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第二十三話 蓮ノ谷光彦と青海航也は、終わりが寂しい。(前編)


※予告より遅くなってすみません!


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前回(第二十ニ話)のあらすじ


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 蓮ノ谷光彦です。


 僕が部長と鰻屋で飲む日。青海君が合コンに行くことを知らされた僕。


 彼が同僚の子たちとそんなにも仲良くなっていたことは、紛れもなく嬉しかったけれど。


 合コンで出会った女の子とうまくいって、結婚式に呼ばれたりして、上司の僕はそこでスピーチして……なんて取止めもなく考えていたら。


 なぜか寂しい、っていう感情が湧いてきてしまったんだ。



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第二十三話 蓮ノ谷光彦と青海航也は、終わりが寂しい。(前編)



【蓮ノ谷side】


 翌朝早々、企画広報室に鳥越部長が現れた。


 いつになく真剣な表情の部長に、部署内には少し緊張が走る。


「蓮ノ谷ちゃん、青海君を借りてくね……細かい事情は電話するから」


 僕は部長に向かって了承の意を伝えると、動揺した表情の青海君に、部長についていくよう伝えたのだった。


※※※


 彼らがオフィスを出ていった少しあと。僕は別部署での用事のために席を立ったのだが。


 ……通りがかったエントランス付近で。鳥越部長と……青海君を、目撃してしまう。


 言い争い……とまではいかないようだけど、青海君がなにか部長に逆らうような仕草をしていて。


 鳥越さんは、そんな彼をたしなめているような雰囲気だった。


 思わず、柱の影に隠れてしまう僕。


 立ち聞きするつもりじゃなかった。


 でも。……たまたま、こんな部長の言葉が、耳に入ってしまって。


「それでも、君の祖父であることに間違いはないだろう。行ってやりなさい」


 青海君の、お祖父様……?


