第二十二話 青海航也と蓮ノ谷光彦は、すれ違う。(後編)
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前回(第二十一話)のあらすじ
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青海航也です。
主任と過ごした週末の記憶に苛まれた寝不足の月曜日。
事故的なものだったが、至近距離で見つめ合うような体勢となってしまった主任と俺を、部署の先輩である村野さんに目撃されてしまう。
気まずさにいたたまれない気持ちでいる俺に、持ちかけられた女子大生との合コン話。
断ろうとする俺に向かって、村野さんから衝撃の発言が飛び出して来たのだった……!
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第二十二話 青海航也と蓮ノ谷光彦は、すれ違う。(後編)
【青海side】
「お前が来ないなら……主任に頼んでしまうが。いいんだな?」
なん……だと……?
主任を、女子大生だらけの合コンに、だと……?
主任が参加を了承するとも思えないが。
……部下にプライベートで誘われたことを喜んで、ろくに内容も考えずにうっかり首を縦に振りかねない。
それに……。
〜 青海の妄想 〜
『蓮ノ谷さん……俺、あの子狙いなんで、他の子お願いしていいっすか。村野は彼女と帰っちゃったし』
『うん、わかったよ』
(中略)
『蓮ノ谷さぁん、私、酔っちゃったみたい』
『大丈夫?』
『そこで少し、休んでいってもいいですか……?』
『えっ……そこで……?』
蓮ノ谷光彦の瞳に、ラブホテルのネオンサインが映る。
女子大生は、彼の腕に自分のそれを絡ませると、強引に入口へ引き込もうとする。
『ちょ、君、なにを……っ』
『ふふ……蓮ノ谷さん、あのホテル……すっごくいいんですよ……』
『なんで知ってるの……?』
〜 妄想終わり 〜
……俺の経験値の低さゆえの貧困な想像なのは認める。
だが、女子大生が、総務の女性社員……アイカだったマホだったか、あんな感じの肉食系だったならば。
こんな状況にならないと誰が断言できるというのか。
実際に、パフェ屋で主任はセクハラされてることだし……。
「村野ちょお! まさか主任誘うわけ? あの人一人勝ちになんじゃん!」
動揺する田之上さんをなだめながら、俺に決断を迫るように見てくる村野さん。
しかし、その気もないのに合コンに行って良いものか。
人数合わせ、田之上さんの引き立て役であることは間違いないし、別にそういう扱いであっても構わないが……。
「……考えさせてください」
「返事は明日まで待ってやるからな」
「うっ……」
村野さんが、まだなにか言いたげな田之上さんを引っぱって去ったのち。
「女子大生、いいね! 青春! がんばって」
「ウワーッ」
今度は、曲がり角の影から這い寄る鳥越に遭遇してしまう俺だった。
そして、折悪しく……。
「部長、日曜十八時からの『鰻すみだ』ですけれど」
蓮ノ谷さんの、部長を呼ぶ声もして来て……。
「なあに、蓮ノ谷ちゃん」
部長が角の向こうに身体を向け、主任と話をし始める。
主任からは俺がちょうど見えにくい位置にいるため、こちらに気づいていない。
しかし、立ち去ることもしにくくて。
……会話が耳に入ってきてしまう。
……主任と部長の飲み会も、日曜十八時から、なのか。
しかも……鰻。
『今度、蓮ノ谷ちゃんと二人でしっぽり飲むんだけどさ』
鰻で、しっぽり、飲む……。
な、なんだか……いかがわしい響きのような気が、する……。
そんな風に情けなく立ち尽くす俺の耳に、次の瞬間、聞き捨てならない発言が飛び込んできた。
「蓮ノ谷ちゃん、青海君はその日、合コンなんだって! 女子大生と。うっらやましいねぇ!……さっき部署の子と何やら作戦会議してたみたいだよ?」
「……えっ……青海君……ですか……?」
「!ちょ、な、ち、違っ」
思わず部長と主任の間に割り込んでしまう。
「あ、青海君?! いたの?!」
「あ、う、っす……」
目を丸くする主任に、やってしまったと冷や汗が出る気持ちになった直後、今朝のことを想起して気まずさもぶり返してきた。
主任のほうも同じように思い出したのか、少し俺から目をそらした。
「ん? 蓮ノ谷ちゃんにはナイショだったかな?」
部長がニヤニヤと余計な口を挟んできやがるが。
主任の手前、それとなく奴を睨むことしかできない俺に、追い討ちがかけられてくる。……当の主任から。
「……えっと、青海君」
主任は背筋を伸ばし、俺の上司としての顔を作って、こう言ってきた。
「合コンはいいけど、羽目、外しすぎたらダメだよ。女の子は、がっついたりすると引いちゃうものだからね。その日すぐにどうにかしようとか、NGだからね」
