第十四話 蓮ノ谷光彦、青海航也にナイショのオヤツ。
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前回(第十三話)のあらすじ
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青海航也です。
アリバイ作りのため(?)、主任に内緒で『ごはんつぶ』動画撮影を敢行した俺。
しかし、折り悪しく部長に見つかった上に、奴と主任が二人で飲む予定を知ってしまったり。
主任が晶城寺さんと二人でパフェ食べてる現場を目撃してしまったり。
……複雑な思いに苛まれてしまうのだった。
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第十四話 蓮ノ谷光彦、青海航也にナイショのオヤツ。
【蓮ノ谷side】
「鳥越部長と青海さんですね」
僕たちのいるカフェのテラスから、歩道と車道を挟んで向こう側。道路脇に停まっている黒のスポーツカーが見える。
車内には、晶城寺さんが指摘したように。
運転席に鳥越部長らしき人影と……助手席に、青海君。
あれは、部長の車だ、確か。
業務時間に社用車を使わないなんて珍しい。
ふと、青海君もこちらを見てることに気づいた途端、車が発進して行ってしまった。
「……」
青海君の言っていた用事って……部長との用事……だったのかな。
……部長とどっか行くなら、ひとこと言ってくれればいいのに。
モヤモヤイライラと、嫌な感情が湧いてきてしまう。
何だろう、この感情。
業務関係だったら、直属の上司である僕が何も知らされていないことに対してのモヤモヤなのか?
でも、業務じゃないかもしれないし。
プライベートだったら……もちろん僕には関係ない……ことだけど。
そりゃ、お昼休みはプライベートだけどさ。そもそも、プライベートだとしても、部長と車で出かけるとか、どういうことなの。
僕にはまだまだ言葉少なで、距離がある感じなのに。部長とは妙に仲良しだよね、君。
「部長ご自身のお車の理由は確かお客様で車好きな方がいらした時あえて社用車じゃなく自家用車でと指定されることがあると聞きましたが」
ふと気づけば、心配そうにこちらを見てくる晶城寺さん。
「青海さんが同乗されていた理由は存じ上げませんが何か事情がおありかと」
気遣ってくれた彼女に対するお礼の意味も込め、ニコリと笑顔を作る。
「ありがとう。……あ、アイスが溶け出しちゃってるね。食べちゃおうか」
「……はい」
黙々とパフェをやっつけながら、また色々考えてしまう。
そういえば、青海君にこっちの様子も見られたような気がするな。
お相手のいる晶城寺さんと、とはいえ。
女性と、しかも二人きりでカフェにいる状態を。
なぜか後ろめたい気分になりかけ、脳内で言い訳する。
僕が彼女とパフェ食べてるのは、あくまで、偶然だったんだから……。
〜回想・30分前〜
今日のランチは、青海君も用事があると言っていたし、ミーティングも他の約束もないし、一人で簡単に済ませることにした。
前から気になっていたサンドイッチ屋さんでテイクアウトし、大濠公園の池沿いにあった景色の良いベンチで食べようとしたところ……。
え、鳩、鳩が寄ってくる!
雀もいる!
目の前の池には鯉、亀まで!
え、なんかデカいの来た、アオサギ(体高一メートル)? マジで?
いつか教科書で見た仏様の涅槃図よろしく、集まってきた様々な動物たちに、サンドイッチを狙われる僕。
しかし、パンパンっと手を叩く音が背後から響いたかと思うと、動物たちはあわてて逃げていった。
「晶城寺さん……!」
音の主は、テイクアウトの袋を下げた総務の晶城寺さんだった。
「たまにこう蓮ノ谷さんのように集られているかたを拝見します。この公園でランチをとる際の洗礼の儀式のように」
「あはは……」
このまま公園で食べるのは危険だと判断し、彼女と一緒に会社まで戻ろうとして。
途中で見つけたパフェ専門店の店頭にある看板に、ついつい惹かれてしまって。
そして、先日の青海君との会話が思い出されて……。
『主任、ケーキとか食べるんですね』
『あはは、気にはなるんだけど、ケーキとかスイーツ系って大抵かわいいお店でしょ。おじさん一人だと中々行きにくくてね〜』
やはりこういう店は、アラサー男子にはハードル高いよなあ……。
そんな風に考えていると、背後から晶城寺さんが声をかけてくる。
「蓮ノ谷さん『まるごと!あまおうスペシャルマウンテンパフェ』気になりますか」
「え、あ」
心を見透かされて……ていうかわかりやすい行動はとっていたけど……あわてる僕に、彼女はこう提案してきた。
「ここ婚約者がオーナーと友人なんでパフェお試しサービス券ありますからぜひ」
「え、すごいね! そうだ、挙式は今年の秋だっけ。改めまして、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。ですからお気になさらず感想をいただければオーナーも喜びますし」
「は、はい……ではありがたく……」
〜 回想ここまで 〜
そしてその後、晶城寺さんのサービス券でパフェを頼んで。周囲に女性客しかいない場違い感にドキドキしながらも美味しくいただいていたところ。
つい今しがた、部長の車に乗っている青海君を目撃してしまい……今に至る。
パフェは八割がた片付いたんだけど……そのあとがどうしても進まない。
まぎれもなく美味しくて、もちろん全部食べられるお腹の余裕はある。
だけど、青海君のことがどうしても気にかかってしまって……。
先に食べ終わった晶城寺さんがお手洗いで席を外している間に、なんとかしなくちゃ。
気合いを入れて、残りの生クリームを一匙すくったところで……突然、左右に誰かが座ってきた。
「見ちゃいました? 見ちゃいました?」
甘ったるい香水の匂いが襲ってくる。
僕を挟む、若い女性が二人。
うわ、確か、こないだランチした総務の女性社員のうちの二人……だと思うけれど……誰だっけ?
