第二十八話 蓮ノ谷光彦と青海航也は、今すぐ逢いたい。(前編)
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前回(第二十七話)のあらすじ
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蓮ノ谷光彦です。
本日更新された『ごはんつぶ』さん動画にて。
青海君が『彼』だと確信した僕。
しかし飲み会の会話の中で、
部長から『ごはんつぶ』さんの正体について言及があった。
部長は、僕の知らない事情をご存知なんですか……?
、
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第二十八話 蓮ノ谷光彦と青海航也は、今すぐ逢いたい。(前編)
【蓮ノ谷side】
「そ。その『ごはんつぶ』さんの正体に……興味、ある?」
「……えっ……部長、ご存じなんですか……?」
鳥越部長が言い出した内容に、動揺を隠せない。
僕は『ごはんつぶ』さんが青海君だって確信したつもりだったけれど。
彼はなにか、僕の知らないことを知っているんだろうか。
「うん、検討はついてるんだ、ああいうことをやる奴。今度紹介するよ」
「……どなたなんです?」
なぜか一瞬、部長が舌なめずりをしたように思えた。
「確証はないんだけどね。知り合いの……某社の部長やってる奴で、食道楽なのがいてさ。確か、食べた料理を撮影してSNSに載せていたんだ。それを動画にもしていた記憶があって。もしかしたらってね」
すうっと、背筋が冷える。
これは、嘘、だ。
「……そんなはずはありません。……『ごはんつぶ』さんは……」
落ち着いて、『ごはんつぶ』さん動画の、ドルクカリーの回のナレーションを思い返す。
そして、ドルクカリーで、リアルに僕と青海君が語りあった内容を思い返す。
僕と青海君とのこれまでの時間の記憶に、背中を押してもらって。
僕は、口を開いた。
「青海君、ですから」
すると、部長は目をすがめ。手にした杯をくいっと一気に飲み干すと。
たん、と音を立ててテーブルに置いた。
「……ふぅん? どうしてそう思ったの?」
「『ごはんつぶ』さんのチャンネルに、昨日深夜にアップされていた動画は、ドルクカリーというカレー屋の食レポです。先日、展示会の帰りに青海君と夕食をとった店でもある同店で、僕たちが話したことがそのままナレーションになっていました。これがその動画です」
『ごはんつぶ』さん動画のドルクカリー回をスマホで表示させ、部長に向けて卓上に置く。
僕のスマホを一瞥すると、部長は少しうつむいて、口元を隠すように手をやった。
「……君は、どこかの部長なんじゃないかって予測してたんじゃなかった?」
「青海君が話したんですか」
「……そうだ」
「……渋めな趣味の時計とジャケット。動画に映り込んでいたこの二つから、勝手にそんな風に想像していただけです。……でも、今は。……両方とも、青海君のものだって、僕は知っています」
……と、部長には言い切ったけれど。
実はさっき、急いで動画を見返した時。
ジャケットの布地は、かろうじて青海君のお祖父様のそれであるように見えたものの。
時計のほうの確証はない。
僕は、青海君の持ち物を、ハッキリ見てはいないから。
だからこれは、ハッタリだ。
このあと攻勢に出るためのブラフ。
背筋を伸ばし、しっかりと部長を見据えて口を開く。
「部長。部長は、どうして僕に、嘘をついたんですか」
部長は深く息を吐くと、呟くようにこう言った。
「……なんであの子がそんな動画作ってたか、わかる? わざわざ君の声に似た合成音声使ってまで」
「……自分の顔や声を出したくないから、自分とは違うキャラクターで運営する手法は、YouTubeに限らず良く見られるものですが」
「君なんだよ。あの動画のモデルはね。青海航也は、蓮ノ谷光彦がチャンネル運営しているという体で、動画を作っていたんだ」
「……理由がわかりません。どうして青海君が、僕で、僕なんかでそんなことをしたのか」
すると部長は、少し苛立ちをあらわにした。
「はっきり言おうか。僕の兄さんの忘れ形見を誑かすな……ってね」
※※※
【青海side】
根矢川さんと俺がテーブルに戻ったあと、仕切り直すように、田之上さんが話題を振ってきた。
「それにしてもさ、鰻すみだかぁ。俺らくらいの若輩じゃあ、まだ敷居が高いつうか。ま、いつかは使ってみてえなって憧れはあるなぁ」
すると、篠原さんが会話を続けてきた。
「ですよね〜。写真撮影NGなのかな、ネットにも公式写真とか、ハイクラスなレストラン専門サイトにしか料理や店内写真ないし、憧れますよね〜」
篠原さんが落ち着きを取り戻したせいか、あきらかにホッとした様子の田之上さんは、
場を盛り上げようと少し艶っぽい方面に話を展開させだした。
「議員とかも使ってるっつう話だし……ゴージャスめな座敷で指をパチンとすると、襖がさぁっと開いて、次の間に赤い布団が敷かれている……みてぇな?」
「赤い布団〜?!」
「いやだぁ〜」
「それ、時代劇かなんかと混同してません?」
「青海さんの『センパイ』が上司と二人きりで行ってる店って、そんな店なの?」
少し色めき立つ女性陣の声を聞きながら、ふと鳥越部長の言葉を想起する。
『今度、蓮ノ谷ちゃんと二人でしっぽり飲むんだけどさ』
...... 『しっぽり』とは、どういう意味だったかと、こっそりググってしまったりして。
『しっぽり』
1 ぬれて十分に湿りけを含むさま。「春雨に―(と)ぬれる」
2 男女の情愛のこまやかなさま。「―(と)語りあかす」(※)
ぬれる……?
