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第十九話 蓮ノ谷光彦、青海航也とはじめての休日。(前編)

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前回(第十八話)のあらすじ


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 青海航也です。


 ゴールデンウィーク初日に蓮ノ谷主任と偶然遭遇した時の記憶に、情緒を乱されたままその後の休暇を浪費した自分だったが。


 近い将来、彼が俺の元を去ってしまうまでの間。

 俺にできることを、彼にしてあげたい。


 ……結論として、そんな風にいささか後ろ向きに殊勝な決意を密かにすることになる。


 しかし休み明けの出社日に。

 動画講座がそろそろ最終回であると告げた俺に対して、なぜか蓮ノ谷さんは、レストランのクーポンを差し出して来て。


 次の土曜日、食事に誘ってきたのだった。



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第十九話 蓮ノ谷光彦、青海航也とはじめての休日。(前編)



【蓮ノ谷side】



 ゴールデンウィーク明け、最初の土曜日。


 僕は部下の青海君と、先日ID交換したばかりのLINEでやり取りして待ち合わせた。


 待ち合わせ場所に現れた青海君は、ゴールデンウィーク初日に偶然遭遇したときと同じ、お祖父様のジャケットを羽織っていた。


 それを指摘すると青海君は、なぜか少しためらいながらだったが、こう言った。


「仕事用以外で、主任と出かけられるようなマトモなのを持ってなくて」


 仕事用以外で。


 そうだ、今日は休日、仕事の用事ではなくプライベート。


 プライベートで約束して青海君と出かけるのは、初めてのことだ。


 改めて冷静に考えたら、休日のランチに男性上司と一緒なんてかわいそうじゃないかって思ったりもしたんだけど。


『主任……えっと、蓮ノ谷、さんと出かけるのは、いやじゃない、です』


 青海君がそんな風に言ってくれたから、まあいいかなって気にはなっている。


 ……会話の流れ上、そう言うしかなかったとも取れるけどね……。


 ……なんで少しがっかりしてるの、僕?


 ……えっと、そもそも僕は青海君が苦手で。


 直属の部下であるにも関わらず、大してコミュニケーションを取らない時期をいたずらに過ごしてしまっていて。


 そんな関係性の僕らが、いやじゃない……まで来られたのなら、めでたしめでたし、目標達成じゃない。


 気を取り直して、目的地に青海君を案内する。


 行き先は、ブランド牛の産地が直接運営している焼肉屋さん。


 晶城寺さんが、先日のお詫びにと僕にくれたお食事券が使える店だ。


 あの日、総務の女性たちが乱入して来たのは晶城寺さんのせいでは全くないし、むしろ色々な情報が得られたし……お詫びされるようなことは何もなかったのだけれど。


 今回に限っては、ありがたくいただいておいた。


 なぜかというと、展示会までは何かと忙しそうだし、動画講座があと一回くらいになってしまったし。


 ……青海君をランチに誘いにくくなってしまうなあと考えていて。


 思わず、これなら青海君とご飯食べに行く理由になるぞって思っちゃったから。


 席に案内され、食事券利用だと伝えて注文する。自腹だったら少しためらってしまうような、希少部位のお肉も含まれるリッチなコース。


「え、すごっ、口の中で溶けた!」


「ですね、美味い……」


 焼いた肉にいちいち感動を覚える僕ら。


「はぁ……晶城寺さんには、感謝しかないよ……。総務の子たちの猛攻に耐えた甲斐があった。怪我の功名ってやつだなぁ」


 あまりに美味しかったので、つい青海君の前で、ポロッと食事券をいただいた経緯を漏らしてしまったら。


「総務の……何かあったんですか?」


 青海君の目が急に鋭くなって、すかさず質問をしてきたのだ。


 うう…… 管理職の癖に、年下女性社員をうまくあしらえない情けないありさまを、部下に話す羽目になってしまうとは。


「最初は、晶城寺さんにパフェ付き合ってもらっていただけだったんだけどね。……なぜか途中から、総務の女性たちが僕らのテーブルに乱入してきて……。……すごい接近してきて……香水がちょーっと辛かったかなあ……。LINE交換とかも流れでしてくるし、ぐいぐい来るよねえ若い子は……。外から見たら、僕がセクハラしてるみたいな光景だったと思うよ、あ、あはは……」


「……」


 気がつくと、いつのまにか青海君は、うつろな目で肉を見つめていて……。


「青海君、焦げてるよ?」


「あ、やべ、すみません」


 ……この反応。


 ……青海君、総務の女性たちのうちで、好きな人がいたりする……のかな……?


 田之上君が、総務に気になる女性がいるらしいとは聞いたけど、それはあくまでも、青海君が言っていたことだ。


 ……もしかして、田之上君が、という話はフェイクで。


 ……青海君自身のことを言っていた……とか?!


