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第三十話 蓮ノ谷光彦と青海航也は、一緒にやりたい。(第一部最終話)

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前回(第二十九話)のあらすじ


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 蓮ノ谷光彦です。

 

 部長が、青海君を気にかける理由は、彼の亡きお兄様を重ねているからだと判明した。

 でも僕が、青海君を大切に思う理由は、青海君自身が大切だからだと気づいた。


 青海航也です。


 合コン中、何故か部長からの呼び出しで主任と待ち合わせることになり。

 ハマヤ食堂で遅い夕飯を共にすることになった。


 

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第三十話 蓮ノ谷光彦と青海航也は、一緒にやりたい。(第一部最終話)


【蓮ノ谷・青海side】



「え、い、いいよ。僕の家すぐそこだし」


「レンタルサイクル、主任の家あたりのポートが、一番近いですし」


「あ、そう、なら、あ、ありがとう」


 これは、蓮ノ谷主任と共にハマヤ食堂にて夕飯を取っている途中の会話だ。

 俺が、彼の家まで送っていくと主張したあとの、こんな問答を経て。

 少し気恥ずかしそうに、定食の五穀米を咀嚼する主任の口元で。

 ……あるものを、目撃してしまった。


「主任」


  テーブルの向かい側に座っていた青海君が僕のことを呼んだかと思うと。

 いきなり僕の顔に手を伸ばしてくる。そして……。

 

「食べたの?!」


  主任の唇の端についていたごはんつぶを摘み、反射的に口に入れてしまってから。

 驚く彼を見て、やらかしてしまったと気づく。

 以前、似たシチュエーションになった時には、そんなことをしなかったのに。

 動揺のあまり、謎の言い訳をしてしまう。


「あ、す、すみません、その、従弟が小さい時に、その、よくやっていて、つい」


 えっ……いとこが小さい時……。

 つまり、こ、子供扱いされた……。

 ……僕をそんな扱いした青海君に仕返しとして、なんでもない風にサラッと話に出してみる。

 本当は、もっと折を見るつもりだったんだけど。


 さすがに失礼だったかと内心焦っていると。

 主任は少し呆れたような目つきをし、こんなことを言い出した。


「あのさ……『ごはんつぶ』さん動画のごはんつぶって名前なんだけど、もしかして……」


 こう告げたら、青海君は少し目を見開き、息を飲んだ。

 そして、覚悟を決めたように、口を開いた。


「……はい、主任の歓迎会の時に」


「え、あ、やっぱ言わなくていい……マジで……部長とか営業部の皆さんにそれを見られてたかもしれないの僕……」


 頭を抱えた主任を目にしながら、ふと気づく。

 その時に、俺は。

 その時から俺は。

 ……主任のことを。


「……主任はいつ……俺だって、わかったんですか」


 青海君が、ぼそりと聞いてきた。

 実はつい先ほどでした……って事実をごまかそうと、少し威張った感じで答えてしまう僕。


「だって君、最新のドルクカリー回。僕たちの会話そのまんまだったじゃない」


 密かな祈りを込めて放流した俺の想い。

 気づかれなくても仕方がないと思っていた。 しかし、この人は、見つけてくれたのだ。

 じんわりとした喜びを感じる。


「……動画自体は、前に撮ってたもの?」


 ドルクカリーの映像自体は見慣れないものだったから、こう、聞いてみる。


「……はい、主任が晶城寺さんとパフェ食べてた日です」


 以前はわだかまりがあった、あの日の出来事について。

 あっさりと口に出せる自分に少し驚く。


「あ、あの日……青海君が部長の車に乗ってた日かあ」


 こんな風に答えたけれど。

 不思議と、当時感じたようなモヤモヤは出てこなかった。

 鳥越部長から……伯父としての立場を少し越えたような感情をぶつけられたばかりなのに。


 ……やはりあの時、主任のほうもこちらに気づいていたのか。

 しかし、当日助手席で感じたような複雑な感情は……今は全く蘇ってこなかった。

 ……これまでになく、主任と近しいような空気が、そうさせているんだろうか。



※※※


 ハマヤ食堂を出て、二人で僕の家までの道をたどる。

 隣の青海君は、今まで一緒に歩いた時より、少しだけ近い位置。


 主任と、彼の家までの道を歩く。

 隣の蓮ノ谷さんは、気のせいか、いつもより近く感じる。少し、体温を感じるくらいの、距離。


「そういえばさ、なんでハマヤ食堂で撮影したの? 他の動画は……あ、ドルクカリーは除くけど、みんな会社から徒歩数分以内でさ。ハマヤは僕の家の近所だし、ランチには少し遠いよね」