情愛……?
「二人でしっぽり……」
「どうした急に……ってか、青海、なんか顔色悪くねえか?」
「ぶ……上司がそんなこと言っていた……らしいのを聞いて」
「え、そう言って誘ったの? スケベオヤジじゃん」
「セクハラだよね、疑いようもなく」
厳密には主任に言ったわけじゃないから誤解ではあるが。
奏二郎のやつ、女子大生から絶大な不興を買ってやがる。ざまあみろ。
……なんてことを考えている場合ではない。
すると田之上さんが、あごをさすりながらこう言ってきた。
「うーん、青海にゃ悪いが、二人きりですみだに行くって聞いた時点で、既にできてるか、またはその場でできてしまうかって関係なんじゃねえのとは思ったな」
し、しっぽりってやっぱそういう……。
〜 青海の妄想 〜
『ぶちょお、僕……なんだか酔ってしまいました……』
『……大丈夫? 蓮ノ谷ちゃん……?』
よろめく蓮ノ谷を支える鳥越。
彼がスッと右手を上げると、すらりと背後の襖が開いた。
部下の瞳に、隣室に敷かれた一組の高級布団が映る。
『ふふ……蓮ノ谷ちゃん……かわいい、ね……』
部長は蓮ノ谷を横抱きにすると、そっと彼を布団に寝かせ
(記述はそこで途絶えている)
〜 妄想ここまで 〜
……経験値の無さによるワンパターンな妄想なのはわかっている。
……しかし、奏二郎のやつ、腰やりそうだな、ざまあみろ。
……なんてことを考えている場合ではないのに。
「もう、青海さん、なんでここにいるの!」
突然、篠原さんからお叱りの言葉が飛んでくる。
田之上さんも、賛同するように声を上げた。
「先輩のLINE知ってんだろ? ヘルプ必要でしたら言ってくださいって送っとけって」
「なに悠長なこといってんの? 貞操の危機だっつうのに。もう、行きなって!」
「俺が行って良いものか、わからない……あの人がそれを望んでいないかもしれないし」
「青海さん……」
テーブルが深刻な雰囲気になってしまったのを感じ、得意ではないがフォローを入れるべきかと思考を巡らせていると。
これまで会話を黙って聞いていた村野さんが、俺をまっすぐに見据えて口を開いた。
「......青海。おまえ自身は、どうなんだ?」
「……っ」
「その……『センパイ』が、上司と関係が出来てしまって、良しとするのか?」
続く
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第二十九話予告
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蓮ノ谷光彦です。
部長の青海君に対する感情は、亡きお兄様への慕情が元になっているようだった。
でも僕は、青海君自身が、大切だから。
青海航也です。
合コンの最中、俺のスマホにLINEの着信が来た。
その内容は、衝撃的なものであり……。
次回、第二十九話「蓮ノ谷光彦と青海航也は、今すぐ逢いたい。(後編)」
あの角を曲がれば。
主任に。
青海君に。
逢える!
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※引用は『デジタル大辞泉(小学館)』による
【作者からのお知らせ】
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!
この物語は週一回更新です。
次回二十九話は2023年5月20日(土)22:00を予定しています。




