第二十七話 青海航也と蓮ノ谷光彦は、想いあう。(後編)
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前回(第二十六話)のあらすじ
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青海航也です。
主任と部長の飲み会の状況が気になりながらも、とりあえず俺は、合コンに赴いた。
すると、会場入り口で、『韋駄天酒場』の女性店員と遭遇する。
そして、彼女も合コンメンバーだと判明したのだった。
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第二十七話 青海航也と蓮ノ谷光彦は、思いあう。(後編)
【青海side】
行きがかり上、根矢川さんと揃って指定のテーブルに赴くと、すでに席についていた田之上さんにすごい目で見られてしまう。
友人同士であるらしき女性陣がおしゃべりし始めた隙に、こっそり近づいてきた田之上さんに小突かれる俺。
「……おい、青海クン? どういうこと?」
「ほら田之上、青海も座れ。じゃ、皆揃ったから始めますか」
テキパキと村野さんが進行を始め、合コンはなんとかスタートしたのだった。
飲み物をオーダーしたあと、早速、俺と根矢川さんの関係を田之上さんから鋭く質問されたが。
根矢川さんが、カラッと笑顔で彼女のバイト先の常連だと俺のことを紹介してくれたため、彼は機嫌を直してくれた。
「韋駄天酒場かあ、ランチやってんだぁ?チェックしてなかったわ、ごめんねぇ、今度ぜってぇ行くからさ」
それを機に、参加者それぞれの自己紹介を兼ねて、推しの食事処を披露しあう流れになった。
「んじゃ、次は青海」
俺の順番になったところで、微妙に慣れない雰囲気に少しあわててしまい、ついポロッと、ずっと頭から離れない店名を口走ってしまう。
「鰻すみだ……」
「坂の上の高級店の? 青海さんてば、そんな店行ってるんですね〜意外〜」
女性陣の三人目である篠原さんが即反応をしてきたため、ごまかすことも出来なかった。
「シノちゃん、失礼だよ〜」
おっとりと彼女をたしなめたのは、村野さんの彼女の美加理さん。
「すいませぇん」
などと謝りつつも、少しむくれ気味な表情になった篠原さん。彼女はロングヘアの少しきつめな印象の美人なので、なんだか妙な圧がある。
空気が変になってしまいそうだったため、原因たる自分がなんとかすべく体を張ることにした。
「あ、いや、しゅ……こ、高校の時の『センパイ』が、今、会社の上司とその店に行ってるらしくて。その、えっと、あ、憧れてる人なもんで、気になっただけで」
すると女性たちの目の色が変わり、妙に前のめりな姿勢を取り始める。
特に篠原さんは、つい最近彼氏と別れたとのことで。恋バナに飢えてると称して根掘り葉掘り質問してきた。
(オメー……この場で恋愛相談とか……)とでも言いたげな視線で田之上さんが見てきたが。
こうなったらもう突き進むしかない俺は、少し苦し紛れながらもフェイクを入れつつ、女性陣にネタ提供をしていった。
「はぁ〜、夢あるぅ……。青海さんの先輩、アラサーでも年下の男性にこんなに切なく思ってもらえるなんてさぁ」
感慨深げに篠原さんがソファに背を預けた瞬間、絶妙なタイミングで村野さんがトイレ休憩を提案してくれた。
手洗いを済ませ、トイレ入口ドアの脇で少し一息ついていると、根矢川さんがそっと近づいてくる。
「シノってば、青海さんにガンガン聞いちゃってますよね……ごめんなさい」
「いや、大丈夫……す」
すると、彼女はいたずらっぽい表情になり、こんなことを言い出したのだ。
「……ね、青海さんの憧れの『センパイ』って……主任、やってたりしません? 色白で、少しブラウンがかったウルフカットで。ジレが似合う素敵な人」
思わずギョッと根矢川さんを見てしまう。
妙に女性ウケがいい主任のことだ。この人も、彼になにか思うところがあるのか?