「あ、あそこは……鳥越家の墓が近くにあって」


 青海君のお父様が亡くなった後、お母様と鳥越の家を出て遠くに越した関係で、中々お父様のお墓参りに行けなかったのだということだった。

 墓所に近い我が社に就職した際、落ち着いた頃の休日にでも、いつか行こうと思っていたそうだ。

 ハマヤ食堂は、その帰りに寄ったのだとか。


「……そっか。休日に撮影したものだったんだね。どおりであの動画にジャケットと時計、映ってたわけだ」


 しみじみとした口調で返す主任の横顔をそれとなく見ながら。

 ふと、この人と俺を父が引き合わせてくれたのだろうかなどと思ってしまい。

 勝手に気恥ずかしくなり、密かに取り消す。


 僕の家まで、あと少し。

 もちろん明日も、会社で顔を合わせることになるのだけれど。

 僕らは上司と部下でしかない関係だ。

 だから、この空気感は、今だけ。

 だから、僕は、思い切って。


「青海君、握手、しよう」


 突然くるりと俺の前に回り込み、右手を差し出してきた主任。

 戸惑う気持ちを隠しながら、俺の方も右手を差し出すと。彼は俺の手をしっかりと握ってきた。

 動揺する俺に、彼は幾分低めな声音で、ぽつりぽつりと話し出した。


「僕ね、青海君に改めてお礼を言いたいんだ。僕は、君に救われた。福岡に来たばかりの頃、君の作ってくれた動画で近所のハマヤ食堂を知って、そこから、色々なお店も知っていって。この地に馴染むきっかけをくれたのは、君なんだ。……ありがとう、青海君」


 僕の右手で握った青海君の右手を、大切に左手で包む。

 少し僕より大きくて、骨ばって指もしっかりしてる。僕の好きな、手だ。


 主任の左手で、俺の右手がそっと包まれる。

 すらりとした長い指、間違いなく男性の手なんだけど、白くてきれいな……俺の好きな手。


 ……青海君の手を握りながら、実は僕は、本当に聞きたいことを聞く勇気が持てないことを実感してしまっている。

 それは青海君が、どうして僕をモデルに動画を作っていたのかということ。

 僕のことをどう思っているかが、ハッキリわかってしまうのが怖くて。


 蓮ノ谷さんの手から、じんわりと、彼の体温が伝わってくる。しかし、そんな風に優しく触れてもらえて、嬉しい言葉をもらえるような行いをしているようには到底思えない自分は。以前より密かに考えていたことを申し出る。


「あのチャンネルは……主任にお渡ししようと思っていたんです。偽物の声や感想じゃない、主任自身のそれで続けていってくれたらと。……もう主任は、自分で……作れる人だから」


