第十七話 蓮ノ谷光彦と青海航也、一緒に山に降りる。 (後編)
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
前回(第十六話)のあらすじ
+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-
蓮ノ谷光彦です。
ゴールデンウィーク前に目撃した、部長の助手席にいる青海君。
何故か感じてしまうモヤモヤした気持ちを振り払うために……突然ランニングを始めてしまう僕。
しかし慣れない行動の結果、偶然遭遇した青海君の前で倒れてしまい……。
あまつさえ、彼に介抱されている時に腹の虫が騒ぎだしてしまい……。
青海君は、そんな僕をごはんに誘ってくれるのだった……。
+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-
第十七話 蓮ノ谷光彦と青海航也、一緒に山に降りる。 (後編)
【蓮ノ谷side】
通し営業をしているチェーンのうどん屋にて、向かい合って座る僕と青海君。
僕の注文は、冷やしぶっかけとかしわおにぎり。モツ鍋も後から来る。
だけど、青海君の方は……。
「青海君、それだけでいいの?」
普通サイズのごぼう天うどんだけでは、青海君くらいの年の男の子は量が足りないんじゃないかと心配して声をかけたところ。
「昼、割と食ったんで大丈夫っす」
「えっ……そ、そう」
そして、今更ながらに気づいたことがある。
青海君、なんか今日、おしゃれしてる……?
アクセス山では脱いでいたらしいジャケットを、今は羽織っている。
すごく品が良い……確か、ツイード……って名前の布地のジャケットだ。
肘に継ぎみたいな色の違う布が当たってるデザインで、服とかあまり詳しくない僕にもわかる、仕立ての良さも見て取れる。
ジャケットの下に着ているきれいな水色のシャツもピシッとしていて。
……そんな格好しているなんて、やっぱり、その用事って、デート……的な……?
でもデートだったら昼過ぎで解散とかって、なんか淡白すぎないかな……。
ま、まさか振られて……っ?!
『割と食った』のもやけ食い、とかっ?!
その後、山の上でたそがれていた……とかっ?!
色々と聞きたいけれど、何から聞いたらいいのか、そもそも聞いていいことなのかをぐるぐる考えている僕の様子を見て、青海君の方から話してくれた。
「……母と、母の婚約者とメシ食ってました」
……お母様と、その婚約者……つまり、再婚相手の方とのランチ。
その事実が判明し、なぜか僕は。
ホッとしたような気持ちになってしまい、つい。
「そうだったんだ。……今日の青海君さ、すっごくかっこいいからさ」
「……!」
「僕てっきり、デート的なものかと思っちゃったよ」
思わず軽口めいた雰囲気でそんなことを言ってしまう。
すると、青海君は少し表情を固くした。
「あ、ごめん、その、プライベートなことを聞くつもりは」
「……そんな、相手は……」
そんな、相手は……?
聞きたいような、聞きたくないような。
「……でも、良かったです。主任が倒れたところに居合わせられて」
はぐらかされた……?
「良くは、ないか。……すみません」
「ううん、青海君がいてくれて助かったよ。ありがとう」
「……っす」
何となく話の方向性を変えたくて、別の話題を持ち出してみる。
「そういえばさ、青海君のそのジャケット、オーダーメイドだよね?」
「はい、元は祖父が馴染みのテーラーで作ったもので。俺が譲ってもらった時に、同じところでサイズ直ししたんです」
「そうなんだ! 僕もいつかは、スーツのオーダーやってみたいって思ってたんだよね。実は僕、左右の腕の長さ割りと違くて。そういう体型だとオプション料金とか結構かかったりするのかなぁ……」
「……今度、また行く用事あるんで、その時に聞いてみます」
「え、ありがとう!」
「おまたせしましたー」
僕の注文したモツ鍋が、ポータブルコンロと共にやってくる。
コンロに火をつけ、煮立つまでしばし待つ。
このチェーン店は、福岡の名物でもあるモツ鍋が激安で味わえることでも有名なので、来る機会があるたびに頼んでいるのだ。
そんなモツ鍋の世話をしながら、先ほど途中になっていた話題……。
青海君が、デートするような相手のことに、つい、意識が向いてしまう。
彼女はいないとしても、部長……とは、そういう関係じゃないのかな。
『パパってぇ、パパ活のことですよぉ! お金援助してもらう代わりにカラダを……みたいな?』
でも、よく考えたら、そういう活動……ってやつは夜に会ったりするもの……かも……。
部長の車。あの黒の派手なスポーツカーで。ら、ラブホの駐車場に入って行く二人……。
……うーん……だめだ、想像力の限界。というか、想像なんかしちゃだめだよね……。上司と部下がパパ活してるとか……。
モツ鍋が煮えたので青海君にも取り分けてあげると、恐縮しながらも受け取ってくれた。
その時に青海君の袖口が下がり、彼の時計がチラリと見えた。
……修理に出していた大切な時計って、これなのかな。
……部長の言っていた時計も、やっぱ、この時計なのかな。
聞いてみたいけど、何となく気後れする。
それはそうと、あれ? どこかで見たな、こんな雰囲気の時計とツイード生地の組み合わせ。
どこでだったかな……?