 すると青海君は、ハッとしたように動きを止め。部長に促されて外に出て行った。


 ……僕はなんとなく、そのまま立ち尽くしてしまっていたが。


「すみません、蓮ノ谷さん」


 そんな時、背後から声がかかった。営業部展示会担当の小森さんだった。


「青海君、今日早退ですかね? ……まいったな」


「どうしました?」


「明日からの展示会で流すサービス紹介の動画なんですけれど、一ヶ所、修正が出てきちゃいまして……」


 彼の話をよくよく聞くと。


 もしかして、青海君に教わったスキルでいけるんじゃ……って思ったので。


「あ、それなら僕のほうで修正できるんで、データ送ってもらえますか」


「そうですか! 助かります。じゃあ、よろしくお願いします!」


 そうして、青海君のことが心配な気持ちを修正作業に振り向けて、とにかく目の前のタスクをこなすことにした。


 小森さんから送られてきた修正用のデータをモニターに表示して、青海君に教わった通りに手を動かす。


 ……なんとか修正をある程度終えたところで、ふと考える。


 青海君との動画講座は、もうすぐ終わってしまうのだな、と。


 そもそも部長が講座を指示したのは、上司と部下として、いまいち交流が上手くいっていなかった僕たちを見兼ねてのことだったんだなと。……今はわかるし。


 青海君と僕が、互いに前よりは歩み寄れたのだから、その役割は終わったということなんだろう。


 ……ただ、僕は、青海君と二人の時間が、楽しかったなあって思っていて。


 ……寂しい、だなんて思ってしまって。情けない。


 先ほど立ち聞きしてしまった会話からすると。青海君のお祖父様に、何かあったみたいだし。彼はさぞかし不安な気持ちでいることだろう。


 上司なのに、僕は自分の私的な感情なんかに、囚われてしまっている。


※※※


 翌朝出社してきた青海君は、簡単に状況を話してくれて、頭を下げてきた。


「ありがとうございます。……ご迷惑をおかけいたしました」


「気にしないで。お祖父様が大事なくて、なによりだよ」


 ……昨日、青海君が鳥越部長に伴われてオフィスを出ていったあと。しばらくして部長から僕に電話があった。


 その電話にて。彼は青海君を連れ出した理由のことを話してくれた。


 青海君のお祖父様が、病院に緊急搬送されたということ。


 彼のお祖父様は、部長のお父様でもある人で。


 ……青海君は、部長の甥御さんだということ。


 青海君が幼い頃に、青海君のお父様……部長の実のお兄様……が亡くなって。


 その後青海君は、お母様に伴って鳥越の家を出たため、以来お祖父様とも会う機会があまりなかったそう。



 また、青海君は鳥越部長の口利き、いわば、コネ入社に近い形で入社したとのことで。


 ゆえに、彼と鳥越部長の関係は、知っている人は知っているけれど、外聞もあるから特に表沙汰にはしていなかったのだとか。


 ……そう、部長と青海君は、ただの、伯父と甥。


 ……仲の良さも、親族ゆえのこと。


 時計のことにしたって、伯父からの入学あるいは入社のお祝いでプレゼント……ならば、おかしいことは、ない。


 ……噂を聞いたからとはいえ。


 僕が勝手にいかがわしく勘ぐってしまっていただけだったんだな……。


※※※


そして、翌日。


「青海君が車を運転できるなんて、知らなかったよ」


福岡(こっち)は、中心部こそ交通の便がいいんですが、少し離れると途端に車が必要になりますから。……ただ、最近は運転していないので……」


 これは、青海君の運転する社用車にて、展示会会場に向かう途中の会話。


 営業部の出展ブースにて接客する係を、部内持ち回りで行うことになっているためだ。


 青海君は少しはにかみながら、お母様の車で練習してきたと教えてくれた。


「母が助手席に乗ってくれたんですが……かなりスパルタで……」


 微笑ましい話を聞きながら、青海君のお母様って、どんな方なんだろうと思いを馳せる。


 そうこうしているうちに会場に着いた。


 さっそく我が社のブースに向かい、担当引き継ぎの手続きを行う。


 ブースに設置されたモニターには、青海君作のサービス紹介動画がループ再生されている。


 青海君はそれをチラリと眺めると、僕に向き直って礼を述べた。


「主任が、この動画を直してくださったと聞きました。……ありがとうございます」


「いやあ、ちょっと素材を追加しただけだよ。青海君のおかげで、僕も少しは出来るようになったからね」


「……そう、ですか。……ならば、良かった、です」


 ……青海君の表情が、少し寂しげに見えてしまったのは……。


 僕が、寂しいと思っているから……なんだろう。きっと。



※※※


 それからしばらくブースにて接客をしていたのだけれど、今日は来客が案外少なくて。あっという間に手持ち無沙汰になってしまった。


 そんな時に、青海君が隣にいるから。


 ……日曜日のことを、どうしても考えてしまって。余計なことまで聞いてしまいそうになる。


 だから僕は、青海君にブースを任せて他社展示を見に行くことにした。


 どうせなら色々見てこようと、一社一社製品やサービス説明を受けつつフロアを歩き回っていたところ。


 ある区画で、聞き覚えのある声がして、ドキッとする。


 『ごはんつぶ』さんの声、じゃない? これ?


 まさか、ご本人と遭遇しちゃったり……しちゃう、かも?!


 このあたりで働く会社員なら、来ていてもおかしくない場所だし。


 いつになく真剣に目を凝らし、耳を澄ませて探し当てた『彼』の声の発信元は。


 ……とあるブースに設置された、ノートパソコンだった。


『……このように、激落ち!殺菌シートRXをお使いいただいた場合、従来の製品の百倍の効果が……』


側に『こちらのナレーションは合成音声「VOICE PACKS」によるものです』と書かれたポップがある。


合成音声……。


「こんにちは! こちら、無料でお使いいただけるプランもございますので、ぜひお試しくださいっ」


 ブースにいたウィンドブレーカーの女性が、声をかけてくる。


 僕は思わず、質問を投げかけてしまう。


「これ、合成音声……なんですか?」


「はいっ! 他にも女性アナウンサータイプなど、ご要望によりさまざまなボイスをご用意しております」


「あ、あの! この動画も、御社の製品を使っているんでしょうか?」


 ドキドキしながらYouTubeを開き、『ごはんつぶ』さんの動画の音声を聞いてもらう。


「はい、おそらく弊社の製品かと」


「……そうですか。ありがとうございます。僕、てっきり本物の男性の声だと思っていました。すごいですね」


「ありがとうございます。この動画は特に……かなり、丁寧に調整して使ってくださっていますね」


 『ごはんつぶ』さんの声は、合成音声……本当にいる誰かの声、じゃあなかったんだ。


 ……ならば。本当の『ごはんつぶ』さんって。


 どんな声で……どんな人、なんだろう。



続く


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第二十四話予告

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 青海航也です。


 蓮ノ谷主任と来ている展示会で、『ごはんつぶ』動画で使っている合成音声のブースを発見する俺。


 主任がこれを知ったかどうか気になってみたり。



 先日の祖父の見舞いの帰り。

 伯父でもある鳥越部長から、主任に関するとある提案を受けたことを思い出して悩ましい思いに苛まれたり。


 なかなか感情が忙しいところに加えてとある小さな事件が起こったりして……。


 次回、第二十四話「蓮ノ谷光彦と青海航也は、終わりが寂しい。(後編)」


 しゅ、主任、そんな、俺のそんなところに触れられたら、こ、困ります……!


 

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【作者からのお知らせ】


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!


この物語は週一回更新です。


次回二十四話は2023年4月15日(土)22:00を予定しています。

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