「こんにちはぁ、蓮ノ谷さん。総務の愛佳ですぅ。小坂部愛佳ぁ」
「同じく、尾上麻穂、です」
「あ、こんにち、は……」
「蓮ノ谷さん、こんなパフェ食べる人だったんですね?」
「「か-わ-い-い-!」」
総務の二人は唱和するように叫び、こちらに体を寄せてくる。
ウッ……香水が正直辛い……。
ていうか一種のセクハラじゃない……? これ……僕に対して……。
「それにしてもぉ、さっきの車、派手な黒の。営業部の鳥越部長の車、ですよねぇあれ」
「でもってえ、助手席は、企画広報室の青海さん……でしたよねぇ?」
「蓮ノ谷さんのとこの……」
「蓮ノ谷さん、あれ、ご存知でしたかぁ?」
青海君の名前が出たところで少し冷静さを取り戻した僕は、企画広報室の主任としての顔を作る。
「もちろん知ってるよ、営業動画関係の業務でね。部長がどうしても青海君を借りたいって言うものだから」
ニコッと爽やかな大人のスマイルも大盤振る舞いだ。
「なーんだあ、あたしてっきり……」
何気なく小坂部さんが僕の腕に自分の腕を絡ませてくる。セ、セクハラ……。
スマイルを崩さずに、それとなく彼女の腕を外しながら先を促す。
「てっきり……何、かな?」
「鳥越部長ってえ、イケメンで大人で仕事できてぇ、話も面白いしモテて当然って人なのに」
「つきあってる女性の噂全く聞かないんですよ。何年も前に離婚されてるのは確かなんですけど」
「少なくとも会社内で部長にアプローチした人はみんな轟沈しててぇ」
……最近支社に来たばかりの僕より、内情に詳しいであろう彼女らがこういうからには、確かに鳥越部長に関してはその通りなんだろう。
だが。
「……それが青海君と、どういう関係があるのかな?」
すると小坂部さんが声を潜め、顔を近づけてきた。
「なーんか、二人の距離、近くありませんでしたぁ?」
君と僕の距離が近くなる必要はないけどね……。
ていうか、今の状態を会社の人間に見られたら、僕が噂になってしまいそうだ……。
そんなことを僕が考えていると、総務女子二人は、とんでもないことを言い出したのだ。
「青海さんってぇ……」
「部長の隠し子」「部長がパパ」
「……って噂、あるじゃないですかぁ」
なんだそれは。
「……隠し子とパパってどう違うの?」
「パパってぇ、パパ活のことですよぉ! お金援助してもらう代わりにカラダを……みたいな?」
なん……だって……ぇ……?!
思わずスマイルが売り切れそうになる。
「部長ってぇ、男性のほうがお好き……なんじゃないかなぁって話もちらほら聞くんですよぉ」
「噂だと、どこかの支社の幹部の人と昔お付き合いしてらしたとかぁ」
「アイドルと見紛うような美少年とぉ、仲良さそうに空港で会っていた報告もありますしぃ」
……我が支社の噂の発信源って、この子たちもその一部なんじゃあ……と辟易してきたところ。
「小坂部さん尾上さん蓮ノ谷さんをあまりからかわないことですよ」
晶城寺さん……! 救いの女神が戻ってきてくれたのだ。
「晶城寺さんてば、結婚控えてるヒトのくせにぃ〜。こういう時は独り身に譲るべきですよぉ〜」
「ただ純粋にパフェをご一緒しただけですから」
彼女らの意識が先輩社員に向いたのを機に、少し椅子を引いてそれとなく彼女らから距離をとり、体勢を整える。
「うん、僕が頼んだんだ。こういう可愛らしい店は、なかなか男だけだと入りにくいからね」
「じゃあじゃあ、今度はあたしに頼んでください〜! 蓮ノ谷さんならいつでもおっけーですぅ」
小坂部さんはそう言うと、すかさずスマホを取り出し、LINEのID交換を求めてきた。
結局、尾上さんとも同様に交換する羽目になってしまった。
晶城寺さんの申し訳なさそうな表情に、こちらこそあしらいが下手ですみません……と、内心頭を下げた。
※※※
なんとか昼休み時間内に帰社したのち。
それとなく青海君に事情を確認しようとはしたけれど。
僕自身もなんだかんだと忙しくて……。
話しかけられないまま、あっという間に夕方の会議時間になってしまった。
ならば、その会議後。鳥越部長に聞いてみようとチャンスを狙ったが。
さすがに彼はたくさんの人に捕まりまくってタイミングが合わず。
そうこうしているうちに終業時間もかなり過ぎてしまい、オフィスに戻った頃には青海君は退社後で……。
……正直、気が進まなかったのは確かだった。
しかし、明日、明日のランチこそ……! と決意したのは良いが。
「あ、ああっ!」
そういえば、明日からゴールデンウィークじゃないか我が社……!
【続く】
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第十五話予告
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蓮ノ谷光彦です。
青海君が部長の車に乗っていた理由も聞けないまま、会社はゴールデンウィークに突入してしまった。
僕が勝手にぐるぐる悩んでいるちょうどその頃、連休初日。
青海君ってば、なんかおしゃれして……誰かに会ってるみたいなんだけど……?!
次回、第十五話「青海航也・蓮ノ谷光彦、それぞれ山に登る。」
あの山を登れば……青海君が、見える…….。
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【作者からのお知らせ】
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます!
この物語は週一回更新です。
次回十五話は2023年2月11日(土)22:00を予定しています。