※※※
うどん屋を出てから。僕は青海君と電車に乗った。
それぞれの自宅へ帰るためだが、最寄りは二人とも大濠公園駅だからだ。
その際に、自然と互いの通勤方法に関する話題になった。
青海君は自転車通勤なのだけれど、自分の自転車を持たず、地域のレンタルサイクルを使っているらしい。
「アパートの自転車置き場が満杯なんで。絶対住人じゃないだろうって自転車もあるんですが」
僕らの会社のある地域は、レンタルサイクルのシステムが整っているため、青海君みたいな使い方をする人も割といるとの話だった。
「へぇ……。僕の家あたりでも、使えるのかな」
青海君が、彼のスマホでレンタルサイクルアプリの地図画面を開いてくれたので、僕の住所を口頭で伝える。
「僕のアパートは、ここ」
「……えっと、そこなら、ポートはここが近い……ですね」
「知らなかったなぁ……登録、してみようかな」
「主任、自転車乗れるんですか」
「え? 乗れるよ? どうして?」
自分で質問してきたくせに、青海君はなぜか少ししまった、というような顔をした。
「……公園の向こうに、美味いカレー屋があって。バスより自転車あった方が行きやすいんで」
「え、そうなの? 明日、行こう、ランチ!」
勢いこんで青海君に提案してから。
戸惑う顔の彼を見て気づく。
「……あ、明日も休み、か」
「……っす」
「じゃあさ、ゴールデンウィーク明けまでに、アプリ登録しておくから。そしたら行こうね」
「…………っす」
それから、会話はなんとなく途絶えて。
次の駅で乗った人々で少し電車内が混んできたので、青海君に少し近い位置に移動する。
その時、ふと、彼に聞きたかったことを思い出した。
「青海君てさ、香水とかつけてるの? コロンの類いでも」
「いえ……」
「そう? なんか……その、介抱してくれてる時、海っぽい? 香りがしたから」
「海の……あ、もしかしてファブリックミスト……かも」
「え?ふぁぶりっくみすと? ってナニ?」
「スーツの消臭スプレーの香り付け寄りのタイプ……っつうか。あれ、主任も使ってませんでしたか」
「あー、布の臭い消しのやつかぁ。僕のは、いただきものなんだ。福岡転勤決まった時にお祝いで、同期の奴にもらったのをそのまま使い続けてるんだけど」
「……そうっすか」
そういえばその臭い消し……ふぁぶりっくみすと、か。もうすぐ無くなるんだよな。
こっちでも同じのあるかなぁ。
そもそも、ふぁぶりっくみすと、って、どこで売ってるんだろ。ドラッグストアとかかな?
「青海君は、その、ふぁぶりっくみすと、どこで買ってるの?」
「天神にある、あの……生活雑貨ショップの……メンズコスメとかある階です」
「え、コスメ? 化粧品? そういうとこ行く人なの青海君て?」
「いや、その、臭い対策系ってそっちにまとまってるんで」
「あ、ああ、そうなんだ。知らなかった……。青海君てさ、わりとそっち系の用語とか詳しいよね。ファッション関係とかも」
「詳しいってほどじゃないですけど……。母がアパレル関係の仕事で、男も色々気をつけろってなんだかんだと教えられたんで……」
そんなことを話しているうちに、最寄り駅である大濠公園駅に電車は着き。
僕と青海君は、それぞれの帰路をたどった。
※※※
帰宅して、お風呂のお湯を入れる間、つらつらと考える。
ゴールデンウィークかぁ。
……あと何日、青海君とランチ行けないんだろう。
『ごはんつぶ』さん動画で紹介していた店で、まだ行っていないとこも。
どうせなら青海君と行きたい。
そんな時、LINEの着信通知が来たので確認すると、総務の小坂部さんからだった。
ゴールデンウィークにどこか行きませんか……ってお誘いだ。
丁重にお断りの返信を打ち込む。
そして、青海君も多分使っているであろうLINEについて考える。
うちの会社は業務にLINEは使ってないから、僕は彼のIDを、もちろん知らない。
一応上司だから、携帯番号くらいは青海君含めて部下の皆のものは把握してるけど、それもあくまで業務用だし。
……もし、僕が青海君のIDを知っていたら。
ゴールデンウィーク中でも、一回くらいランチ誘っても良かったのかな。
でも、上司が休みに誘うとか断りにくいだろうし。パワハラみたいになっちゃうよね。
もっとも、これからは。
青海君以外の会社の人たち……企画広報室の村野君と田之上君や、鳥越部長を始めとした営業部の皆さん、その他の管理職の方々とか。
意識的に関わっていかなくちゃ、とは思っている。
同期の鈴本は、さまざまな人々と、どんどん交流を広げていっていたように記憶しているし。
僕も見習わなきゃ。主任、なんだから。
……でも。せめて動画講座の間くらいは。
青海君と二人で、ランチ行ってもいいよね。
元々、苦手なタイプであった青海君を克服する目的で、努めて彼をランチに誘っていたのだけれど。
今は、素直に、青海君とご飯食べたいなって、思うから。
【続く】
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
第十八話予告
+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-
蓮ノ谷光彦です。
青海君はなんだか色々悩んでるみたいだけど。
僕は僕で、総務の晶城寺さんから、とあるものを受け取っていた。
え? それも青海君の悩みの種だって? なんでだろ?
次回、第十八話「青海航也、蓮ノ谷光彦とはじめての交換。」
……で、あの、さ……今度の土曜日。青海君は、予定どうかな?
+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-:+:+:-:+:-
【作者からのお知らせ】
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!
この物語は週一回更新です。
次回十八話は2023年3月4日(土)22:00を予定しています。




