プロローグ
若き司祭の率いる一団が駆けつけた時には、戦いは終わっていた。
かつて、大陸全土から畏怖をもって崇められていた「竜を駆る女帝」。
その屋敷の前には巨竜が倒れ、建物も半壊していた。
激闘の跡を物語る広間、部屋の数々。
敵の生臭くどす黒い体液が床にも壁にもこびりついている。
屋敷のもっとも奥まった部屋も、分厚く高い扉が突き破られていた。
部屋に入ると金髪、銀髪の少年兵が幾人も倒れている。皆、こと切れており、彼らの手、足、首がそこここに散らばっている。
部屋の最深部には隠し扉があり、こちらもやはり破られていた。
その奥には背から尾にかけて鈍く金色に輝く竜女が、箱を守るように覆い被さり、こと切れていた。
司祭はひざまずき、美しき竜女に手をあてて高らかに詠唱を始めた。
祈りが天に届いたか、彼女の背は一瞬だけ輝き、なまめかしい唇がかすかに震えた。
「・・・アイン・・・」
吐息のように言葉を紡ぐと、竜女は全身からまばゆい光を放ち、手のひら大の珠へと姿を変えた。
彼は竜女の珠をそっと腰の鞄に入れ、続いて金属製の箱に手をあてた。
フタが泣くように軋みながら、ひとりでに開く。
なかには柔らかな布に包まれた【それ】がいた。
司祭はその姿をしばらく慈しむように見つめると、そっとフタを閉じて部下たちを呼び寄せた。
「目につく物はすべて運び出せ。教会へ戻るぞ」