#6 偉大なる画家
マシロの部屋に入ると、コーヒーカップが二つ用意されていた。
「ほら、飲んでいいぞ」
「ありがとう」
「で、画家さんについてだったよな」
「うん。画家さんの作品も何も知らないから」
「そっか。まあ、ルラが来るまで、オレが最年少だったし、一番ここにいるしな」
「あの、そもそもマシロについて聞いた方が良いかも。マシロは、何でここにいるの?」
「え? 何でって……うーん。急に言われると分かんなくなるな。……えっと、一言で言えば、やっぱり画家さんの作品が凄いからだよ。街でも大絶賛! 絵画、彫刻、工芸、何でもできるけど、特にすごいのはやっぱり絵画! 生身の人間が丸ごとキャンバスに入ったみたいな躍動感があって、本当にすごいんだ。彫刻もそのまま人間が固まったみたいだし。オレもいつかあんな作品描いてみたいな~」
ここに来て一週間くらい経つけど、こんなに興奮するマシロを見たことがなかった。本当に画家さんのことが好きなんだな。
「あ、ごめん。取り乱した。でも、本当にすごいんだ。城のいろんなところにも飾られてるんだって」
「そうなんだ」
「で、画家さんは夜の九時から十二時までの三時間は、いつも散歩してるんだ。適当に歩き回ってるらしいよ。まあ、どんな芸術品を作るにも、そういうのって大切だしね」
「分かった。じゃあ、ここにはたくさん人がいるけど、そのあとはどうやって自立するの?」
「画家さんが認めたら、だよ。アトリエから出ることを認められたら、画家さんが自立記念として地下に呼んで、自画像を描いてくれるんだ。画家さんが太鼓判を押せば、その後の芸術家人生は勝ったも同然だからね。一番最近出てったのは、リコ・エイルって奴。俺、画家さんに自画像描いてもらってた時間は爆睡してたから……その前日に、一緒に飯食ったのが最後だったな。元気にしてっかな~」
マシロは天を仰いだ。
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