 少しうつむき、ぼそりぼそりとそんなことを言い出す青海君。

 僕は頭が一瞬真っ白になりかけ、とっさに叫んだ。


「いやだ」


 跳ねるように顔を上げ、主任の顔を見る。あまり見たことがない表情。少し、すがるような眼差しに、動揺する。

 彼は、握る手に力をこめてきた。


「ぜんぜんわかんないことだらけだよ、僕はまだまだ、たくさん君に教わりたいんだ」


 僕は必死に、考える。

 もしかしたら、今聞いた青海君の言葉は、ある意味審判が下ったようなものかもしれないけれど。

 でも僕は、僕自身驚くほどに、青海君と離れたくないと感じている。

 近い将来、確実に離れてしまう僕らが、なるべく今を共に過ごすための理由を、懸命に探してしまっているのだ。


「……ねえ、青海君。一緒に、やらない? 二人で『ごはんつぶ』さんになろうよ」


 主任は、俺の主任は。こんな俺にはもったいないような言葉をくれるような人だ。

 だから俺は。万感の想いを、なんとか言葉に載せる。


「……はい、俺で、よければ」


 少し勢い任せだった提案だったけれど、青海君がうなずいてくれたので、密かにホッとする。


「……ありがとう」


「……」


 主任の左手がそっと、離れていく。

 少し名残惜しそうに見えたのは……俺の願望なのだろう。


 僕の左手を青海君の手の甲から思い切って、離した。

 そうしないと、ずっと、触っていたくなってしまうから。

 そして、右手、なんだけど……。


 主任の右手を握ったままの俺の右手。

 あくまでもただの握手なんだから。

 もう、離すべきなのだろうけど。


 どうしても離れがたくて。


 離したくなくて。


 かといって、そこからどういう行動を取るべきなのか……取りたいのか、わからない。

 そんな風にぐるぐる考えていると。

 青海君がためらうそぶりをしながらも、擦るような足取りで一歩、近付いてくる。

 僕はなんだかドキドキして、うつむいてしまう。


 握り合ったままの俺たちの右手の内側が、少し汗ばみ始める。

 主任はああ言ってくれたけれど。

 どうしてもまだ、気になっていることがある。

 だから、思い切って口に出してみる。


「主任」


「な、なに……」


「主任は、俺が『ごはんつぶ』動画の作り手で……がっかり、しなかったですか……その、部長、みたいな……大人、でなくて」


 僕のおでこに、青海君の吐息を感じる。

 彼の香り、海のような匂いは今、汗のそれと入り混じって。なんだか落ち着かない気分になる。

 青海君に質問されているのに、答えてあげたいのに、顔を上げられない。


 主任はうつむいたまま、黙り込んでいる。

 でも、俺が近づいても、そのままそこにいてくれるから。

 思い切って、左の指の背で彼の頬に触れてみる。

 主任の肩がぴく、とはねる。


 青海君が指の背で、僕の頬をゆっくり、なでてくる。僕の好きな、少しかさついた、彼の指の感触。

 でも、青海君が僕になんでそんなことしてくるのかという疑問と、青海君の質問に答えなきゃっていう焦りで、少し挙動不審になってしまい、まとまらないまま返してしまう。


「が、がっかりなんて……してないよ。……えっと……僕、『ごはんつぶ』さんが、青海君で、良かったと、思う……」


 主任の声音は吐息混じりで、秘密めいた響きで。

 鼓動が勝手に高まっていってしまう。


 いったん口に出したら、なんだか言い足りないような気がして、更に言葉を重ねる僕。


「ううん、……青海君のほうが、いい……」


 主任はぽつりぽつりと、しかしわずかに声に力を込めて、こう言い切った。


「僕は、青海君がいい、から」


「……」


 気づけば、僕の右頬をなでていた青海君の指が動きを止めている。


 主任からの答えが、欲しかったもの以上のニュアンスがあるように感じてしまい、キャパオーバーになった俺は。

 衝動的に少し赤くなっている主任の耳に触れてしまう。彼はビクッとしてこちらを見上げてきて。

 そして、至近距離で目が合ってしまって。


 チリンチリーン


 レンタルサイクルに乗った男性が、ベルを鳴らしながら僕たちの横をすり抜けてゆく。


「あ、在庫なくなる」


 思わず、右手を離す主任と俺。


「じゃ、急がないとだよね、青海君、ま、また明日」


 急に恥ずかしくなってきた僕は、ろくに青海君を見ずに、逃げるようにアパートの敷地に入り、階段を登り始めた。


 主任が部屋に帰る様子を、ドアが閉まるまではと見守る。

 名残惜しいけれど、これ以上ここにいてしまったら、不審者扱いになると思い。

 レンタルサイクルポートの正確な場所を確かめるべく、アプリを見ようとスマホを取り出すと。蓮ノ谷さんからのLINEの着信があった。


『明日のお昼、どこ行こっか?』


 今頃帰り道を急いでいるであろう青海君に、思わず送ってしまったメッセージ。


 主任から送られた文章に、泣きたくなるような愛おしさを感じて。

 俺は丁寧に文字を返す。


『主任の行きたい店はありますか』


『じゃあさ、一緒に、考えよっか。青海君も行きたい店が、いいな』


 僕から送ったのは、『ごはんつぶ』動画で青海君が紹介してくれていた、僕たち二人でまだ行っていない店とか。

 管理職や営業部のミーティングで話題になっていた店とか。

 総務の女性たちからおすすめされた店の情報。


 主任から、候補の店のインスタやGoogleマップのリンクが続々と送られてくる。

 俺からは、村野さんと田之上さんに聞いたり、合コンの時に根矢川さんたちから教わったり、母さんや奏二郎との話に出た店の名をシェアしていった。

 そうして、この大切な時間を少しでも長く味わっていたくて、歩いて帰ることに決めた。


 そんなふうに、しばらく先までの、僕らのランチのスケジュールをメッセージで話し合って。


 俺は、幸せな気持ちで帰り道をたどり。


 僕も、幸せな気持ちで。

 寝るまでの時間を、過ごしたのだった。




【第一部 完】


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【作者からのお知らせ】


 ここまで、「主任のお昼ごはんチャンネル 〜俺の上司の食レポ動画を今日も愛でたい〜 #しゅにちゃん」蓮ノ谷光彦と青海航也のお話をお読みいただき、誠にありがとうございました!



