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第3話 教え子にバレている件

 食事会から数日たったが、俺のVチューバー化が急ピッチで進められている。『ツイター』のアカウントや配信用のアカウントが作られ、登録者も既に10万人を超えていた。


 そんな中俺のすることと言えば…………そう、バイトである。


 別のお金を稼ぐ手段を見つけたからといって、今までやっていたバイトをすぐにやめれるほど社会は甘くない。


 そんなわけで俺は今絶賛バイト中である。


「で、ここなんだけどさー……せんせ?」

「ん? どこか見せてみ?」

「ここ~。どうやってもx=0になっちゃうんだけど。意味わかんない」

「あぁ、ここはな」


 俺のバイト、それは家庭教師である。


 高校生で家庭教師をやっている人間はそう多くないが、時給がかなり高い。


 目の前には俺の生徒、楠木ゆめちゃんがいる。中学3年生だ。


 中学生なのに見た目はかなり派手。金髪に染められているし化粧もばっちりだ。うちの妹は化粧とかに興味を示したことがないので、とても同級生には思えない。いや、俺が気づかないだけで興味はあるのかもしれない。


 ゆめちゃんはかなりキャラが濃い。


 ギャルなのにオタク、ギャルなのに陰キャだ。


 本人曰く、「武装しないと恥ずかしくて外歩けないじゃん」とのこと。メイクを武装呼ばわりするところに隠しきれないオタクが出ている気がする。


「というかせんせ」

「どしたー?」


 勉強の休憩をしているとゆめちゃんが俺に声をかけてきた。


「Vチューバーって知ってる?」


 それはここ数日で何度も聞いた言葉だ。


「まぁ基本的なことくらいは」


俺がそういうと、ゆめちゃんが獲物を捕らえる前の肉食動物のような視線で俺を睨めつける。


「ウチの推しに『風音 ウタ』っていうVチューバーがいるんだけどさ」


 うちの妹じゃないですかヤダー! 

 

 という冗談は置いておいてなんか雲行きが怪しくなってきたような気がする。1アウトだ。


「よし、そろそろ勉強再開するか! 数学はやめて違う教科でもやるか!?」

「今大事な話してんの」

「すみません」


 これは持論だが、ギャルの半ギレに勝てる人などいないと思う。多分、総理大臣でも勝てない。「対応を再検討してまいります」とか言いそう。……イジってごめんなさい、社会から消さないでください。


「そのウタちゃんがこの間配信事故したの」


 2アウト。 


「その時に入り込んだ声がせんせそっくりで…………せんせ? 顔を逸らしても無駄だよ?」

「ご、誤解ジャナイカナー」

「ウチには誤解に思えなかったんだけど」

「ご、ごか、ゴーカイジャー」

「ウチ、ふざけてないよね」

「すみませんでした」


 3アウトである。


「せんせにウチと同い年の妹さんがいる、っていうのは知ってたけどまさかVチューバーだったなんて……」


 もう誤魔化すのは無理そうだ。まぁ、Vチューバーを始める前に言うつもりではあったのでそこまで被害はない。親御さんにも説明済みだしな。


「それで本題なんだけどさ」


 そうゆめちゃんが言って俺はビクリと震える。ゆめちゃんの方を見ると、なんかさっきより物理的距離が縮んでいるような気がするのは気のせいだろうか。俺はぐっと息を止めつつ、続きの言葉を待つ。


「せんせもVになるってホント?」


 そう、不安げな瞳で俺を見上げてくるゆめちゃん。


「うん」

「それってさ…………家庭教師やめちゃうの?」

「やめるつもりはないよ。結構仕事は減るんだけど全部やめるつもりはないかな」


 俺が受け持っていた生徒は3人。


 皆素直で真面目ないい子なのだが、Vチューバーと学生をやりながら3人の家庭教師を続けられる自信はない。無理にやっておざなりになるのは生徒にも申し訳ないし。


 そういうわけで、俺は2人の担当を外してもらったのだ。ゆめちゃんの教師を続ける理由は、最古参で一番慕ってくれていたから、だ。


「じゃあ、さ。《《私》》の担当も外れちゃうの?」


 ゆめちゃんは時折、一人称が変わることがある。俺が知っている中では不安な時やちょっと興奮しているときに変わりやすい。


「ゆめちゃんの担当は続けるつもりだよ」

「よかった…………もしかしたらせんせがいなくなるかも、って。《《私》》怖かったから…………」


 本当に不安だったのだろう。緊張の糸が途切れたかのように声を震わせている。


 まだ、時間は20分ほど余っているが今日はもう勉強は手につかなさそうだ。開きかけのテキストを閉じて、俺は楽な姿勢になるとゆめちゃんに向き直る。


 集中していない勉強なんてやるだけ時間の無駄だからな。


「大丈夫だからね。…………今日はもうお話しようか」


 下を向きながら小さく頷いたゆめちゃんを見て俺は少し安堵した。妹と同い年の女の子を泣かせるのはしのびない。


「なんの話する?」

「……せんせの妹さんのはなし」

「詩の話? ……うーん、どこまで話していいのかな」

「そういうのじゃなくて……いつもせんせがウタちゃんとどういう感じで接してるのか、とか」

「って言われてもなぁ。…………普通の兄妹と同じだと思うけど。二人で出かけたりとか一緒にご飯食べたりとか一緒にテレビ見たりとか。…………あぁ、アイツ、心霊系が苦手なんだよ。なのに好きだからさ、ホラーのテレビは欠かさず見るし、見た後は俺の布団潜り込んでくるんだよ」

「カップルじゃん!」


 何故か天に吠えるように言うゆめちゃん。


「そうだ、思い出した! せんせ、配信でも頭撫でてあげてたじゃん! ウチも撫でてもらったことないのに!」


 うーっ、と威嚇してくるゆめちゃん。


「え、…………前、無許可でボディタッチしてくる男子は諸共滅べ、みたいなこと言ってなかった?」

「せんせは別! 他の人はコロスけど」


 めっちゃ物騒やないかい。


「……撫でる?」

「うん!」


 近づいてきたゆめちゃんを優しく抱き留め、髪型が崩れないようにそっと撫でる。…………なんだろう、詩を撫でているときと同じはずなのに全然違う。多分、シャンプーの匂いとかが違うからかな? ただの生徒のはずなのにそこに妙な『女の子』を感じてドギマギしてしま……ってあっぶな! 生徒、そうこの子は生徒。


 だが、頭を撫でているときの表情だったり、もっと続けろ、とおねだりしてくるときのぐりぐりは詩そっくりなんだよなぁ。


 なんてことを考えていたからだろうか。


 ドアを開けてゆめちゃんの母が見ていることに俺はようやく気がついた。


「あっ、いや、違いますよ!? いや違くはないんですけど違いますからね!?」

「ふふふっ、いいんですよ。えぇ、責任さえとってくれれば」


 どうしよう全然わかってない。助けを求めるようにゆめちゃんの方を見てみるもゆめちゃんは未だトリップ状態。……ドラッグかな?


 ゆめちゃんの助けを諦めて再び弁明しようとすると、お母様の視線は俺らではなくその後ろに移されていて俺もついその視線を追いかけてしまう。


「…………げっ」


 そこにあったのは乙女にとっての伝説級武器レジェンダリーウェポン、ゼクシ○であった。物理にも精神攻撃にも盾にも有効な神装備。チート性能のぶっ壊れ武具はそろそろゼクシードとかに改名するべき。


 しかも部屋の四隅に高く積まれている。…………盛り塩かな?


 その後、お母様の圧力に屈しないように弁明していると、20分はあっという間に過ぎ去っていた。


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