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準決勝

 闘デク大会ベスト4が出揃った。

 創命師を目指すアインとスペンサー、珠師を目指すルディ、そして漁師のバリトだ。

 バリトは、デクを使って漁をする家に生まれ、幼い時分からデクと親しみ、デクと共に生きると決めた男。

 戦闘や理論のエリートである創命師たちに負けるもんかい! という思いが強い。

 網を引いて鍛え上げたマッチョボディをプルプルと震わせて、 叩き上げの根性を見せてやると鼻息は荒い。

 そして、とにかく応援団が多い。客席の漁師と漁師家族全員がバリトにエールを送っている。


「ベスト4進出唯一の漁師バリト! デクの腕を磨いて大漁を目指す男だ。まじめな授業態度にはいつも感心します。ここまでの試合を突破してきた必殺技はフィッシャーマンズ・ダイナミック! 一挙手一投足に漁師の魂がピチピチと生きづいています!」

「まーた、意味不明な技名ね」

 ダリルのツッコミはあるものの、勢いのある実況にバリトのテンションはさらに跳ね上がる。

「上げ潮じゃー」

 叫びながら試合場に足を踏み入れる。 両手を大きく振り上げると、会場全体から大喝采。

 漁師連中はバリトの名を怒鳴りながら、大漁旗をぶんぶんと振る。

「上げ潮じゃー! 上げ潮なんじゃー!」

 バリトが叫ぶと。

「うおおー! バッリットー! バッリットー!」

 地鳴りのようなコールが湧き起こる。

 一方、アインはダメージの色濃いデクと共に、腕組みをして、お祭り騒ぎを静観。

 こちらには誰の声援もない。ここまでの態度の悪さで客席から総スカンを喰らっているようだ。


「ファイト!」

 試合場へ歩み出る二体のデク。

 バリトデクは、額に鉢巻。マッチョ体形で肩をいからせて、がに股、大股に歩く。

 アインデクは前試合のダメージがくっきり。足を引きずり、頭は一歩ごとにぐらつき、胴体にはヒビも入っているようだ。

「網を打て―!」

 バリトが叫ぶ。デクが右腕を天高く掲げると手首から投網が飛び出した。腕を大きく回し始めると、投網が開き出す。

「これさー、反則じゃないのー」

 アインが網を指さして、レフェリーのパメラにクレームをつける。

「デクの体の一部だからね。問題ないよっ」

「むーっ」

 即答されて、アインはむくれるばかり。

 バリトデクの網は回転を速めていく。

 アインデクは頭を抱えて、体を丸めて、防御態勢。

 そして、ついに網が放たれた。アインデクの全身に投網がかかった。

 バリトデクは全力で引き抜くように引っ張る。

 アインデクは腰を溜めて、網をつかんで持っていかれないようにこらえる。

 そのまま、じりじりと一分以上。

 動きのない試合だが、手に汗握る力比べに観客は固唾を呑む。拍手まで起こり始めた。

 突然、アインはニヤリと笑った。行けとばかり、右手を振った。


「おっと、アインデクが屈伸ジャンプ! 頭から突撃だ! バリトデクに衝突! 両者、ぐしゃっと崩れた!」

 実況と客席からの悲鳴が、青空に響き渡る。

「アインデクの体重+屈伸力×バリトデクの引っ張る力×突撃スピード……あと、なんだ。とにかく、とんでもない事故級アタックだ!」

 ハースト校長は、わけのわからない計算式をわめき出す。

 ぐちゃぐちゃになった二体のデクを、レフェリーがチェック。「もう無理だね」とつぶやいて、試合場中央に進み出た。

「両者ノックダウンで引き分け!」

 静まり返る客席を見回してから、さらに口を開く。 

「この後に予定されている準決勝第二試合、ルディ対スペンサー戦が、そのまま優勝決定戦になります」

 客席はざわざわが止まらない。ルディ、スペンサーの応援に来た者も喜んでいいのか困っている。

 微妙な空気を裂いて、ダリルの声が響いた。

「うそー。アインとスペンサーのライバル美少年対決がメインじゃないの。楽しみだったのに!」

 いきなり、感情爆発で駄々をこめる。その暴発をハーストがなだめる。

「いや、ブラコンをちょっと抑えて。ええと、まず、今の試合の総括をしてください」

「そうかつ? んー」

 ダリルは立ち上がり、試合場へ飛び出していった。

「アイン、バリト、二人ともこっちおいで」

 二人の少年は、揃ってふてくされている。

 ダリルは「おつかれさま」と言って、順番にハグ、ふっかふかの胸でハグ、むぎゅ、むぎゅ。

 客席は、なんだかもう、とにかく大歓声だ。

 頭に血が上っていた少年たちは、血がさらに上がったんだか、下がったんだか。

 とにかく、幸せそうな二人を残してダリルは教員席へと戻った。

「えーと、ダリル、今のは?」

 満足そうな少女教師へ向けて、ハーストは焦ったような口調で訊ねてくる。

「総括よ。二人ともよくやりました。静かに戻りましょうって。あのままだと喧嘩してたわよ、きっと」

「お、おお。さ、さて。いよいよ、優勝決定戦の生徒が入場してきました。スペンサーとルディ。優等生対決だ! ダリル、二人の先生として一言お願いします」

「スペンサー、ルディ! 普段の勉強通りやれば勝てるわよ!」

「いやいや、二人ともは勝てないでしょ」

「そういう気持ちだってことよ。分かってほしいわ。鈍感デブ」

「ん? なんだって」

「いえいえ、なにもー」

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