 ……だとしたら、青海君、ああいう女を武器にしてますみたいな人、好み……なのかな。

 なんかショックなんだけど……。


 あ、心なしか刺々しい表現になってるな……。


 僕は醜い……上司のくせに……。


「主任、焦げてます」


「ああっ! 希少部位があっ」


 さよなら僕の希少部位……。


 情けなさとのダブルパンチで、余計に凹む……。


「俺のをあげますから」


 すかさず青海君が、自分の肉を僕側の鉄板に置いてくれる。


 優しい……。


 でもその優しさは、そのうち総務の女性たちみたいな、かわいい女の子に向けられるんだろうなあなどと考えてしまう。


「う……ありがとう、青海君……」


 泣き笑いみたいな表情になってるような自覚がある。


 ふと気がつくと、青海君が妙に真剣な表情になっていて。


「青海君?」


 僕が声をかけると、彼は一瞬ためらうような素振りをみせ、しかし決意を固めたように口を開いた。


「その……もし、今後、主任がパフェ……とかケーキ……とか行きたいなら、俺、大丈夫ですから、その、主任が、良ければ」


「え、ホントに?」


 一気に気を良くしてしまう僕。


 ま、気を遣ってくれたのかもしれないけど。


 しかし、そんなことを言ってしまっていいのかい? 悪い上司は利用してしまうのだぞ?


「じゃあ、『パティシエ太郎』さんの店に行きたいな!」


 パティシエ太郎さんは、お菓子作りのYouTubeチャンネル運営者。


 青海君との動画講座の際に見つけて以来、彼の動画も新作を毎回楽しみにしている。


 後日、博多駅付近にケーキ屋、しかもカフェ併設の店舗を構えていることを突き止めたのだった。


「かわいい系じゃなくて、シックな雰囲気のお店だからさ、男性でも入りやすいと思うよ」


 お店のInstagramを青海君に見せてプレゼンする僕。


「っす……」


 幾分引き気味の青海君に気づき、ああっ、また彼をナチュラルに誘ってしまった……っ! と焦る。


 いや、待てよ。お昼は業務時間の一環として、色々人脈形成に使うと決めたけれど。


 ……プライベートなら、たまには誘ってもいいよね?


 以前はプライベートな時間に青海君を誘うことをためらっていた僕だが。


 今思えば東京本社時代の上司の皆さんも、何かにつけて僕を食事とかお茶に誘ってくれていて。

 そんな時に、気兼ねなく相談などさせてもらっていたっけ。


 部長と今度飲むのだって、そういうことの一環だし。


 よし、青海君とご飯食べるための活路が見えてきたぞ。


 職権濫用、パワハラという単語が頭を巡るけれど。もちろん、そのあたりは気をつけるよ、うん。


※※※


 食事を済ませて、クーポンでのお会計をしているときに、はたと、この後ノープランであることに気づいた。


 もちろん、青海君とご飯行きたいという理由で誘ったのだから、これで解散してもいいのかもしれないけれど。


 ……でも、もし。青海君さえ良ければ。


 もう少し、一緒にいたいなあ……って、僕は思っている。


 そうだ、早速、パティシエ太郎さんの店に行ってしまう、とか?


 でも、ここから博多駅まで移動させるのは、さすがにちょっと気がひけるな……。


 ……さっき思いついた、業務内容のヒアリング、という名目を今こそ使ってしまうべきでは?


 ほら、前に鳥越部長に報告した時、青海君自身の感想のヒアリングはまだだと回答したし。


 動画講座も残りわずか、青海君的に得るものはあった? みたいな! 上司っぽい!


 ならば、なんかよさげな喫茶店を見繕って……。


「主任」


 いつのまにか、すごく近くに青海君がいることに気づいてビクッとしてしまう僕。


「ひゃ、ひゃい?!」


 青海君は少しためらいながら、こう、提案してきた。


「……もし、このあと時間あれば」


 ドキッとした。


 青海君も、もう少し僕と一緒にいてもいいと考えてくれているのかな……?


「う、うん、大丈夫だよ」


「主任を連れて行きたい場所が、あるんですが」



【続く】


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第二十話予告


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 蓮ノ谷光彦です。


 青海君が連れて来てくれた場所は、彼のお祖父様由来のとある場所だった。


 嬉しくなった僕は、テンションが上がってしまい。


 あ、青海君とお揃いのアレ、買っちゃおうかな! なんて、はしゃいでしまうのだった。

 

 次回、第二十話「蓮ノ谷光彦、青海航也とはじめての休日。(後編)」


 か、可愛いとか、え、誰のこと……言ってるの……?


 

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【作者からのお知らせ】


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!


この物語は週一回更新です。


次回二十話は2023年3月18日(土)22:00を予定しています。

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