第18話 幼馴染とMV撮影な件 ②
二時間ほど電車に乗って向かったのは田んぼの見える田舎だった。
住宅の数がだんだんと少なくなってくるにつれて増えてくる緑の割合の多さに感動していると、真冬が席を立った。乗客がすでにまばらとなった車内から出て、改札を抜ける。普段はあまりこういう田舎には来ないからなぁ。意味もなく空気を吸ったり吐いたりして、おいしいのか確かめていると、スマホから顔を上げた真冬がこっちを見てきた。
「それじゃあ、行こうか」
「ほいほい。どんくらい歩くの?」
「いや、タクシー呼んでもらってるからそれで行こう」
「マジか…………タクシーなんて乗ったことねぇぞ…………」
俺が根っからの貧乏性を惜しげなく発揮していると、呆れたような眼で俺を見てくる真冬。
「これから乗るようになるんだから練習しといても損はないでしょ。それに、さっきの電車で凛に気づいている人いたよ。写真は撮られてなかったけど、詩ちゃんのストラップつけてたから多分凛のこと知ってると思う」
「マジで? それ、多分真冬を見てたんだろ」
「…………女の子だったし」
じとーっ、とした目で見てくる真冬に、「なおさらそうだろ」とは言えない。まず間違いなく機嫌を損ねる。自分が男っぽいと言われるのにはコンプレックスがあるらしい。かといって女の子扱いすると、それはそれで怒る。女心は複雑だ…………。
「でも顔写真も流出してるし、今回MVにも出るからなぁ。…………対策は何か考えておくか」
変装用にマスクを家に常備しとこうかな。伊達眼鏡でもいいなぁ。でも、俺、眼鏡似合わなさそうなんだよなぁ。やっぱマスクかな?
変装アイテムについて嗜好を飛ばしていると、真冬が申し訳なさそうに俺の方を見てきた。
「なんか、ごめんね? 無理矢理出て、って。やっぱ嫌だった?」
「いや別に。むしろ日本一のシンガーソングライターさんのMVに出れるなんて光栄だわ」
「…………恥ずかしいからやめて」
「…………ヤバい、考えないようにしてたのに考えた途端緊張してきた。これ、俺が間違えたり、演技クッソ下手だったら炎上するやつだ」
「そんなことないって。というか、演技に関しては私の方が下手な自信あるよ」
「そんなことなくなくなくないって」
「どっち? …………あ、あれだ。佐々木さーん!」
ぶんぶんと手を振りながら一人のスマホを見ていた女性に近づいていく真冬についていくと、佐々木さん、と呼ばれた人が顔を上げた。
「もう! 随分待ったんですからね! 遅れるなら遅れるって連絡してくださいっていっつも言ってるじゃないですか」
そして、開口一番にキレられた。
「え、遅れたの? 全然急ぐ素振りなかったけど遅れてたの!?」
「あははー。ちょっと色々手間取ってね。今日はいつもより早く起きたんだけど間に合わなかったか」
「30分も遅れてますよ! …………あれ? なんか違和感あったんですけど、今日はジャージじゃn___」
「わ、わわわー!! うるさいよ! いいから早く行こう!」
わちゃわちゃとじゃれあっている二人を、ソワソワとしながら見守る俺。この空間入っていきづらいなぁ。帰りたい。
「衣装は前日に搬入する、って言いましたよね?」
「あ、あーそうなんだ。知らなかったなー。じゃあ今日もジャージでよかったのかー」
冷や汗を垂らしながら弁明している真冬を疑うような眼で眺めていたが、ようやく俺に気がついたのか、目を向けてくる。そしてしばらくの間見つめられ…………
「あ~なるほど。すべて合点がいきました」
「う、うるさいよ、佐々木さん! あと、凛!」
「ん?」
「こちらがマネージャーの佐々木さん! それでこれが凛! 今日の主演!」
「主演じゃねぇよ…………風間凛と申します。名刺を切らしていてすみません」
「あぁ、いえいえ! 全然大丈夫です! 高校生と伺っていますので! 佐々木聖と申します、この度はご足労いただきありがとうございます」
初対面の挨拶を交わす俺たちをあくびしながらつまらなさそうに聞く真冬。もうちょい興味持とうぜ?
「ほら、はやくいくよー」
「待ってくださいって! …………あ、すみません、ドライバーさん。出してください」
助手席に乗り込み、シートベルトをしながら言う佐々木さん。
真冬は良くも悪くもマイペースなところがある。俺といるときはそうでもないが、一人だとかなり自由に生きている。学校ある日でも迎えに行かなかったらいつまでも寝てるし。
そんな真冬のマネージャーをさせられる佐々木さん。かなり苦労してるなぁ。今度何か差し入れを事務所にでも送ろう。
頭痛を抑えるようにこめかみをもんでいる佐々木さんと、窓の外の景色を見てぼーっとしている真冬を見て、俺は心に決めた。




