠点があった。宙蝗の回避スペースを潰して当て易い反面、子弾頭の威力不足が懸念される。

「そうだねぇ。大事な魚雷は、宙蝗の突撃や翼包囲の阻止に使おう」

 今は数的有利に助けられている。しかし稼働できる艦や兵の数は、連戦と共に減ってゆくだろう。鉄床役の負担を減らす為、鎚役の精度をより高めたい。

「他のブルート星系宇宙港へ向けて、宙蝗襲撃の報道と支援要請をしてるよ」

 パニックを引き起こさぬよう、宙蝗の貪食ぶりは今は未だ伏せている。次期女王たる娘の言葉で、勇猛を好むブルートの民の決起を促しているのだ。

「アナタたちの奮戦ぶりは、しっかり伝えているからね」

『かたじけない。兵らも喜ぶだろう』

 彼ら帝国軍人は名誉を重んじる。侵略者として振る舞った過去の悪名を、この防衛戦での活躍で返上する。人類共通の敵と戦うこの流れが、かつて対立した両国の和平実現へと(つな)がる事を願うばかりだ。

 初戦の評定(ひょうじょう)を済ませた二人は、今後の戦いに備えた話し合いへと移る。

『スカー提督は、敵中深くへ斬り込んでおりますな』

 星系図を眺め、ティリー提督が嘆息する。絶望的な数の差をものともせず、ダンスカー艦隊は銀河核へと突き進んでいた。

「スカーは害虫どもの巣を(たた)くつもりだよ。……アタシらの為に、まわりの害虫を惹き付けながらね」

 彼女の航跡には、僅かに(たむろ)する宙蝗らが見て取れた。この群れはブルート星系へと進むか、それとも銀河核の巣へと退くか、今は迷っているのかもしれない。

『道中に居残った敵は、いずれ此方(こちら)へ攻め寄せる。そう観て備えておくべきかと』

「だね。当初の作戦通り動こう」

 提督の意見に女王が(うなず)く。話し合いを終え、二人は回線を閉じた。


(……)

 ディセアはふと、スカーと出会った頃を振り返っていた。帝国へ臣従した夫の不審な死。その直後に、帝国は露骨に王国領の接収へと動き始める。相続契約の不履行へ抗議した結果が、〝温情ある流刑〟という体裁の暗殺だった。

(スカー……どうか無事で居て)

 彼女のおかげで、一命を取り留めた。彼女もまた、劣勢打破の只中(ただなか)にあった。道は違えど、宿命は同じだ。ぜひとも気脈を通じたい。彼女の居室へと招かれたディセアは、気づけば全てを打ち明けていた。

『帝国を、決して侮るでないぞ?』

 話すにつれ、帝国への怒りが撃発しかける。その機先を制す一言だった。怒りの感情任せで倒せるほど、帝国は甘くは無い。我らを家畜の如く虐げた帝国人らを、いかにして虐殺するかだけに囚われていた。ディセアは(もう)(ひら)かれ、スカーを盟友と仰ぐ決意をする。

貴女(アナタ)の征く航路に、勝利があらんことを)

 友の無事と勝利を戦神に祈念した。瞑目(めいもく)の後、女王は自身の戦いへと向き合う。


***


 俺たちの敵中突破行は、ようやく半ばを過ぎていた。ダンスカー艦隊は未だ全艦健在。だが、その(しわ)寄せは確実に積み重なっている。

『巡航再開まで六〇秒』

 聞き慣れたベルファの合図で、俺と相棒は宙戦を切り上げた。本隊との合流を急ぎつつ、資源消費状況を確認する。

(……ッ!)

 銀河核到着まで、あと四回の跳躍を残している。しかし、残存資源全てを弾薬化しても、あと二戦ほどで資源が枯渇するだろう。それすらも希望的観測かもしれない。なぜなら此処から先、どれぐらい敵勢が増えるかが未知数だからだ。

意見具申(いけんぐしん)! ガンマレーザー解禁の(よう)(みと)む!』

『異議無し!』

 俺の思考を読んだらしい、ネッサとシギュンがスカーへと提言する。そんな中、シギュンが即決で同意したのには驚かされた。

 ガンマレーザーはロカセナ艦隊固有兵装として、猛威を振るっていた。未だ製法不明な白星鉄製で、発砲する度に損耗する。シギュンがロプトから預かる白星鉄の総量は、彼女の規約の為に明かせない。さりとて補給も出来ない為に、今まで封印していた経緯がある。

『許可する。次の跳躍後に換装せよ』

『『了解!』』

 スカーの即断を聴くや否や、俺は緊急タスクに取り組む。

「当該艦群、一斉改修準備完了」

 急遽(きゅうきょ)ボクセルシステムに飛び込み、シギュンの改装型レーヴァテイン級を更新した。山盛りの対宙機銃を全て、レールガンからガンマレーザーに換装する。

『……三、二、一、今!』

 ベルファの合図を経て、艦隊は巡航からの跳躍へと移る。追手を惹き付けながらだ。



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