……主任の反応は、予想していたような、冷たい視線でも笑顔でもなく……。
なんか妙に素な感じで、まさかアドバイスまでされてしまうことになるとは。
やばい……一番凹むパターン……かも……。
更に主任は、微笑んでこう付け加えた。
「僕もその日部長と飲むんだ。お互い、楽しんでこようね」
……少し声が硬いと感じたのは、きっと俺の願望だろう。
俺たちのやりとりをニヤつきながら見ていた鳥越部長が、タイミングを見計らったかのように主任の背に手を回す。
「蓮ノ谷ちゃん、福岡の鰻は初めてだっけ? 福岡ではね、関東とも関西とも違う食べ方がポピュラーでね」
話を振られた主任は俺に一瞬視線を寄越したが、すぐに部長のほうを向き、笑顔で応えた。
「そうなんですか! 楽しみです」
そうして、そのまま鳥越に肩を抱かれながら去っていった。
……残された俺は。
先ほどのやりとりで、すでに敗北感や喪失感に塗れまくっていたためか。
却って冷静になっており。スマホを取り出して、Googleマップのアプリを立ち上げた。
検索する文字列は『鰻すみだ』。
高台にある高級住宅街の中に店を構える老舗の鰻屋、立地は合コン会場の『ボトム』のある大名地区にほど近い、ということを確認する。
なにかあれば駆けつけられる距離。……なにかあって欲しくはないが。
そしてオフィスに戻り、村野さんたちに合コンへの正式参加を伝えたのだった。
※※※
【蓮ノ谷side】
「はぁ……」
夜、ハマヤ食堂の焼き鯖定食をつついては、ため息をつく僕。
青海君……合コンとか行くんだ……。
しかも女子大生……。
部長は、青海君が部署の子と作戦会議していた……とか言っていた。
ということは、村野君や田之上君と一緒に行く、ってことだよね。
彼らと青海君が、そこまで仲良くなっていたことは……すごく、嬉しい、けど……。
それに、僕ってば。青海君に、なんかアドバイスみたいなことしちゃったりして。
余計なお世話……だよね。
でも、だって、青海君は。
その、たぶんあんまり女の人慣れしてないと思うし。
勢いで、なんか過ちを犯してしまったら、ダメだと思うし。
……学校の先生か、僕は。
いや、直属の上司は監督責任が、ある……ううん、そこまでは、ないよね……。
青海君、あのジャケット着ていくのかな。お祖父様から譲られたというジャケット。
あ、あれは、品はすごくいいけど、デザインがちょーっと、流行りじゃないし、若い女の子にはウケないかもしれない。
僕は……かっこいいって思うけど。
青海君、カノジョとか、欲しいのか、やっぱ。
青海君のあの優しい目を思い出す。
あの目を、どこかの女の子に向けることになるのかな。
いや、その思考はおかしいな。僕は、青海君にとって、ただの上司なんだし。
僕に向けた目は……恋愛対象へ向けるものとは……違うでしょ。
堂々巡りの思考を振り切るように視線を上げると、食堂内に設置されたテレビで、ニュース番組が流れていた。
二十代の結婚に関する意識調査に対して、コメンテーターが何やら発言しているようだった。
結婚……。
青海君がもし合コンで、気が合う子と出会って。そのままトントンと上手くいって。
もしも、僕を結婚式に呼んでくれたら。
スピーチしないと……だよね。直属の上司なんだし。
『青海君をよろしくお願いします。不器用な男ですが、奥様の愛情でぜひ、支えてやってください』
みたいな……。
最近の結婚年齢傾向からすると若いかもしれないけれど、若すぎるわけじゃない。
……上司として、しっかり彼を育てなくちゃと、気を引き締める。
せめていつか、青海君が僕の元を離れる時まで。
そんなふうな、取止めもない未来の想像……に関して。
なぜか、寂しい、なんて言葉が浮かんできたことに。密かに、驚いた。
続く
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第二十三話予告
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蓮ノ谷光彦です。
突然、企画広報室に鳥越部長が訪れ、青海君を連れて行ってしまった。
そこで発覚する、部長と青海君の関係。
そんな中始まった展示会で、僕はさらに驚くべき事実を知ることになり……。
次回、第二十三話「蓮ノ谷光彦と青海航也は、終わりが寂しい。(前編)」
えっ、なんか近くで『ごはんつぶ』さんの声が……聞こえるんだけど?!
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【作者からのお知らせ】
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!
この物語は週一回更新です。
次回二十三話は2023年4月8日(土)22:00を予定しています。