すると、俺の表情があまりにわかりやすかったのか、彼女はこちらをなだめるような口調になった。
「あは、警戒しなくていいですよお。私、陸上の選手やってまして。コーチに絶賛片想い中なんです。青海さんの『センパイ』くらいの、年の人」
「……そう、なんですか」
「ハイ。でも、私のほうは、青海さんと違って……」
根矢川さんの話は、ヌッと脇から田之上さんが現れたため、中断されてしまう。
田之上さんはなんとなく憔悴したような表情で、こう告げてきた。
「君らが戻んないから、二人で消えたんじゃってシノちゃんがさあ。管巻き始めちゃってんの。誤解解いてくんない?」
根矢川さんが田之上さんに謝り、すぐ戻ると告げたあと。俺のほうを向き、申し訳なさげな顔をした。
「『センパイ』にも悪いことしちゃいましたね」
「しゅ……『センパイ』は、そんな、俺のことは、別に、なんとも」
「ええ〜? 果たしてそうですかね〜?」
俺の言葉に、根矢川さんはなぜか意外そうな顔をした。
※※※
【蓮ノ谷side】
鰻を待つ間に運ばれてきたお酒を、まず部長が注いでくれたので、ありがたくいただく。
うわ、すっごく美味しい……いいお酒だ……。
「ふふ、蓮ノ谷ちゃんの好みにあったら嬉しいな」
「はい、とても」
今度は僕のほうから部長に注ぐと、彼はニッコリと杯を掲げ、こう言った。
「近々、本社の鈴本君が福岡に来るらしいね」
「はい、個人的に連絡はありました」
「例の彼主導の子会社、声かけされてるって聞いたよ」
「……考えさせてほしいと、伝えています」
「そ。でも、もし行ってしまうならば、まったく残念だよ。蓮ノ谷ちゃんみたいな若く優秀で、かつ、管理職を任せられる人材は得難いからね。……あは、まだ気が早いか」
「そんな、嬉しい言葉です。……ありがとうございます」
部長にはこう答えたけれど。
実はほとんど、鈴本の会社に行くつもりだった。
今の会社が嫌なわけじゃない。
ただ、公私ともに僕をフォローしてくれた鈴本が、こんな僕を必要としてくれるならと考えただけだった。
主任にならないかと本社時代の上司に言われた時も、自信など無かったけれど。
少しでもキャリアを積んで、鈴本の役に立てればと思ったから引き受けたのだ。
でも。僕は。
部長が徳利を持ったので、飲み干して杯を差し出す。
僕の杯に注ぎながら、彼は話を続けた。
「動画講座はどうなってる?」
「あと一回ほどで、一通り終了する見込みです」
「青海君とはその後、どう?」
「はい。以前ご報告した時と変わらず、いえ、更に互いを理解しあえたと感じています」
「そう、良かった」
青海君。
キュ、と、胸が苦しくなる。
僕は、なんだかすごく、寂しくて……いやだなあって感じてる。
青海君と、離れる、ことを。
……ここに来る前にチェックした『ごはんつぶ』さん動画の新作、ドルクカリーの回。
あれは、確かに僕らの会話だった。
……そうだ。
『ごはんつぶ』さんは、青海君だったんだ。
僕の大好きな動画作者。そして、僕を救ってくれた恩人。
今頃、気づくなんて。
「動画と言えばさぁ……。蓮ノ谷ちゃんの大好きなユーチューバークン、いるじゃない」
ドキッとした。
部長に心の中を読まれたような気がして。
「『ごはんつぶ』さん、のこと、ですか?」
部長の杯にお酌しながら、聞き返す。
ニッコリと杯を掲げた部長は、驚くべきことを、言い出したのだ。
「そ。その『ごはんつぶ』さんの正体に……興味、ある?」
続く
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第二十八話予告
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蓮ノ谷光彦です。
部長が示した『ごはんつぶ』さんの正体は、意外な人物だった。
でも、僕は知っている。
『ごはんつぶ』さんは、本当は、青海君だということを。
次回、第二十八話「蓮ノ谷光彦と青海航也は、今すぐ会いたい。(前編)」
部長、どうして僕に、嘘をついたんですか……?
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【作者からのお知らせ】
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!
この物語は週一回更新です。
次回二十八話は2023年5月13日(土)22:00を予定しています。




