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闘デク大会


 闘デク大会の日が訪れた。

 ダリルは通常授業のひとつと考えていたのに、聞きつけたハースト校長は大乗り気。

 「どうせなら、村の人を呼ぼう。その方が生徒もやる気がでるってもんだ」

 スポンサーとして漁師ギルドや農家ギルドにも声をかけて、一大イベントに仕立てあげた。

 優勝者にはダリル特製デク珠に加えて、有志から魚や野菜の他、名産品の数々、たとえば木彫りの人魚や貝殻細工、木刀など欲しい物も迷惑な物も山ほどもらえる。


 レイン家の前庭は広い。

 デクや命徒を呼び出して演習に使うためだ。

 その中央、放射円状に敷かれた石畳を五十人ほどの観客が囲んでいる。この人の輪が試合場だ。

 朝市を終えた人々、舟を出していない漁師、漁師の家族など、近所で手の空いている人々はほぼ集まった。

 花火や鳴り物まで持ち出して、お祭り気分の者も見受けられる。

 晴れた空も相まって、開放感は半端ない。なかには予想で賭けを始めた不埒者もいるようだ。

 最前列に設けられた教師席にはテーブルが置かれ、飲み物が用意され、拡声器まで置いてある。。

 上機嫌な校長に、ダリルは不安そうに訊ねる。

「これ、授業なんですよね」

「もちろん、授業だよ。同時に我が生徒たちの実力を皆さんに示す晴れ舞台でもあるね」

「はあ」

 不安げに頷くダリル、その頭の中では嫌味を呟いている。『三日前に出したばかりの宿題よ。みんな、デク珠、まともにできてるかしら。勝手に進めやがって、このクソデブ』

「えっ?」

 最後の一言は声になっていたらしい。

「いえいえー。なんにもー」

 愛想笑い。ため息ひとつ。

「暴走デブ」

「えっ?」

「いえいえー(やばっ、心の声漏れ漏れだわ)」


 校長は、大きな地声をさらに張り上げて開会の挨拶を行った。

 村人は大歓声で応える。もともとデク珠作り、デク使いに尊敬を寄せる土地だ。

 村の人気者誕生の瞬間を一目見ようと客席の期待感は高まるばかり。


 対戦相手を決めるクジ引きが終わり、第一試合の生徒が戦場に入ってきた。

 ヒイロ・ターナー 対 アイン・レイン

 席に戻ってきた校長はいきなり実況を始めた。

「第一試合から、いきなり創命師を目指す二人の戦いとなりました。ダリル先生、それぞれどういう生徒なんですか」

「えっ、いきなり? えーとね、ヒイロさんは負けず嫌いでよく頑張る子です。アインはなんでもできるけど、とにかく不真面目で」

「よく言えば天才肌ってことですね。さあ、ヒイロからデクを生成するようです」

 食い気味に実況をする父。隣席のダリルは、前のめりなノリに着いていくのが精いっぱいだ。


 レフェリー役のパメラ・レイン副校長に促されて、ヒイロがデク生成の詠唱を始めた。

「~♪ラッラッラッ ガッ ララララッ♪~」

 力強いテンポで歌い上げると、デク珠がむくむくと育つ。

 瞬く間に、主人と同じツンツン髪のゴーレムが生成された。

 高さはヒイロの倍、三メートルはくだらない。

 軽量打撃系の格闘家を思わせるキュッと締まったウエストと長い手足が印象的だ。

 対面のアインに向けて、威嚇するようにシャドウパンチを放つ。ワンツー、ワンツー、フック。

 アインは軽く受け流すように微笑んでから、自らのデクを生成し始めた。

「~♪ツッタンツタタン ウン タン♪~」

 両手両足を大きく振りながら唄う。

 出現したデクは身長は二メートルほど、やせぎすで坊主頭につばの長いキャップを被ったような頭部が特長的。

 首をかしげ、顎をひいて上目使い、右足を一定間隔で踏み鳴らしている。

 ヒイロのデクに向けて、両手を大きく上に伸ばしてから、手の甲を上に脱力するように前ならえの位置へ。

 そして腕組み。

 アインもデクと背中合わせになって同じポーズ、ニヤリと口の端を曲げて挑発する。

 客席の盛り上がりに、ハーストの実況テンションは上がる一方。

「試合前の挑発合戦はアインがリードですね」

「そりゃ、あの子、人を怒らせるの得意だもの。ただ、一体のデクで戦い抜くのが闘デクの決まりよ。あまり、相手をカッカさせるのはどうかしら。いらないダメージを受けちゃうかも」

 ダリルは教師としても、姉としても、心配でたまらないようだ。


「ファイト!」

 パメラの合図で戦いの火ぶたが切られた。

 ハーストの実況にも力がこもる。

「さて、いよいよ試合開始。ダリル先生、まずはヒイロのデク、仕上がり具合はどうでしょう」 

「打撃の切れ味が鋭そうですね。技の数次第ではかなりいけると思います」

 基本的に、デクはあらかじめ組み込まれた動作しかできない。

 生成してしまえば、デク使いにできるのは繰り出す動作を選ぶことだけだ。

 よいデク珠ほど多くの動作を納めてあるし、よいデク使いほど、動作を的確に組み合わせられる。

「一方、アインのデク。こちらはいかがですか」

「ふざけてますね。でもねえ、彼は才能があるんですよね」  

「確かに才能はね。飛び抜けてます。でも、態度がね。なんか生意気というか、腹立たしいというか」

「ええ? でもぉ、そこが可愛いのよねぇ」


 ヒイロのデクは、ボクシングスタイル。時折、すり足で前に出てくる。

 一方、アインのデクは、その場を動かず、上目がちににらむだけだ。

 ヒイロデクのパンチが、アインデクの顔面に伸びた。

 パンチがさく裂すると見えた瞬間、アインデクは右手で自らの頭をゴロンともぎ取った。

 そのまま、アンダースローの要領で、ヒイロデクのボディに、頭を投げつける。

 予期せぬボディブローの衝撃に前かがみとなったヒイロデク、その顔面をアインデクが思い切り蹴り上げた。

 ヒイロデクの頭部は上空高く吹っ飛び、ドサッと地面に落ちる。顔の左半分が欠けていた。

 あわれ、ヒイロデクは前のめりに倒れて動かなくなった。

 アインデクは、自分の頭を拾って、何事もなかったかのように首にはめた。

 アイン共々、両手を挙げて勝利を誇っている。

 ハーストがうめくように叫んだ。

「ひどい。あんなデクありか?」

「自由でいいじゃないの。アインらしい。ヒイロさんもいいデクを作りましたよ。でも、相手が悪かったわね」

 ダリルはウキウキとした声で解説をする。アインの勝利が嬉しいようだ。

 こうして、熱戦の幕が開いた。

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