 初期の構想では、なろう小説にてこのあと二部、三部と続けて、二人のお話を完結させる予定でしたが。


 このたび、第一部をコミカライズし、その後も漫画にて第二部以降を作っていくことになりました。

漫画動画でも順次公開予定です。


公開媒体はTwitterにてお知らせいたします!


Twitter

https://twitter.com/fujiki_youji


「しゅにちゃん」コミカライズ準備の間に、他のスーツ男子の漫画なども公開予定ですので、よろしければそちらも見ていただけると嬉しいです。


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おまけ

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※なろうで二部以降も連載しようと考えていた当初に準備していた予告



■第二部 予告■


〜 MAITO事変勃発! 〜



【蓮ノ谷side】


「青海君!」


「主任?!」


 明らかにギョッとした表情の青海君が跳ねるように頭を上げてこちらを見て、パッと自分の腕時計に目を落として立ちあがろうとする。


 すると、脇からのっそりと、少し長めな髪の背の高い男性が現れて、無言で手に持った板のようなものを青海君に見せた。


 途端に青海君は、そのままの姿勢で動きを止めた。


 それにしてもこの男性、で、デカいな……。180センチ……いや、それ以上あるかな……。


 でも、顔立ちが少し幼いから高校生……?


 などと観察しながらも、そろりそろりと前進していくと。


 背の高い彼は、言葉を発することなくこちらにも板をむけてきた。

板にはこう書かれている。


『ライブ配信中です』


 思わず僕も歩みを止めてしまう。


 すると、青海君の手前に座っていた人物がスッと立ち上がり、こちらをくるりと振り向いた。


 柔らかな薄茶のサラサラな髪。

 少し目尻が下がった黒目がちの大きな瞳が印象的な、バランスの良い顔のつくり。

 ゆったりした衣服からは、すんなりと伸びやかな色白の手足が覗いていて。


 美少年、としか言いようのない男の子……だった。


MAITOマイトの特別配信! ついに初恋のおにいちゃんに手作りカレーを食べてもらいますスペシャル!」


 煌々と照る撮影用ライトを背にした少年は、そう言い放って。


 すごく綺麗に。


 笑った。



〜 鈴本、来福! 〜


【青海side】



「光彦、ミスト変えた?」

「ミスト? あ、ふぁぶりっくみすと、ね。よっちゃんにもらったやつ、高かったんだもん」


『ヨッチャン』?!

 もしかしてこの眼鏡男の下の名前か?


 ……下の名前で呼び合っている……だと……?!


 しかも主任の口調が心なしか甘えたような感じなのがなんか……こう……モヤっとするな……。


 それにこの人、主任をいきなり、だ、抱きしめたりして。ハ、ハグってやつか?

 東京ではそういうの、普通……なのか?

 主任もまったく動じてないし……。


 すると、眼鏡男がこちらを向き、近づいて来て。


 俺の肩付近に顔を寄せると、臭いを嗅ぐようにスン、と鼻を鳴らした。


「な、なんすか」


「ふぅん? 君の趣味ってわけかい……青海クン」


「!」


 すると主任が、俺をかばうように、男との間に割り込んできたのだ。


「ちょ、おまえの変態行為に僕の部下を巻き込むな!」


 それを聞いた眼鏡男は目を細めると。

 大袈裟に抑揚をつけて、こう言った。


「部下(ぶ↑か↓)、ねぇ……」


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おまけここまで

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以上、なろうでの「しゅにちゃん」公開はここまでになります。

本当にありがとうございました。


第一部のコミカライズおよび第二部以降の漫画および漫画動画の

公開媒体はTwitterにてお知らせいたします!


Twitter

https://twitter.com/fujiki_youji


「しゅにちゃん」コミカライズは少しおまたせしてしまいますが、

その間に、他のスーツ男子ネタの漫画なども2023年6月頃から順次上記Twitterアカウントにて公開していきますので、よろしければそちらも見ていただけると嬉しいです。


改めまして、このなろうの場にてこの物語をお読みいただいた皆様、誠にありがとうございました。




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