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第二十六話 青海航也と蓮ノ谷光彦は想いあう。(前編)

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前回(第二十五話)のあらすじ


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 青海航也です。


 ここ数日。蓮ノ谷さんに、日曜、部長の元に行ってほしくないなどと考えてしまう俺。


 しかしその感情は、ただの上司と部下でしかないはずの俺たちの関係を踏み越えたものだ。


だから、展示会帰りに寄った『ドルクカリー』で、主任がいつも通りに食事を楽しむ様を見て。


 俺は、彼の本物の感想を引き出して、『ごはんつぶ』動画を次で最後にして、偽物は退場をしようと考えるのだった。


  

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第二十六話 青海航也と蓮ノ谷光彦は想いあう。(前編)



【青海side】



 それから。


 蓮ノ谷主任との最後の講座開催時期について相談もできず、なんとなく昼休みも気まずくて彼を避けてしまっているうちに。


 週末になり。今日は土曜日。


 明日は、主任が奏二郎と二人で、鰻すみだへ行く日。


 俺はというと、憑かれたかのようにここ数日、帰宅後『ごはんつぶ』動画のドルクカリー回に取り組んでいた。


 そうして仕上がった動画を、これまでより遅い時間に公開する。


 これは、逃げである。


 なぜなら、もし、いつもの時間にしてしまったとして。


 主任が気づいてくれなかったらと、怖くなったから。


 最後にすると、偽物は退場するなどと、殊勝な気持ちで作り始めたはずなのに。


 部長との飲み会と、俺の動画が。


 主任の中で、どちらが優先されるかなどと、考えてしまったのだ。


 それなのに、俺は、まだ頭の片隅で。

 期待めいたものを抱いてしまう。


 日曜、あいつの元に行く前に。


 主任がこれに、気づいてくれたならと。


 ……いや、何が変わるというのだろう。


 ……気づかれなくてもいい。


 そうしたら『ごはんつぶ』は。


 俺などではない、主任に似つかわしい誰かとして彼の前に現れ。


 俺自身の、彼に対して密かに育ち始めていた淡い思いは。


 泡となって、消えていくだけなのだから。



※※※


【蓮ノ谷side】



 日曜の夕方。


 最近はかなり日が伸びて、十七時台でもまだ周囲が明るい。


 僕は、僕の住むアパートの前で、部長が車で迎えに来てくれるのを待っている。


 それを部長から提案された時は、さすがに恐縮してしまったが。


 店がどこの駅からも離れた位置にあると口説かれたため、ありがたくお受けすることにした。


 まだ車の姿が見えないので、スマホでYouTubeのアプリを立ち上げる。


 毎晩恒例、『ごはんつぶ』さん動画の新作チェックをするためだ。今夜は遅くなってしまいそうだし。


 すると……。


 あ、あれ?


 『ごはんつぶ』さんのし、新作、来てるじゃん!


 うわあ、昨日見た時には無かったのに!


 ドキドキしながら動画詳細を見ると、なんということでしょう、ドルクカリーを扱っているじゃあないですか。


 すごいタイミング。

 え、もしかして、僕たちが行った日にいたのかな?


 周囲をキョロキョロ見回す。


 ……部長の車は、まだ見えない、ヨシ!


 とりあえず音は出さないで、字幕で流しちゃおっと。


 再生開始すると、オープニングのあとすぐに最寄り駅からの地図が表示され。次いで、見覚えのある外観映像が流れる。


 紹介メニューは、先日僕と青海君が食べたものと同じで、なんだか嬉しくなる。


 字幕で表示される『ごはんつぶ』さんの、味に関する感想に、いちいち共感する。


 しかし。


「……えっ……」


 ある箇所に差し掛かって、違和感を覚える。


 自動生成の字幕だと、正確なところがわからないように感じたので。


 部長の車が来ていないか、再度周囲を見回したあと。


 少し緊張しながら片耳だけイヤホンをつけ、問題の箇所に戻って再生する。


 なじみ深い『ごはんつぶ』さんの『声』が聞こえてくる。


 今は合成音声だと知らされた、『彼』の声。


 改めて聞いてみて、先ほど抱いた違和感の正体が確認できた。


 ……『ごはんつぶ』さんは。


 僕と青海君がドルクカリーで交わした会話通りの内容を、流暢にナレーションしている、のだ。


「そんな……」


 もちろん、味や出されたものの説明については。同じメニューを扱っている場合、似た内容になることもあるだろう。


 しかし、当日の僕たちの会話と語る順番も同じで。

 なによりゲーム用語に例える内容が丸かぶりな他者がいるはずはない。声は潜めていたし……。


「……」


 ある確信を持って、過去の動画一覧をたどる。


 目指すはハマヤ食堂の回。


 『ごはんつぶ』さんのものと思しき時計とジャケットの一部が映り込んでいるのを、発見した動画。


「……」


「蓮ノ谷ちゃん」


 突然名を呼ばれ、必要以上に肩がビクッとなってしまった。


 ……目の前に、鳥越部長が立っている。


 全く、気づかなかった。


 いつのまにか日は落ちて、辺りはすっかり夕闇に包まれている。


「待たせたね。さ、行こっか」


 ジジ、と明滅する街路灯を背にした部長はそう言って。


 笑った。



※※※


【青海side】


 合コン会場として指定された店『ボトム』がある大名地区のあたりは、日曜夜らしく雑多な賑わいにあふれていた。


 普段はこういう雰囲気を好まない傾向にある自分だが。


 ともすれば主任のことを無駄に悩み考えてしまうような心境なので、気を紛らせるにはちょうど良いのかもしれない。


 店の前に着き、村野さんにメッセージを送る。すると、中に入るようにと返事が来た。


 入口の少し重いガラスの押し戸を開けるべく力を込めていると、同じく店に入ろうとしていた若い女性に挨拶をされて驚く。


「あれえ? こんにちは!」


 そんな風に声をかけてくる対象が思い当たらなかったので、一瞬身構える。


 しかし、すぐに彼女が韋駄天酒場の女性店員だと気付く。


 なぜここに彼女がいるのかと少し戸惑いながら挨拶を返すと、更にこんなことを言ってきた。


「もしかして、美加理(みかり)ちゃんの彼氏さんの同僚の人って青海さん?」


 ミカリ、とは確か、村野さんの彼女の名前だ。


 そして、この人がこちらの名前を知っていることに疑問を抱くが、撮影許可依頼時に、そういえば名刺を出したような気もする……。


「だったら今日、一緒ですね。私、根矢川(ねやがわ)カナと言います。よろしくお願いします!」



続く


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第二十七話予告

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 青海航也です。



 いよいよ始まった合コン。


 しかし俺は、主任と部長の飲み会のことばかりが気になってしまう……。


 えっ、例の鰻の店って、そんな店なのか……?!


 次回、第二十七話「青海航也と蓮ノ谷光彦は思いあう。(後編)」


 主任、奏二郎なんかの前で、そんなに飲まないでください……っ!


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【作者からのお知らせ】


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!


この物語は週一回更新です。


次回二十七話は2023年5月6日(土)22:00を予定しています。

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