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第二十一話 青海航也と蓮ノ谷光彦は、すれ違う。(前編)

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前回(第二十話)のあらすじ


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 蓮ノ谷光彦です。


 青海君とランチしたかったがために休日に誘った僕だったけれど。


 食事の後、彼の行きつけのテーラーに連れて行ってもらったり。


 僕の新しいファブリックミスト探しに付き合ってもらったり。


 公園の藤棚では、写真撮ってくれたりして。


 そんな風に彼と過ごした時間に、なんだかふわふわした変な気分になってしまうのだった……。



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第二十一話 青海航也と蓮ノ谷光彦は、すれ違う。(前編)



【青海side】



 本日は、かなり早い時間に出社することにした。


 なぜなら一昨日の土曜日。


 ……蓮ノ谷主任と過ごすことになった休日にて。


 『大丈夫だよ、青海君の使ってるやつでしょ? 爽やかで海みたいな香り。僕、好きな匂いだから』


 ……まさか彼が、俺と同じファブリックミストを購入していくなんて。


 そしてその後も。


 今思い出しても、なんでそんなことをしたのか自分に問いただしたい行為。


 公園の藤棚で、猫を抱き上げる主任のことを。気がついたらスマホで写真に撮っていて。


 あまつさえ、思わず口をついてしまった言葉がまずかった。


『可愛いって思って』


 ……男性の、しかも年上の上司に向かっての発言としては、あまりにも失礼な言葉。


 ……いや、違う。

 俺は自分でも言い訳していたじゃないか。猫のことだと。


 そう、猫のことを言ったんだ俺は。うん。

 ……そうだったはず。


 ──そんな風に、翌日の日曜日は一日中、土曜日の主任との記憶に苛まれてしまい。夜も満足に眠れず。


 ならば開き直ってこのまま出社してしまおう、あまり人のいないであろうオフィスにて、

主任が来るまでに心を落ち着けよう……としたのだが。


「あ、お、おは、よう!」


「お、おはよう、ござ、います……」


 主任は本日すでに、デスクについていたのだった……。


 企画広報室のあるオフィスは、営業部の他の部署とも共用なのだが、他の社員はまだ誰もおらず。


 ……つまり。


 主任と、二人きり……。


 どうしよう……かなり気まずい。


 その気まずさを振り切る目的もあり、例の主任の食事動画と休日の猫写真の送付を彼に持ちかける。


 データを主任に送ると、早速自分のパソコンで確認してくれた彼だったが。


「あれ、データ壊れてる?」


 急いで主任の側に行き、彼のモニターを覗く。


「すみません、重すぎましたか」


 途端にふわっと匂いを感じる。

 ……海の、香り……。


 思わず主任の方を見てしまうと、彼は急激に真っ赤になり。


 ガラガラッと自分のチェアのキャスターを駆使し、俺から距離を取った。


「あ、あ、だって、その、つい、試しに、その、青海君と同じだって、よく、考えて、なくて」


「すみません、俺こそ、不用意に勧めたりして。……やっぱり、主任がいやなら、俺は別のやつ、使いますし」


 すると主任はさっと顔色を変え、俺の腕にしがみついてきたのだ。


「え、いやだ、青海君のがいいって、僕が頼んだんだから」


「!」


 まともに主任と目が合ってしまう。そして、顔が、近い……。


「その、好き……だから……」


 吐息混じりの低音で。

 囁くようにこう告げてくる彼。


「……」


 主任の瞳の色が少し薄めなのを、久しぶりに視認する。


「えっと……匂い、が……その……だから、大丈夫、だから……」


「……ハイ……」


 そして、海の香りが、漂ってくる……。


「……」


「……」


 そのまま互いに動けずに、結果的に見つめ合うような形になってしまっていたところ……。


「ぅおはようございます!」


「!」


「わ、わあっ! 村野君?!」


 直立不動で挨拶する村野さんがオフィス入口にいることに気がつき、パッと離れる主任と俺。


 直後に、同じ部屋の面々が次々と入室してきて。


 俺たちは、ぎこちなくも通常業務を開始したのだった。



※※※


 昼休み開始と同時に、逃げるようにオフィスを出た。


 やはり朝のこともあり、業務時間中はなんとか耐えたが……主任と顔を合わせづらいということがあって。


 講座は展示会終了まで延期になったので、彼と昼を共にする必然性も……ないわけだし。


 あと……今朝の主任と俺のありさまを、村野さんに見られてしまったような気がするし……。


 自意識過剰なのはわかっているけれど。


 とりあえず、ファーストフードで簡単に昼メシを済ませてから。

 オフィスのあるテナントビル付近にあるベンチにて、昼休み終わりまで時間をつぶそうとスマホを取り出したところで。


「あ、青海、青海! ここにいたか!」


 田之上さんに突然声をかけられて、必要以上に反応してしまった。


「う、うわぁっ! な、なんすか」


「ふふーん、とりあえず顔貸せ、な?」


※※※


 オフィスのある階の、人通りのあまりないエリアまで連行されて。

 田之上さんと……そこで合流してきた村野さんに囲まれる俺。


 うう……気まずい……。


「合コン日時と場所、決まったからな! 今週の日曜十八時、大名の『ボトム』!」


 俺の気も知らずに、妙に機嫌のいい田之上さんが言い放った。


「は……」


「適度に着飾ってこいよ! あ、じょしだいせえ、ばかりだから。TPO的なものも、よきに計らえよ」


 ご、合コン……。しかも女子大生と……。

 

 まだ生きていたのか、あの計画……。


 以前、総務の女性社員たちに主任がランチに連れて行かれた日。


 その女性の一人が、田之上さんの気になる人で。

 しかも主任をランチに誘いたがっていた首班だと知った。


 大変凹んだ田之上さんは、村野さんに現役女子大生の彼女が出来たことを理由に、彼女の友人との合コン計画を推進しようとしていたのだが。


 当時村野さんは適当にあしらっていたし、計画自体無くなったと思っていたのに。


「ちょ、俺は、参加するとはひとことも」


 女子大生との合コンなどまったく行く気がない俺は、ささやかながらも抵抗を試みる。


 ……主任に知られたら、どんな顔をされることか。


『……へー、そう、女子大生と、合コン……行くの……へー……』(氷点下の視線)


『いいね、女子大生! いってらっしゃい! がんばってね!』(全開の笑顔)


 ……どっちでもなんか凹むな……。


 ……いや、なんで主任の反応を気にしているんだ、俺は。


「はぁー?」


 予想通りの反応を返してくる田之上さんだったが、村野さんが彼の肩を叩いて下がらせる。


 そうして、俺ににこやかに呼びかけてきた。


「なぁ、青海よ」


 村野さんは俺より少し背が低いが、がっしりした体型でスポーツ刈りの彼とは、対峙すると威圧感がある。


「な、なんすか」


「お前が来ないなら……主任に頼んでしまうが。いいんだな?」




続く


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第二十二話予告


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 青海航也です。


 なん……だと……?

 主任を女子大生だらけの合コンに参加させる、だと……?


 俺の主任を、肉食獣の群れに放りこむかのごとき蛮行、決して許すわけにはいかない!


 しかしそんな俺をあざ笑うかのように、裏では着実に、部長の計画が進行していたのだった……。


 次回、第二十二話「青海航也と蓮ノ谷光彦は、すれ違う。(後編)」


 主任、鰻の旬は秋冬です……。


 

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【作者からのお知らせ】


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!


この物語は週一回更新です。


次回二十ニ話は2023年4月1日(土)22:00を予定しています。

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